無能令嬢、【極東の悪魔】のもとに身代わりで嫁ぐ~「妹の代わりに死んでくれ」と親から言われたので、家から出て行くことにしました。でも嫁ぎ先の人たちは皆いい人たちで幸せです
【Side】四月一日 百春(五華族当主)
【Side】四月一日 百春(五華族当主)
ぼくの名前は
深夜、王城のラボにて、ぼくはひとりで付喪神の眼鏡の研究をしていた。
異能を解き、はぁ……とぼくはため息をつく。
「れいくん……」
思い起こされるのは、れいくんのこと。
さとるくんが連れてきた、とても美しい女性だ。
今……ぼくは彼女のことで頭がいっぱいだ。
今何をしてるんだろう……。
ぼくの異能【百目】は、無数の霊力の眼球を作り出し、操る能力だ。
目玉を作り、遠くにいる彼女の様子を見ることなんて、たやすい。
でも……異能を使って、のぞき見るのは……なんだかいやだった。どうしてだろう……。
「あなた」
そのとき、ラボの扉が開き、一人の美しい成人女性が入ってきた。
黒い着物を着て、頭に蝶々の髪留めを付けてる。
「【しき】じゃあないか」
彼女は【
名目上、ぼくの婚約者、となってる。
しきは微笑みながら、近くへとやってきた。
「なにか、うれしいことでもあったのですか、あなた?」
「うん! ぼくね、好きな人ができたのかもしれない!」
と、婚約者である、しきに向かって言う。
しきは目を丸くして……そして、ふっ、と笑った。
「おめでとうございます」
と、そういった。
「しき。今はぼく以外いないんだ。婚約者の【ふり】はしなくていいんだよ?」
「わかりました、【お父様】」
今度は、ぼくをお父様と、しきが呼ぶ。
しきの外見は、20くらい。
でも、ぼくをお父様と呼ぶ。
それは……彼女が人間では無く、ぼくに【作られた存在】だからだ。
「ぼく、さとるくんの婚約者を好きになってしまったんだ……」
「まあ……」
「そして、いつもみたいに百目を使って観察しようとして、できないんだ。どうしてだとおもう?」
しきは手に持っていた飲み物を、ぼくの前に置く。
微笑みながら言う。
「それは、相手のことが本当に好きだからでしょう」
「ほぅ、どういうことだい?」
「異能を使って相手をのぞき見る好意は、西の大陸ではストーキングといって、女性から一般的に嫌われる行為です」
「なんと!? そうなのかい!?」
「はい。書物にそう書いてありました」
「書物……? どんな書物なんだい?」
しきは上品に微笑みながら言う。
「BLです」
「びー……える? なにそれ?」
おっと、としきが口に手を置く。
「恋愛小説です」
「へー、きみそんなの読むんだ」
「はい。美少年×美青年のカプが好きです」
「ふーん……」
カプってなんだろう。
別に興味ないけども。
「話を戻しますと……お父様は本能的に、ストーキングしたら嫌われるかもってことを、理解なさったのでしょう。だから、百目でその御方を覗きみれなかったのでは?」
「おお、なるほど! そういうことかっ! 理解したよ!」
しきのおかげで、自分の心を理解できたぞ!
「ありがとう、しきっ!」
「いえいえ、フフフ。それにしても、先ほどのお父様は、本当に楽しそうでしたね」
「そう思う?」
「ええ、とても濃厚なモモ×サトでした」
「もも、さと? なにそれ」
「おっと失礼。
このこは時折、創造主たるぼくが理解できないことを言う。
それが、ま、面白いのだ!
「悟様とあんなに楽しそうに喋ってるところ、久しぶりに見ました」
「そうかな?」
「ええ。そうですよ。薄い本が厚くなるやり取りでした」
どんなやり取りのことを言ってるんだろう。
「それに、レイさまとも。まさか、お父様の研究目標を理解なさってくださるかたが、いるとは思いませんでしたね」
「ほんとね。あれにはびっくりしたよ」
ぼくが、この国のために、研究してるってね。
「意外と理解してもらえないんだよね」
「しょうがないです。みな、お父様はご自分の知的好奇心を満たすために研究してると思ってますし」
誰もが、そういうんだよね。
心外だ。
「なんでそう思われちゃうんだろう」
「普段の言動ではないでしょうか? 普通の人は、研究のために自分の命を張ったり、妖魔を舐めたりしませんよ」
「なに! そうなのかい?」
「ええ、そうなのです」
まじかー。
「お父様を変人という偏見の眼で見ずに、そして貴重な宝具を貸してくださる。とても、良い方ですね」
「君もそう思うかい?」
「はい、しきは、とてもあのお方を気に入りました。あのお方がしきのお母様になってくださったら、嬉しいです」
「でも、そうすると婚約者であるきみは、お役目ごめんになるけど、いいのかい?」
しきは、ようするに偽装婚約者だ。
周りが、早く子供を作れ、嫁を取れといってきて、うるさいのだ。
だから、しきを婚約者として、扱ってるのだ。
本当はぼくが作り上げた娘なんだけども。
「しきは、お父様の恋を、全力応援いたします。そして……やきもちを焼いた悟さまと、お父様との濃厚な絡みが増えることを切に願うしきであります。腐腐腐」
男同士のからみに興奮を覚えるなんて、ほんと、変な娘だなぁ。
ま、何はともあれ!
ぼくはれいくんが欲しくてたまらない。
そのために、さとるくんとは衝突することになるだろう。
なにせ彼は、恋のライバルってやつだからね。
ぼくは、負けない。絶対にれいくんを、手に入れるぞ!
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