34 四月一日の当主 6



「さーって! れいくんから借りたこの宝具! 明日から、ガンガンしらべてくぞー!」 

「……明日から?」


 好奇心旺盛な百春さまが、どうして、調べ物をすぐしないのだろうか……。


「ほんとうなら今すぐ! 宝具を異能使って調べたいんだけどねー。制限があるからさ」


「制限……ですか?」


「うん。装備型能力者は、一日に異能が使える回数が決まってるんだ」


 装備型能力者は、能力が安定して発動できる(異形にならない)反面、一日の使用回数に制限があるそうだ。


 ちなみに寄生型は、能力が不安定だけど、使用回数制限はない(霊力を使いすぎると、

体を妖魔に乗っ取られるリスクはあるけど)


 転生型は、能力が安定して発動でき、使用回数制限が完全にないそうだ(霊力がつきても妖魔に乗っ取られない)とのこと。


「ぼくもれいくんみたいな、転生型がよかった~。そしたら、24時間365日、ぼくのこの百目の異能を使って調べ物できるのに~」


「ご、ご冗談を……一年間寝ずに調べ物するというのですか?」


「え、うん」


 ま、真顔……。

 本当に調べ物がお好きな方みたいだ。


 それもこれも、全部極東に住んでいる人たちの、便利で快適な暮らしのためというのだから、感心してしまう。


「異能を使わずに調べ物はできないのですか?」

「できるけど、相手は宝具だからねー。並の機器じゃ調べられないかな。やっぱ百目が使えないと」


 ……極東のために、頑張ろうとしてる、百春さま。

 何か私……お力になれないだろうか。


『使えるよ』


 ……そのとき、ふと、私の脳裏に女性の声が聞こえてきたのだ。


「!? だ、だれ……?」

「どうした、レイ?」


 サトル様も、百春さまも、首をかしげてる。

 研究室には、私以外に女性がいない。


 ……今のは、誰の声だったんだろう。


『ふふ♡ 姉さんの声、聞こえるようになってきてるみたいだね』


 ねえ、さん……? だれ、ですか……?


『異能を使いだしたことで、君は覚醒しだした。まもなく君は……姉さんの力を自在に使えるようになるよ』


 いったいだれ……?

 姉さんのチカラって……?


 ぽわ……と、私の目に、何かが映る。

 百春さまの、首からぶら下げてる霊廟れいびょうに、霊力の光がともって見えたのだ。


 霊廟れいびょうを凝視すると、無数の目玉が集合した妖魔が……見えた。


「!? こ、これって……」


 私は、今、眼鏡の宝具を身につけていない。

 百春さまに貸して、今、彼が眼鏡を身につけている。


 霊力、そして、体内(装備型の場合は霊廟れいびょうだけど)の妖魔を見るためには、宝具が必要なのに……。


 バカな私ひとりでは、この謎を、解明することができない。

 ここは、百春さまのご意見をうかがおう。


「あの、百春さま、異能、使えるようです」

「? だから、ぼくの異能は使用制限されてて……」


 するとサトル様が、遮るように言う。


「試してみろ。寄生型とちがって、妖魔に体を乗っ取られるリスクはないだろ?」


 サトル様が、そうやって、私をアシストしてくださった……。

 私の言ってることが、明らかにおかしいのに……。

 

 百春さまは「ま、試すだけなら」といって、霊力を消費し、異能を使おうとして……。


 彼の周りに、光点が出現した。

 目玉にも見えるそれは、明らかでに……百目の異能。


「なにぃい……!?」


 周りの研究員さんたちも含め、全員が驚愕している。


「一日の使用制限を超えて、異能が使えるだってぇえ!?」


 今自分の体に起きてる現象に対して、百春さまは驚き……そして、歓喜していた。


「なんでだろうっ! 調べないとっ!」


 彼の周りを、光の眼球が取り囲む。

 うきうきしながら、調べ物をする。


「わかった! れいくんのおかげみたいだっ!」

「わ、私……ですか?」


「君、さっきぼくの霊廟れいびょうを、呪禁じゅごんを使ってなおしただろう?」

「は、はい……」


「あれのおかげで、ぼくは使用回数が増えたみたいだっ!」


 百春さまが霊廟れいびょうを持ち上げる。


霊廟れいびょうには、今、れいくんの霊力が施されてるんだ」

「まあ……呪禁じゅごん使用には霊力が必要だからな」


 と、サトル様が言うと、百春さまがうなずく。


「多分そのとき、れいくんは【ザシキワラシの異能】が発動したんだと思う」


 相手に幸運をもたらす、という能力だ。


「ザシキワラシの能力は、正確には霊力を与えたものに、幸運をもたらすというもの」


 そうえいば、サトル様や朱乃さんたちんに、異能を使った(霊力を使った)結果、霊力凌駕10倍になっていた。


 霊力の上昇も、使用回数の増加も、どちらも異能者にとってはうれしい事柄。


 ザシキワラシの異能は、そんな風に、だれかを幸せにするチカラ、と考えればつじつまがあう。


「君は本当に、幸運の女神だねっ! ますます、君をぼくの側におきたいよっ!」


 がっ、と彼が私の手を掴んで、お顔を近づけてくる。


「って、れいくん! それ! 百目の異能じゃあないかっ!」


 百春さまが私の背後を指さす。

 そこには……光る眼球が浮いていた。


 確かに、これは百春さまの異能だ……。


「百春さまが発動させたやつでは?」

「違うよ! 今ぼくは異能を解いてる!」


「じゃあ……どうして百目の異能が発動してるのですか……?」


 百春さまは少し考え込んで、言う。


「それが、ぬえの能力なのかもしれない」

ぬえの?」


「ああ。異能を模倣コピーする。それが……ぬえの異能かも」

「異能の、コピー?」


 こくん、と百春さまがうなずく。


「コピー能力だって!?」


 と、サトル様が驚愕なさってる。

 えっと……。


「どうしたのですか? 何か……おかしなことでも?」

「い、いや……。レイよ。模倣コピーの能力を持つ妖魔、異能者は、いまだ……発見されたことはないのだ」


「え、ええっ!? そ、そうなのですか……?」

「ああ……。まさか、ぬえ模倣コピー能力だったなんて……」


 で、でもまだ、それは確証があるわけじゃあない……。


「詳しく調べてみる必要があるね。でも……ぬえ模倣コピーの妖魔だとすると、色々合点は着くよ」


 ぬえは、無貌の妖魔といっていた。


ぬえが相手を模倣し、姿を変えられるとしたら……文献事に記述が違うことに説明が付く」


 他者の姿や能力をまねられるのなら、色んな姿があっても、変じゃあない。


「れいくんは、【異能殺し】【超幸運】【模倣コピー】。この三つの能力が使えるってこと……だね!」


「どれも凄い能力だっ! レイ、おまえはほんとうに最高だなっ!」


 いろんなことが今回のことで分かった。

 でも……まだ、謎は残ってる。


 たとえば、鵺。

 コピーなんて強い能力なのに、どうして、歴代の鵺の異能者たちは、無能扱いされてたんだろう。


 他者の能力を、コピーするのに、何か条件がある、とか?


 それに、あの『姉さん』を自称する女性の声は、一体……?

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