30 四月一日の当主 2



 改めて、四月一日わたぬき 百春ももはるさまを見やる。


 身長は、かなり低い。

 150くらいだろうか。


 童顔、真っ白な肌、そしてぱっちりとした二重。

 一見すると女性にしか見えない外見をしていらっしゃる。


 でも胸はなく、腰もくびれていないので、男のかたというのがわかる。

 白衣をきて、首からは、彼の霊廟れいびょうをぶら下げている。


「あらためて、よろしねー! れいくんっ!」

「は、はい……」


「ぼくは君に、とぉっても会いたかったんだ……! 君は、実に面白いサンプルだからねっ!」


 ずいっ、と四月一日わたぬきさまが顔を近づけてくる。

 ち、近い……。


「適切な距離を保て、百春ももはる

「はいはい、わかってるよー」


 サトル様が私を抱き寄せ、彼から私を守るようにしてくださる。

 ……これは、その……私を守護するために抱いてるのであって……その……。


「なんだか、れいくんの心拍数がトンデモナイことになってない?」


 ぎょっ、としてしまう。

 彼の周りに、無数の光球が浮いているのだ。

 その球の中心には瞳孔があって、どこか……眼球を想起された。


「し、心拍数もわかるのですか……その、異能を使ってるから?」

「そのとおり。ぼくの異能は【百目】」


「ひゃくめ……」

「文字通り目玉の妖魔さ。いろんな眼球を使って、色々な角度からモノを調べられるんだよー」


 ふわふわ、と光の球が私の周りにやってきて、取り囲んでくる。

 リアルの眼球と違って、水晶玉に近いので、あんまり怖くは……ない。


 キョロキョロとせわしなく動いてるさまは、小動物みたいで、ちょっと……


「可愛い……」

「れいくんって変わってるね」

「そ、そうでしょうか……」


「うん。普通はこの百目の異能はキモがられるんだよ」

「そうなんですね。普通に、可愛いと思いますよ」


 じっ、と四月一日わたぬきさまが私を見つめてくる。


「な、なんでしょう……」

「れいくん……君、実に面白い! ぼくは変わってるものが大好きなのさっ!」


 またしても、よくわからないうちに、人から好かれてるようだった。

 こちらの国のかたは、みな友好的に接してくださる、優しい人が多いな。


百春ももはるよ、レイは渡さないぞ」


「でもまだ婚約であって、挙式はしてないんでしょー?」


「だがレイは俺の花嫁になるべくやってきたのだ。絶対に、渡さない」


 ぎゅっ……と強くサトル様が私を抱きしめてくださる。

 ……この御方に、強く求められると……胸が熱くなる。


 体のチカラが抜けて、幸せな気持ちになる……。


「ま、その話は追々で」

「追々もなにもレイは俺のだっ」


「今日は、れいくんの異能について調べるのが目的だったね!」


 こくん、と私はうなずく。

 私は、私のチカラについて、何も知らなすぎてる。


 私は……きちんと把握しておきたいのだ。

 なにが、どれだけ、できるのか……。


「ぼくの見立てだと、君は異能を複数所持してる」

「サトル様もおっしゃっていました。二つあると」


「いや、複数、だ」

「? どういう……」


 同じ意味ではないのだろうか……?


「ま、そこら辺もしっかり調べるとして……まずは霊力のテストをしておこう。着いてきたまえ」


 私たちは四月一日わたぬきさまとともに、研究室の奥へと進んでいく。

 すると……。


「とっても……大きいな時計ですね」


 見上げるほどの大きさの時計が、そこにはあった。


「これぞ、最強霊力測定器【はかるくん】だよ!」

「はかるくん……」


 可愛い名前……。


「はかるくんは、妖魔用の霊力測定器なのさ」

「! 妖魔用ってことは……妖魔の研究もなされてるのですか?」


「そのとおり。四月一日わたぬき家は【科学・研究】の分野を司ってる。【三雲】家と共同で呪具や科学道具の開発もするけどね」


「三雲……?」

「極東五華族の一つだ。彼らは【呪具の製造・開発・管理】を司ってる」


 私は極東五華族についても、何も知らない。

 今のところ、一条家が東都の守護くらい。


「残りの二つの家について、何をしてらっしゃるたちなのでしょう?」

「二ノ宮と五十嵐いがらしについては……まあ、そのうちわかるんじゃあない? 一条家とも繋がってるし」


 二ノ宮……それに、五十嵐いがらし……か。

 本当に私って、何も知らないな……。


「落ち込むことはない。これから、いっぱい知っていけば良い。俺の隣で、この先ズッと暮らしてくのだからな」


 サトル様が後ろから抱きしめてくださる。

 ……そうだ、もう、私は西の大陸に行くことはない。


 サトル様のお側で……死にたい。


「ところ構わずいちゃつくねー、君ら。妬けるよ」

「す、すみませんっ!」


「ま、いーけど。よし、セット完了。こっちきてー」


 私は、はかるくんの前へとやってきた。

 小さな水晶玉を、四月一日わたぬきさまが差し出してくる。


「その水晶を握って、霊力を込めてみて。測定した霊力が、この時計盤に表示されるから」


 時計盤には数字が描かれていた。

 そして、針もついてる。


 測定した霊力を、この針が指し示す形なのだろう。

 ……思い出すのは、一条家で霊力を測ったときのこと。


「あ、あの……四月一日わたぬきさま」

百春ももはるでいいよ。そう呼んでほしいな」


「は、はい……百春ももはるさま。これ……壊れないでしょうか?」


 にこーっと、百春ももはるさまが笑う。


「大丈夫! これは人間用じゃなくて、妖魔用の測定器だからっ。絶対に、100%、壊れないから!」

「で、でも……水晶玉は壊してしまいましたし……」


「大丈夫! どんな妖魔の霊力を測っても、壊れたのない、頑丈な測定器だからさ。壊れる心配はないよっ! 安心して、全力の霊力を込めてみて!」 


 百春ももはるさまが凄い自信を持って、そうおっしゃる。

 なら……壊れない……だろうか。


 私は不安に思って、サトル様を見やる。


「大丈夫だ、レイ」


 大丈夫みたい……。


「結界で、おまえたちがケガしないように防ぐから」


 壊れることを、前提にしてないですか……?


「なんだい、さとるくんはこの測定器を、れいくんが壊すと思ってるの?」

「ああ。俺のレイを舐めないでほしいな」


「ふふっ、そっちこそ! ぼくのはかるくんを舐めないでほしいねっ! どっちが強いか……勝負だっ!」


 な、なんだか妙なことになってる……。

 けれど、そうだ。霊力量はちゃんと把握しておかないと、駄目だ。


 それに……手加減したら、百春ももはるさまを侮辱することにもなる。

 ……よし、全開で。


 ぐるんっ!


「……は!? は、針が……い、一周した!?」


 グルグルグルグル……!


「一周どころではないぞ!?」

「こ、これは……ま、まずい……!」


 ……測定器の針は何周も回った後、測定器からは煙がでて……。


 どがんっ!

 と、小さく爆発を起こしてしまったのだった……。

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