31 四月一日の当主 3




 百春さまをはじめ、科学班の皆様が驚愕してる。


「信じられない……!」

「妖魔の霊力量は、人間を凌駕してるというのに……!」

「妖魔よりも霊力量が多いってことだろ!? 凄すぎる……!」


 ど、どうしよう……。

 また壊してしまった……。


「れいくんっ!」

 

 がっ! と百春さまが私の手を掴む。

 ああ、怒られる。


「素晴らしい……!!!!!!!!」


 ……と思ったら、全然怒っていなかった。

 むしろ、喜んでる?


 頬を赤く染め、子供のように、きゃっきゃとはしゃいでる。


「妖魔を凌駕する霊力量の持ち主なんて! 守美すみさん以外にいなかった!」


 サトル様のお母様も、同じくらいの霊力量を持っていたってこと……?

 守美すみさま……凄い人だったんだ……。


「そもそもこの測定器は、その守美すみさんの霊力量を量るために開発されたモノ!」


「ぐ、具体的にはどれくらいだったのですか?」


「五〇〇万……!」

「……!?」


 れ、霊力……五〇〇万。

 サトル様の今の霊力量は、一五万だった。


 三〇以上の、霊力量を、守美すみさんはお持ちになられていたんだ……すごい……。


「いやいや、凄いのはレイだ。母上の上を行く霊力量……つまり、五〇〇万以上の霊力量を持ってるということだからなっ!」


 サトル様が私をぎゅーっと抱きしめてくださる。

 ……この御方は、私が何をしても、こうして抱きしめてくださる。


 ……私ごときを。

 最初は、恐縮していたけど、でも、最近こうやって抱きしめられることに、幸せを感じる自分がいる。


 彼を近くに感じて、心がぽかぽかしてくるのだ。

 

「霊力五〇〇万以上ってとんでもないよ! あの【白面】に匹敵するんじゃあないかな!?」


「はくめん……? なんですか?」


「歴史上、最も強いとされる大妖魔のことさ! そいつは……」


 すると……。


「百春、黙れ」


 サトル様が、百春さまの言葉を遮ってそう言ったのだ。

 見上げると、サトル様が……今まで見たことないくらい、険しい表情をしていた。


 どうしてそんなに、怒っていらっしゃるのだろうか……?


「花嫁にはまだ一条と白面の因縁については、話してないんだ?」

「…………いいから、黙れ」



 史上最強の大妖魔と、一条家に、どんな因縁があるっていうのだろう……?


「レイ。すまない。そのことについては、まだ……言えない」


 私の胸に痛みが走った。

 まだ、私は一条家に認められていないってこと……。


「ちがう、そうじゃあないんだよ。心の準備を、済ませてから、おまえには言いたい」


 サトル様にとって、白面のことは、言いたくないことなのだ。トラウマ……なんだろうか。


 私に黙ってる、ではなく、まだ言えないというだけ。

 教えてくださるおつもりではあるようだ。


「わかりました」

「追求しないのか?」

「はい。サトル様が、教えてくださるまで……私は待ってます」

「レイ……おまえは、本当に聞き分けのいい娘だな!」


 ぎゅーっ、とサトル様が抱きしめてくださる。

 ああ……好き……。


「しかし……実に面白いね、れいくんは!」


 ずいっ、と百春さまがお顔を近づけてくる。


 その瞳は、晴れた日の星空のように、キラキラと輝いていた。


「君のその異常な霊力量、その根源を是非知りたいね!」

「根源……?」


「つまり、君の中にいる妖魔についてだよ!」


 そうだった、当初の目的は、私の中にいる妖魔を調べることだった。


「そもそも、体の中の妖魔って、普通はどうやって調べるのですか?」

「昔はね、手探りで調べてたんだ」


「手探り?」

「ああ。能力を実際に使って、能力から逆算して、何の妖魔だってね」


 でも、それって……とても難しいのではないだろうか。


「たとえば火の異能を使えるとしよう。火の妖魔なんてたくさんいるからね。火車だったり、えんらえんらだったり。特定は普通難しい」


 能力だけがわかっても、妖魔まで特定するのって、実質不可能に思えた。

 体の中なんて、のぞけないのだから。


「極東五華族や、王族は、親や先祖から異能(妖魔)を引き継ぐケースがあるから、ある程度、判別しやすいんだ。一条家の霊亀や、百目鬼どうめき家の鬼だったりね」


 強い異能は遺伝することもある、というらしい。


「突発的に強い妖魔を引くこともあれば、弱すぎて何の妖魔かわからないこともある。でも……わからないじゃあ困るわけだ。この異能社会ではね」


 確かに、自分の異能を知らずに日常生活を送っていて、それで、ふとした拍子に無自覚に強い異能を使って人を傷つける……なんてことがあったら大変だ。


「ということで、異能の判別方法については、昔から試行錯誤されてきたわけ。で! ついにぼくは! 体内の異能を調べる機械を完成させたのだ!」


 へへん、と百春さまが誇らしげに胸を張る。


「あいつは変わってるが、凄い技術者なのだ。極東の歴史1800年あまりの中で、異能を調べる機械を創り、完成させたのは、やつが初めてなのだよ」

「それは……すごい……」


 でも……。 


「それって眼鏡の付喪神さまの宝具があれば、判別可能ですよね?」


 科学班の皆様が、ざわつく。

 え、え? どうしたんだろう……?


「れいくん。教えてあげるけど。付喪神から宝具を貰うなんて、不可能だから」


「ど、どういうことですか?」

「付喪神は神霊。神に近しい存在。ぼくたち人間は神々の声を聞くことも、視認することさえできないんだよ」


 前にサトル様がおしえてくださった。


「対話ができない相手である、付喪神から、宝具を貰うなんて無理に決まってるのさ」


 するとサトル様は胸を張って言う。


「レイは宝具を貰ったぞ」

「なんだって!? う、嘘だろうっ?」


「本当だ。そうだな、レイ? 見せてやれ」


 私はうなずいて、言われたとおり、付喪神さまからいただいた、眼鏡の宝具を見せる。


 百春さまはそれを手に取る。


 彼が【百目】の異能を発動させ……。


 どさっ! とその場に仰向けに倒れたっ。


「し、しんじられない……! ほ、宝具だ……ま、まちがいなく……!!!!」


 どうやら、百目の異能を使って、これが宝具だと判定したらしい。


「その眼鏡をかけると、対象の霊力と、妖魔を視認できるようだぞ」


 百春さまが立ちあがろうとして、ガクン、とその場で腰を抜かした。


「だ、大丈夫ですかっ!?」


 私は彼を抱き起こす。


「信じられない……こんな、小さな眼鏡に、そんな凄まじいチカラが込められてるなんて……!!!!」


 そもそも、彼の異能があれば、中の妖魔や霊力は測れるんじゃあないだろうか……。


「ぼくの異能では、中にいる妖魔まで判定はできないよ……!」

「お、お作りなられた判別装置をつかえば、見えるんですよね?」


「まあね! ついてきて!」


 百春さまは私たちを連れて、となりの研究室へとやってきた。

 貴族の、ダンスホールくらいの大きな部屋の中に、見上げるほどの巨大な筒? のような装置があった。


「これが、体内妖魔測定装置なのさ……!」

「こ、こんなに大きな機械が必要なんですね……」


「ああ、普通ならね! でも……この眼鏡があれば、こんな馬鹿でかい機械と、膨大な量の電力は、必要ないわけだ!」


 四月一日さまがまた倒れてしまったっ?


「ぼくの予想を遥かに超えることが! 次から次に起きてる! ああ、なんで素晴らしいんだっ!」

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