28 極東の王 5
極東王さまを、元に戻した後……。
私たちは謁見の前へとやってきた。
「レイっ、レイっ、れーい~」
……私の膝の上には、りさと姫が座ってる。
ニコニコしてて、とても幸せそうだ。
「やっぱりうちに来なさい!」
すると私の隣にぴったりくっついてるサトル様が、微笑みながら言う。
「りさと姫、それは無理なご相談です。レイは俺の花嫁ですから」
「や! レイはアタシの花嫁になるっ!」
え、ええと……。
「あ、あの……りさと姫」
「りさとで良いわよっ!」
「そ、そんな! 恐れ多いです……」
「他のやつが呼び捨てにしたらたこ殴りだけど、レイは特別! だってレイはアタシの花嫁になるんだからっ!」
いや、だから……その……。
「お、恐れながら。結婚は、その……異性同士でするものでは……?」
「? 何言ってるの? 極東では同性婚認められてるわよ?」
え、ええっ?
「そ、そうなんですか……?」
「そうだぞ」
とサトル様がうなずく。
わ、私の居た西の大陸では、同性婚を認めていなかったのに……。
こっちでは、違うんだ……。
「だからレイはアタシの嫁!」
「はっはっは。何を言ってるんですか。レイは俺の嫁です」
「や! レイはアタシの!」
「俺のです」
お二人がにらみ合ってる。
ど、どうしよう……。
で、でも……私は、そんなことを言われても、やっぱり……。
「りさと。おいで」
「はーい! お父様っ!」
りさと姫は素直にうなずいて、極東王さまの隣へと座る。
極東王はりさと姫の頭を撫でる。
「レイは悟のお嫁さんだから、我慢なさい」
「むぅ~……。お父様がそうおっしゃるなら……」
お父さんの言うことを、素直に聞くりさと姫。
本当に、父親のことが好きなんだ。
「ありがとう、レイ。君のおかげで、こうして……また娘とふれあうことができるようになったよ」
極東王さまがりさと姫をなでながら、私に微笑みかける。
「もったいなきお言葉です」
「ふむ……言葉だけでは足りないな。君に、プレゼントを贈ろう」
「プレゼントなんて要りません! 見返りが欲しくてやったのではないのでっ!」
りさと姫が「レイは嘘言ってないよ」とおっしゃる。
「
「うん! わかるわ! だってレイは、心がとっても綺麗な! とっても良いやつだしっ!」
りさと姫の異能、【
でも私の異能殺しは、
彼女に私の心は読めないはず……。
でも、極東王さまはうなずく。
「たくさんの心の内側を見てきた、彼女がそういうんだから、そうなのだろう」
「そーよ! 誇りなさい、レイ! あんたはとっても綺麗な心してるわ! その美しい見た目にぴったりのね!」
なんか、こちらが申し訳なくなるくらい、褒めていただけた。
「そうでしょうとも。レイは身も心も美しいのですっ」
サトル様が喜んでくださっているのが、私にとっては、凄くうれしかった……。
「ならば……君には【大能力者】の称号を与えよう」
「……? だい、のうりょくしゃ……?」
また、聞いたことのない単語だ。
サトル様が目をむいている。
「だ、大能力者……!? れ、レイを……大能力者にしていただけるのですか!?」
「ああ。レイはそれに相応しい力を持つからね」
ええと……。
「サトル様、大能力者とはなんですか?」
「極東にいる能力者の中で、飛び抜けて強い力を持つ、能力者のこと」
能力者の最高峰……ってことだろうか。
って、ええっ!?
「わ、私がだ、大能力者、ですか?」
「そうだよ、レイ。君は五番目の、大能力者だ」
極東にあまた居る能力者の中で、トップ5に、私が入ったという意味となる!
「お、恐れ多すぎます! 私ごときが、五指に入る能力者認定されるなんて!」
「いや、当然のことだ。レイは異能を二つ持っているうえ、
「しかし……私は異国の能力者ですよ?」
「出自は関係ない。大能力者の定義は、【国家転覆、あるいは国家防衛が可能な異能を持つ】だからね。君がいればどちらもたやすい」
転覆なんてする予定は今のところみじんもない……。
「現在の大能力者は四名。
……一条?
ということは……。
「サトル様も、大能力者なのですか?」
「そのとおりだ! レイ、凄いぞ!」
がばっ、とサトル様が私を抱きしめてくださる。
「一条家は、大能力者を二人抱えることになる! これで家は安泰だし、黒服達も安心して外を出歩ける!」
大能力者を、二人抱えることの意味を、正直私は毛ほども理解していない。
……でも、黒服さんたちが、安心して外を出歩けるようになるっていうのは、うれしい。
「しかし、俺はいいのですが、他の極東五華族たちが、この状況、黙ってないですよね?」
「そうだね。でも、今回のことは早晩、五華族当主たちの耳に入る。レイの等級付けがされていないと、彼らが無理にでも彼女を手に入れようと躍起になってくるだろう」
「だから、奴らがレイ獲得に動き出す前に、レイに大能力者の称号を与え、手を出しにくくするのですね」
と、サトル様と極東王さまの二人だけで、話がどんどんと進んでいってしまう……。
あれ……?
「あの、五華族って、
「そうだ。五華族は、あくまで最高権力を持つ5つの家のこと。ここに、十文字たちは入っていない。彼奴らは家が、というより、個人が強い感じだな」
ということは……。
「家柄も強く、大能力者を二人抱える一条家って……かなり特殊ではないですか?」
「そう! 一条家は強力な家柄、そして異能、その二つを手に入れたわけだ! これでもう、一条の家に異を唱えるやつは居なくなったのだ!」
黒服さんたちが外に出歩けるようになるというのは、こういうことなんだ……。
一条家の強い力に、誰も刃向かうことができなくなるから……。
「レイ、君を大能力者に認定する。これからは、その力を、一条の家だけでなく、極東の民のためにも、ふるってもらえるとうれしいな」
極東王が真剣な表情でそうおっしゃってきた。
……そうだ。
国からのお墨付き、権利をもらったということは、その分、大きな義務が伴うということ。
……重い。
私一人だったら、押しつぶされてしまいそうなくらいだ。
「安心しろ。俺がいる。おまえの側にいて、ずっと……おまえを支える」
サトル様が私の手に触れる。
勇気を、もらえる。
「わかりました。大能力者の称号、謹んで、お受けいたします」
こうして私は王様を助けた結果、極東で五指に入る、大能力者として認められることになったのだった。
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