27 極東の王 4
目の前に居るのは、極東の王、
ハクタクという妖魔の姿をしてる……。
でも……なぜ妖魔の姿に?
それに、体中に施されてる、鎖や、杭はいったい……?
『君の疑問に答えて上げよう、レイ』
頭の中に、極東王さまの声が響く。
不思議な、声だ。聞いてるだけで落ち着いてくる。
『まずわたしは、君と同じ転生型能力者だよ』
「つまり、妖魔の生まれ変わり……?」
『そのとおり。もっとも、前世が妖魔というだけで、人間の姿はしてるんだ。本来はね』
「では、なぜ今そんなお姿に?」
『寄生型能力者と同じさ。強すぎる妖魔の力を、人間の器で受け止められなくなったのだよ。ハクタクは大妖魔だからね』
「あの……大妖魔ってなんなのでしょうか?」
『妖魔は強さに応じて、等級が付けられているのさ。一番下は三級。そこから、準二級、二級、準一級、一級……そして、その上が大妖魔』
つまり、極東王さまは、最高位の妖魔の生まれ変わりということ。
でも、その大きすぎる妖魔の力を、人間の肉体では制御できなかったと。
『数年前、りさとが生まれてすぐ、わたしは体調を崩してしまってね。気づけば……妖魔の姿のまま。人間に戻れなくなってしまったのだ……』
ぎゅっ、とりさと姫が唇をかみしめているのが、わかった。
『ごめんね、りさと。君を、抱いて上げられなくて』
「ふんっ! べつにいいしっ! あたし、もう大人のレディですしっ? 抱っこなんて……別にいいし!」
そんなの、嘘。
彼女はまだこんな小さい。
お父さんに……いっぱい、甘えたくってしょうがないはずだ。
『王の力が暴走し、こうなってしまったことを、表に出すわけにはいかない。この件を知ってるのは、
サトル様と、
『普段人前に立つときは式神を使っている。だから……まあ、なんとかなってるのだよ』
なんとか、なってる?
これの、どこが?
「……あの、極東王さま。どうして……お体に、鎖や、杭が打ち込まれてるのですか?」
『簡単だよ。わたしの意識は、妖魔に浸食されつつあるからだ』
「!? 浸食……」
『今はこうして理性を保ててるけど、夜になり、陰の気が高まると、わたしはバケモノになってしまう。日増しに、人間で居られる時間が減ってきている。……もうまもなく、人間出会ったことを忘れ、完全なバケモノになってしまうだろう』
「そん……な……どうにか、ならないのですか?」
『ならないね。病気というわけでもないし』
……なんとか、して、さしあげたい。
りさと姫は、お父さんに甘えることができない。
極東王さまは、娘を抱っこして上げることも、できない。
……ああ、駄目だ。やっぱり、黙ってみてられない。
私ごときが、何を思い上がったことを、と言われるかも知れない。
でも……でも……!
「レイ」
ふわり、とサトル様が私の肩を抱いてくださる。
「言いたいこと、言ってごらん?」
「サトル様……」
「レイがやりたいことを、やればいいと思う。なにか、してあげたいのだろう?」
サトル様は……私を、理解してくださってるようだ。
サトル様が、私に勇気をくれる。
彼が、後ろにいる。なんて心強い……。
もし駄目でも、彼なら……私を許してくれる。
「王様。どうか、あなたに触れさせてはいただけないでしょうか?」
極東王さまが首をかしげる。
『悟? どういうことだい?』
「報告書にありますとおり、レイは俺の家の寄生型能力者を、人間に戻すことができました。おそらく、レイは同じことを、あなた様にもしようと思ってるのかと」
『! そうか……異能制御能力を、付与できるんだったね。ただ……転生型の妖魔は、寄生型よりも……強い。制御できるようになるか……』
するとサトル様ははっきりと、まっすぐ前を見ていう。
「レイなら、あなた様を、元に戻すことが……できます!」
……どうしよう。すごく、すごく……うれしい。
サトル様に……こんなに、信じてもらえることが……。
屑で、無能な、私のことを……。
……私には、自信がない。でもサトル様が、自信をくれる。
「王さま。どうか……私に、やらせてください!」
サトル様の信頼に、答えたい。
りさと姫を、笑顔をして上げたい。
『……………………わかった』
長い沈黙の後、極東王はうなずく。
『お願いするよ、レイ』
「はいっ!」
私はうなずいて、王のお側へと近づく。
ぴしっ、パキィイイイイイイイイイイイイイイイイン!
「鎖と杭が壊れた!? なんで!?」
「レイの異能殺しの力が発動したのだ。王を押さえていた封印が……解けたのだろう」
「それって大丈夫なわけ!?」
「……ああ、大丈夫だ。レイなら」
王を縛る鎖がとけて、ハクタクの……巨体がむくりと起き上がる。
『ぐ、が、あが、がぁああああああああああああああああああああ!』
極東王さまが獣のようにうなる声を上げると……。
『にん、げん……ころ、すぅううううううううううう!』
巨木と見まがうほどの、巨大な前足が、私めがけて振り下ろされる。
「レイ! 逃げて……!」
「大丈夫だ! 俺を信じろ、レイ!」
……信じる。
私は……サトル様を!
巨大な足が私を押しつぶそうとする。
けれど……。
ばうんっ!
「なっ!? お、お父様の体が、後ろに吹っ飛んだ!?」
「俺の結界だ」
「結界!?」
「はい。レイの体の周りに、結界を張った。そして結界の堅さを変え、ゴムのように柔らかくしたのです」
その結果、反動で王様が後ろへと吹っ飛んだのである。
「で、でもレイは異能殺しの力が常に張ってあるから……悟の力も消えちゃうんじゃないの……?」
「ええ、ですから……渾身の霊力を、結界に……そそぎ、ました……。消される都度、結界を張り直し……く……!」
がくんっ、とサトル様が倒れる。
今すぐ、彼の元へ行きたい。でも……彼が作ってくれた、チャンス。
私は……そのチャンスを逃したくない。
サトル様のために。
倒れてる極東王のもとへ。
その額に、私は……自分の額を重ねる。
お願い……治って……!
瞬間、極東王の体が、強く光りだした。
みるみるうちに、王のお体が縮んでいく……。
やがて、そこには一人の、白髪の美青年が倒れていた。
裸身をさらす、そのお姿は……確かに人間。
「お父様ぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
りさと姫が極東王のもとへかけ、そして抱きつく。
「わたしは……元に、戻れたのか……?」
「うん! うん! レイのおかげだよぉ!」
涙を流す、極東王さまのもとへ、私は賭けより、
「レイ……! ありがとう! 君は、わたしの命の恩人だ! ありがとう!」
「ありがとぉ! レイぃ……!」
良かった。皆、幸せにすることができて……。
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