24 極東の王 1



 あくる日、一条家にて。

 私は、朝からそわそわしていた。


「レイお嬢様あまり動かないでください」

「あ、ご、ごめんなさい……」


 私は私室の、鏡の前に座ってる。

 私のお化粧を担当してるのは、百目鬼どうめき 朱乃あけのさん。


 つい、そわそわしてしまうのだ。


「ねえちゃーん」


 朱乃あけのさんの弟、蒼次郎君が部屋に入ってくる。


「悟にいちゃんが、そろそろ準備いいかーって」

「もう少しよ」


 朱乃さんが最後の仕上げをしてくださる。

 私は鏡の前で座り、待つ。


「ねーえ、レイちゃん。なーんでそんな緊張してるのさー?」

「だ、だって……極東王様に、呼び出されたので……」


 先日。

 サトル様が、こうおっしゃったのだ。


『レイよ。明日、俺と供に極東城へ行くぞ』

『え? お、王様のお城に……ですか? いったいどうして?』


『極東王が、おまえに会いたいんだそうだ』


 ……極東の王さま、か。


「どんなかたなんだろう……?」


 異能大国、極東の王様なのだ。

 きっと、ものすごい異能者だろうことは想像に難くない。


 ……私のような、異国の異能者を、快く思っていなかったらどうしよう……。


「だーいじょうぶだよ、レイちゃん。【九頭竜くずりゅう】さま優しいもん」

「くずりゅう……?」


「王様の名前。【九頭竜くずりゅう 白夜びゃくや】さま」


 朱乃あけのさんがお化粧しながら、補足説明する。


「九頭竜家っていうのは、この極東を代々納めてきた一族なんです。白夜さまは、今代の当主で、とてもお優しい御方ですよ」


「びゃくやさま……」


「我々のことも平等に扱ってくださるんです」


 寄生型能力者は、この極東では、【悪魔】と呼ばれてる。

 能力を制御できずに、異形となってしまうからだ。


 朱乃さんたちの顔を見ると、嘘や、おべっかでそういってるようには思えない。


「前においら、白夜さまに御菓子もらったんだー」

「アタシも、真紅郎しんくろう兄さんと一緒に、悟様をよろしくって頭を下げられました」


 あ、じゃ、じゃあ……怖い人じゃあないのかも……。良かった……ホッ……。


「はい、お化粧完了です!」

「ありがとうございます」


 朱乃あけのさんは本当にお化粧が上手だ。

 彼女のおかげで、私はなんとか、人前に立てる。


朱乃あけのさん、いつも……綺麗に着飾ってくださり、ありがとうございます」


 はふ……と朱乃あけのさんがため息をつく。


「やっぱり素材がいいと、おめかししがいがあるわー」

「わかるー! レイちゃん普段からきれーだけど、おけしょうするとめちゃくちゃきれーだもんねー!」


 百目鬼どうめき姉弟は、本当にお優しい人たちだ。

 そんな彼らが信頼を寄せる相手、極東王……九頭竜 白夜さま。


 なら……そんなに酷いことは、されない……かも。だと、いいな。


 私たちはそろって部屋を出る。

 玄関ではサトル様がすでに待っていた。


「綺麗だぞ」


 開口一番、そんなことを、おっしゃってくださる……。

 うれしくて、つい……顔が赤くなってしまう。


「あ、ありがとうございます……」

「う、うむ……」


 好き、と私はこないだのデートで、サトル様への思いを再認識した。

 ……私ごときが、彼を好きになっていいとは、思わない。


 けど……胸の高鳴りは押さえられないのだ。


「「ほほ~……」」


 朱乃あけのさんと蒼次郎そうじろうくんが、楽しそうにニヤニヤしてる。


「こないだのデートで、さらに親密になったようですね~」

「レイちゃんも悟にいちゃんも、顔まっかだぜー!」


 さ、サトル様も……?

 彼は慌てて蒼次郎君の口を塞ぐ。


「さ、い、いくぞ……レイ。おまえたちも」

「「はーい!」」


 どうやら今日は私とサトル様、そして百目鬼どうめき兄妹の、五人で城に向かうようである。


 真紅郎しんくろうさんは運転手、朱乃さんたちは私の護衛。


「こうしてお日様の下を、堂々と素顔をさらしてあるけるのは、レイお嬢様のおかげです。本当に、ありがとうございます」


 朱乃さんと蒼次郎君は、前のように顔を隠していない。

 太陽を仰ぎ見て、にこっ、と笑いながら、私に頭を下げる。


「いえ、当然のことを、したまでです。その……さ、サトル様の……花嫁……として」


 ちら、とサトル様を伺う。

 彼は顔で手をかくして、はぁ……とため息をついた。


「レイ。駄目だよ」

「え!? わ、私なにか粗相を……?」


「そんな、うれしくなるようなことをいったら……俺は、もう心臓ドキドキで、仕事にならん……」


「わ、私なにか変なことを言ったでしょうか……?」

「いや、いいんだ。気にしないでくれ」

「でも……」


 真紅郎しんくろうさんが車からでてきて、苦笑しながら言う。


「いちゃつくのでしたら、どうぞ車のなかでしてください。皆が見てますよ?」


 振り返ると、黒服の皆さんが、にこーっと温かい目で私たちを見てる!?


 い、いつの間に……?


「お嬢様、いってらっしゃーい!」

「今日はお刺身料理ですよー!」

「早く帰ってきてくださいねー!」


 黒服さんたちが手を振って、お見送りしてくださる。

 本当に、皆さんサトル様を押したいしてるんだろう。


「いやいや、レイよ。みなおまえを見送ってるのだよ」

「いや、サトル様を見送ってるのでは?」


「いや、レイだよ。あいつらは俺より、レイの方が好きみたいだし。な、おまえらー?」


 すると黒服の皆さんが真剣な表情になる。


「悟ぼっちゃまと、レイお嬢様……どっちがすき……だと?」

「難しい……どっちも同じくらい好きだし……」


「えらべないよぅ~」


 真剣に、そんなことをおっしゃってくださる。

 皆さん……。


 私のこと、好きって……思ってくださってるんだ。

 ……うれしいな。


 ……サトル様は、どうなんだろうか。

 いつも好きって言ってはくれている。でもそれが本心かは、わからない。


 誰にも、心の中なんてのぞけないのだから、しょうがない。

 サトル様はお優しいから、私が好きかって聞いたら、好きだよって言ってくださる、かもしれない。


 でもそれは、本心かどうかはわからない。私の境遇に同情して出た言葉なのかもしれないし。


 ……知りたいな、サトル様の、お心の中。


「では、行くぞ。極東城へ。王のお目通りと、レイの能力の検査をしに」

「はいっ! ……はい?」


 私の、能力の検査……?

 

「前に言っただろう? おまえは、二つの能力があるかもしれないと」

「そ、そういえば……」

 

 異能殺しと、霊力10倍にする。その二つの異能があるかもと。


「王城には科学班がいる。そこの班長が、おまえに会いたがってるのだ。王への挨拶の後に、そいつに会いに行く。それが今日の予定だ」

「わ、わかりました」


 王様は、いい人そう。でも……その科学班の班長って、どんなかたなのだろうか。

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