第20話 染める本
「『ゆらぎノート』の表紙は…」
「これはもっと厳密に!表紙は三回染める必要があるの。最初は特に均一にしないと、後の層が乱れてしまうから。」
彼女が熱心に製品の染色ポイントを説明する様子を見て、なぜ彼女が夜にこっそりと部室に来ていたのかが分かった。これらの細かい点は、おそらく彼女が何度も試行錯誤した結果だろう。
「あ、もう一つ忘れてた。」彼女は突然止まった。「染色時間を記録しておかないと…」
「これは僕がやるよ。」と言った。「君は染料のことに集中して。」
「本当に?助かる!」千紗は嬉しそうに言った。「でも、まずはラベル付けをしなきゃ。」千紗はラベルシールの束を取り出した。「各布に用途と染色順序を記入しないと。」
ラベルシールを受け取り、そこに細かく書かれた項目を見た:染色回数、濃度、時間…これらは記入すべき項目だ。
「これは…」
「実験で考えたもの。」彼女は誇らしげに言った。「これで異なる用途の布を間違えないようになるの。」
僕は笑いながら言った。「意外と几帳面なんだね。」
「もちろんよ。」彼女は口を尖らせながら、目を大きく開いた。「じゃあ、スケジュールを整理しましょう!」
時計を見た。「うん。」
「今じゃないよ。」彼女はバッグからカレンダーを取り出した。「これは全体の製作工程のスケジュールなの。順番に見ていこう。」
彼女はカレンダーに丸をつけながら言った。「まず『ブルーリフィルキット』から始めるの。数が一番多いから。次に『ゆらぎノート』の表紙、これは特に時間を取って…」
月明かりの下で、彼女は集中してカレンダーに印をつけていった。突然、冷たい風が窓から吹き込んでカレンダーの一角をめくった。
タイムテーブル(10月中旬~11月中旬):
10/14-15(土日):材料準備、染料調合
10/16-20(月~金):第一弾「ブルーリフィルキット」(10個)
10/21-22(土日):製作工程のチェック及び修正
10/23-27(月~金):第二弾「ブルーリフィルキット」(10個)
10/28-29(土日):『ゆらぎノート』の前期準備
10/30-11/3(月~金):『ゆらぎノート』製作(15本)
11/4-5(土日):試験セット(10組)
11/6-8(月~水):クラブサバイバルパック(8個)
11/9-10(木金):最終チェック及び整理
11/11(土):文化祭
「ブルーリフィルキット」:20個
・一日染め4-5個で良い
・各品質を確保する
「ゆらぎノート」:15本
・表紙は特に丁寧に
・各ノートは独自の藍染模様
試験セット:10組
クラブサバイバルパック:8個
・このサイズは大きめで、製作に時間がかかる
「このスケジュール、どう思う?」千紗がぎっしりと書き込まれたノートを指さした。
彼女の計画をじっくりと見つめた。「『ブルーリフィルキット』を二つの製作単位に分けて作るのは確かに安定してるね。中間で品質もチェックできるし…」
「そうなの!」彼女は、小さくうなずいた。「こうすれば、どれも完璧に染められる。それに見て、この週末に材料を全部準備すれば、来週は染色に専念できるのよ。」
カレンダーに目を落としながら言った。「11月6日の午後はリハーサルがあるんじゃないか?」
「あ!」彼女は眉をひそめた。「それならクラブサバイバルパックを早めに始めなきゃ…」
突然、廊下から足音が聞こえた。僕たちはびっくりした。
「この時間にまだ誰か来るの?」小声で尋ねた。
千紗は首を振り、緊張した表情を浮かべた。
足音がどんどん近づき、クラブ教室のドアの前で止まった…
「誰だい?」警備員の声が聞こえた。
「あ!警備員さん!」千紗はほっと息をつき、急いでドアを開けに走った。
「ああ、君たちか。」警備員さんが懐中電灯を持ってドアの前に立っていた。顔には半分真剣、半分困惑の表情が浮かんでいた。「こんな遅くまで学校にいるのか?」
「すみません!」千紗は急いで説明した。「私たちは文化祭の企画を準備していて、資料を探しに来ただけです…」
「文化祭?」警備員さんの口調が少し和らいだ。「今年は特別だって聞いたよ。」
「はい!それに私たち工芸部は…あ!」千紗は突然口を押さえた。「それはまだ言えません!」
警備員さんは彼女の反応に笑った。「分かった、もう質問しないよ。でも、」彼は時計を見ながら言った。「あと15分で学校は閉まるから、そろそろ片付けなきゃ。」
「分かりました。」千紗は素直にうなずいた。
警備員さんが去った後、僕たちは急いで荷物を片付けた。千紗は重いノートを、慎重にリュックにしまい込んだ。
「また別の日に研究しよう。」と言った。「月は逃げないし。」
「うん…」彼女は少し失望した表情を見せたが、頷いた。
校門を出ると、夜風が少し冷たく感じられた。空の月は、いつの間にか薄雲の帳に包まれていた。
「柊原くん、」千紗が突然話し始めた。「月明かりの下でしか見えないものがあるって信じてみる?」
僕は少し考えて答えた。「たぶんね。」
「じゃあもし…」彼女の声は興奮に満ちていた。「もし私たちが藍染めでそんな効果を実現できたらどうする?」
「つまり…」
「そう!」彼女は興奮して振り向いた。「さっき見た和服みたいに!日光の下では一つの模様、月明かりの下では別の感じに!」
彼女の輝く目を見ながら、微笑んだ。
「柊原くん?」彼女は頭を傾けて僕を見た。
「あ、別に。」眼鏡を押し上げて答えた。「ちょっと考えてただけで、試してみる価値はあると思ったんだ。」
「本当?」千紗が嬉しそうに言った。
「うん。でもその前に、」前方を指した。「一つ問題がある。」
「何の問題?」
「最後のバスがもうすぐ来るんだ。」
「アッ!」彼女はバス停の方に気づいて叫んだ。「急いで!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます