第19話 月明かりの糸

 「とても綺麗…」千紗が小さく言った。


 本当に美しい。昼間に見たものとは全く違い、月明かりが藍染めに神秘的な質感を加えていた。


 「なるほど、藍染めは月明かりの下ではこんな風に見えるんだね。」僕は思わず言った。


 「うん!」千紗がうなずいた。「おばあちゃんは、月明かりは藍染めを見るのに一番適していると言ってた。だって…」彼女は突然止まった。


 「なぜ?」


 「だって…」彼女は首を傾げながら考え込んだ。「私もあまり覚えてないんだ。おばあちゃんのノートには書いてあったみたいだけど、あの数ページはもう見えなくなっちゃった。」


 僕は彼女の少し残念そうな表情を見つめ、慰めようと何か言いたかったが、彼女はすでに鍵を取り出した。「中に入って見てみよう。」


 千紗は暗闇の中、窓辺に歩み寄り、さっとカーテンを開けた。月明かりが一気に室内に降り注ぎ、部屋全体を照らした。


 「実はね、」彼女は何かを探しながら言った。「アイデアが思いついたの。」


 「どんなアイデア?」


 「もし…」彼女は棚から一束の布を取り出しながら言った。「『ブルーリフィルキット』に、月明かりの下でしか見えない模様を作ることができたらどうかな?」


 「え?」


 「見つけた!」千紗の声が僕の思考を打ち切った。彼女は一本の厚いノートを抱えていた。


 「いいね、じゃあまず材料を確認しよう。」


 月明かりの下、部室にはかすかな藍の香りが漂っていた。僕たちは作業台を囲み、記念品作りに必要な材料を確認し始めた。


 「『ブルーリフィルキット』に必要な布地は…」千紗はノートをめくりながら言った。「今回は三つの異なる厚さを注文したから、それぞれの手触りをテストしなきゃ。」


 僕はサンプルの布を一枚手に取った。「この触感、いい感じだね。」


 「見て、この厚さなら、バッグにしても柔らかすぎず、硬すぎずちょうどいいね。それに見て…」彼女は布を月明かりに当てながら言った。「繊維の織り目がしっかりしているから、染色も均一になるはずだよ。」


 「でも、量は足りるかな?」僕は彼女がリストアップしたリストを見る。「こんなに多くのスタイルを作るとなると…」


 「心配いらないよ。」彼女は棚を開け、整然と積み重ねられた布を指さした。「これらは全部、事前に準備しておいたものだよ。あ、まだある!」彼女は何かを思い出したように、棚の奥深くを探りながらしゃがんだ。「これは、『ゆらぎノート』の表紙用に特別に用意した布だよ。」


 「分けて整理しないといけない?」


 「うん!」彼女はうなずいた。「まず用途別に分けて、それから…あ!」


 「気をつけて!」僕は彼女の手に揺れそうになっている布の山を見て、急いで支えた。


 「ごめんね…」彼女は恥ずかしそうに笑った。「ちょっと興奮しちゃった。」


 僕たちは布を分け始めた。『ブルーリフィルキット』の布は厚さ別に三つの山に分け、『ゆらぎノート』の表紙用の布は特別に注意を払い、他のアクセサリー用の小さな布も丁寧に分けた。


 「次は染料…」千紗は別の棚を開け、さまざまな器具が並んでいるのを見せながら言った。「今回は染め桶をいくつか準備しないと、色の濃淡別に分ける必要があるんだ…」


 「この染め桶は濃色系だね。」千紗は隅にある大きな染め桶を指さした。「ここに二つ、淡色系を準備して…あ、そうだ!」


 彼女は突然別の棚に走り寄った。「染め桶ごとの配置を記録しなきゃ。」


 僕は彼女が新しいノートを取り出して、日付と時間を書き込むのを見た。彼女がこれほど整理整頓ができるとは思わなかった。


 「染め桶の濃度は毎回正確に調整しないと、色が落ちやすくなっちゃうから。」彼女は説明しながらページをめくった。


 月明かりが窓から千紗の真剣な横顔を照らしていた。


 「だから、」僕は彼女のノートを見て言った。「『ブルーリフィルキット』は三つの異なる濃度で染めるの?」


 「そうなの。」千紗は目を輝かせながら言った。「だって、パーツによって色の濃淡を変える必要があるでしょう。ほら、ここを見て…」彼女は設計図を広げた。「この部分は薄めの色で染めるの。そうすることで全体に立体感が出るのよ。」

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