第18話 藍の予感
学校へ戻る道、夕陽が空を暖かいオレンジ色に染めていた。
「だから、」佐藤先輩が歩きながら千紗のノートを見つめて言った。「まず『ブルーリフィルキット』から試作する?」
「うん!」千紗が頷いた。「最近、天気が涼しくなって、たくさんの同級生がホットドリンクを買うから、実用性をテストするのにちょうどいいんだ。」
「でも染色の部分はもう少し試さないといけないかも、」僕は考えながら言った。「染料の濃度をしっかりコントロールしないと、色落ちしやすくなっちゃうから。」
「それは分かってるよ!」千紗が突然足を止め、バッグからもう一冊古いノートを取り出した。「おばあちゃんのノートには特別な説明が書いてあるんだ…」
彼女は素早く特定のページを開き、そこに書かれた文字を指さして読んだ。「『染め終わったら十分に酸化させて、インディゴを安定して付着させること。最後に冷水で徹底的に洗い流し、表面に残った未固定の染料を取り除くこと…』」
「これで色落ちしないの?」僕は興味津々で尋ねた。
「おばあちゃんが言うには、これでも完全じゃなくて、強アルカリで洗うと色が褪せることもあるんだって。」千紗は話しながらページをめくり、間違えて数枚の紙を床に落としてしまった。
僕は彼女を助けるために腰をかがめ、黄色くなった手描きの図を拾い上げた。図には奇妙な染色模様が描かれており、隣には理解し難い記号がいくつか記されていた。
「これは…?」
「あっ、これね、」千紗は図面を受け取りながら言った。「おばあちゃんが以前研究していた特殊な染め方だよ。でも、ほとんど分からない部分が多いの。」
白銀先輩が近づいてきて一目見た。「これらの記号、ちょっと見覚えがあるような…」
「え?先輩、知ってるんですか?」
「いいえ、」彼女は首を振った。「たぶん、見間違えただけかな。」
僕は白銀先輩の表情に何か違和感を感じたが、彼女はすぐに普段通りの優雅な笑顔に戻った。「明日の放課後、部室に集合しよう。材料を準備しておくから。」
「こんなに早く始めるの?」千紗が緊張しながら尋ねた。
「時間は待ってくれないよ、」白銀先輩が言った。「それに…」
「それに?」
「あなたたちの完成品を見るのを楽しみにしているんだ。」彼女は意味深に言った。
別れる時、すでに夜は完全に暗くなっていた。佐藤先輩が文具を買いに行くと言い、白銀先輩も生徒会の用事を処理しなければならなかった。
「その…」他の人たちが遠くへ行った後、千紗が突然僕を呼び止めた。「柊原くん、もう少し私と一緒にどこかへ行ってもらえますか?」
「今?」
彼女はうなずいた。「部室を見に行きたいの。」
「この時間?」
「うん…」彼女は頭を下げてリュックのストラップをいじりながら言った。「今行かなければ、何か大事なことを見逃す気がするの。」
僕は彼女の真剣な表情を見て、ふと何かが分かった。時には、直感が理性よりも大事だということを。
「いいよ。」
夜の校舎には、どこか懐かしい静けさが漂っていた。廊下には点在する蛍光灯しかなく、おそらくどこかの運動部がまだ練習をしているのだろう。
「こっち。」千紗が小さな声で言った。
工芸部の教室は古い校舎の二階にあり、廊下の床は年月を経て軽いきしみ音を立てていた。窓越しには、星のように点在する街灯が校舎内を照らしていた。
「階段に気をつけて。」僕は注意を促した。千紗はいつも少し不器用だ。
「ありがとう…あ!」彼女は突然足を止めた。
「どうしたの?」
「見て!」彼女が部室の窓を指さした。
月明かりが窓を斜めに照らし、展示ケースに当たった。その藍染めのストールは月の光の下で不思議な模様を浮かび上がらせ、まるで波紋が広がるように見えた。
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