第12話 染み出る想い

 「ねぇ、このお店のオーナーさん、以前ファッションデザイナーだったんだって。」千紗が瞳を輝かせながら話し始めた。「デザイナーの方たちがよく集まるみたいで、面白いアイデアがたくさん聞けるんだよ。」


 そうなのか。デザイナーが集まる場所なら、何か新しい発見があるかもしれないな。


 「それに、あそこのティラミスが絶品なの。」千紗は両手を合わせながら言った。彼女の表情には、すでにその味を知っている者特有の幸せな懐かしさが浮かんでいた。


 角を曲がると、センス良く装飾された小さな店が目に入った。店名は「ミントチョコレート」。看板には可愛らしい手描きのスイーツが描かれ、大きな窓からは、店内にヨーロッパ風のアンティークなテーブルと椅子がいくつか並んでいるのが見える。午後の柔らかな日差しが、温かな雰囲気を演出していた。


 「柊原くん。」千紗が突然ショーウィンドウを指差した。「あれ見て!」


 目を向けると、独特なデザインのカップがあった。深い青色の釉薬の上に、水墨画のようなにじみ模様があり、照明の下でほのかな輝きを放っている。その佇まいは、どこか懐かしさと新しさが融合したような不思議な魅力を放っていた。


 その時、店の入口から優しい声が聞こえた。「中に入ってみませんか。」


 「麗子さん!」千紗が嬉しそうに駆け寄るように挨拶した。


 店主は上品な雰囲気の女性で、深い青色のワンピースを身にまとい、まるで静かな湖面のような気品が漂っていた。


 「この子があなたが言ってた飛び級生のクラスメートね?」彼女は穏やかな笑顔で視線を向けてきた。「あなたが柊原くんね。」


 「そうですね。」少し驚きを隠しながら答えた。「千紗が僕のことを話したんですか?」


 「ええ。」麗子さんは優しく微笑んだ。「この前、やっと自分の弟子を見つけたって、とても嬉しそうに話してたわ。」


 千紗は顔を真っ赤にしながら、目の前のスイーツを見つめた。言葉を選びながら、ゆっくりと口を開く。


 「実は、わたしたちにいくつかアイデアがあって。」


 「聞かせてちょうだい!」麗子さんは新しく淹れた紅茶を差し出しながら言った。香り高い蒸気が立ち昇る。「文化祭の企画についてかしら?」


 「さあさあ。」麗子さんは店内に招き入れるような仕草をした。「ちょうど今日、布デザインをしている友人たちが来ているの。きっと何かヒントが見つかるわ。」


 千紗と目が合い、互いにバッグからノートを取り出した。彼女は中のデザイン図が折れないよう、まるで宝物を扱うかのように慎重にページをめくっていく。


 「これは最近開発している『ブルーリフィルキット』です。」千紗は最初のページの図案を指で示した。深い海の色をイメージした青が特徴的なドリンクホルダーだ。千紗の瞳には抑えきれない期待が輝いている。


 「ただのホルダーじゃないんです!ここを見てください。」


 彼女は詳細図を開いた。「全体のデザインは三点固定システムを採用しています。底部には特製の凹型があり、カップ底に完璧にフィットするんです。中段は調節可能な弾性バンドで、色んなサイズのカップに対応できます。上部はこの調節可能なマジックテープで、揺れやこぼれを防止できるようになってます。」


 「それに、この底部には特製の吸水シートを敷いているんです。」千紗は指先で底部を軽く叩きながら、まるで大切な秘密を打ち明けるように続けた。「このシートは超細繊維で作られていて、冷たい飲み物の結露をすぐに吸収してくれるんです。」


 「これなら、飲み物を置いても水滴が溜まらないし、テーブルやバッグが濡れる心配もありません。そして、ここの透明なカードポケットは学生証のサイズにぴったりで、直接タッチできるんです。もう探し回る必要はないんです。後ろには隠しコインポケットがあって、マグネットボタンで片手で開閉できるようになってます。」


麗子さんは静かに頷きながら、若いデザイナーたちの情熱に耳を傾けていた。

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