第11話 甘い誘惑
「見習い?」林さんが目を大きくした。「柊原くんが?」
「ふふ、学ぶ相手は私だよ!」千紗は誇らしげに言った。「それに…」
「ごめんなさい、」急いで彼女の言葉を遮った。「まだ材料を買わないといけないんだ。」
千紗を連れて急いで去る時、背後から囁き声が聞こえた。
「柊原くん?」千紗が心配そうに覗き込んできた。「顔が真っ赤だよ。」
「急にそんなこと言うなよ、誰だってそんな反応するさ。」仕方なく足を速めた。
校門近くの屋台を通り過ぎると、食べ物の香りが漂ってきた。千紗が歩きながら立ち止まった。
「お腹すいてる?柊原くん?」
「いや。」
「でも私、お腹すいてるから、ちょっとスナック買おうよ。」
結局、二人はそれぞれおやきを一つずつ手に取り、忙しい商店街を通りながら話を続けた。放課後に街を歩く学生たちを眺めながら。
「すごく美味しそう!」千紗が突然立ち止まった。「柊原くん、スナック食べない?」
「え?」手のおやきを見ながら言った。「それは…。」
前方のベーカリーでは放課後の特売が行われており、焼きたてパンの香りが秋風に乗って漂ってきた。ショーウィンドウ越しには、制服姿の学生たちが新作パンを求めて賑わっていた。
「でも、材料屋さんが…」
「まだ間に合うよ!」千紗はもうメープルバターパンを掴み、興奮気味に言った。「ここのメープルバターパンは本当に美味しいって聞いたんだ!」
店内に入ると、賑やかな雰囲気がすぐに迎えてくれた。
「あ!最後のメープルバターパンだ!」千紗が興奮して手を伸ばしたが、別の人とも同時にパンに触れた。
「千紗?」
「先輩!」
それは佐藤先輩だった。彼女はすでにたくさんのパンを抱えていて、部活のための購入をしているようだった。
「君たちも部活のスナックを買いに来たの?」佐藤先輩が尋ねた。
「違うよ、私たちは文化祭の材料を買いに来たんだ…」千紗は途中で言葉を止め、急に振り返って言った。「あ、やっちゃった!柊原くんに相談もせずに勝手に決めちゃった!」
彼女の悩んだ表情を見て、思わず微笑んだ。「せっかくここまで来たなら、一緒に材料屋さんに行こうよ。佐藤先輩はもっと詳しいだろう?」
「いいアイデア!」佐藤先輩が目を輝かせた。「それに、この…」彼女はポケットからチラシを取り出しながら言った。「見て!」
「文具街の特売会?」
「うん!」佐藤先輩が興奮しながら言った。「今週末の再入荷の布と道具が全部割引だよ!みんなに伝えようと思ってたんだ。あ、そうだ!」
突然、佐藤先輩が腕時計を確認した。
「部活の打ち合わせがあるんだった。このチラシだけ渡しておくね。文具街の地図も裏に書いてあるから。」
「えっ、もう行っちゃうの?」千紗が少し寂しそうな声を上げた。
「ごめんね。」佐藤先輩は申し訳なさそうに微笑んだ。「でも、週末の特売会で会えるでしょ?それと…」彼女は千紗の手にメープルバターパンを置いた。「これ、千紗が先に見つけたんだから。私は他のにするわ。」
「先輩…」
佐藤先輩は二人に手を振りながら、「じゃあ、また明日ね!」と言って去っていった。
まだ手の中のパンを見つめている千紗に、「半分こする?」と声をかけた。
「え?」千紗が顔を上げた。「うん!」彼女は嬉しそうにパンを半分に分けて手渡した。「一緒に食べよう!」
「いいよ。」片手でそれを受け取った。
「ん?全然遠慮しないね。」
「何?」
「ううん、何でもない。」
数秒間見つめ合い、その後二人とも前方を見つめた。
「ねぇ、」千紗がチラシを覗き込みながら言った。「このデザートショップ、新しくオープンしたみたいだよ。寄ってみない?」
「え?材料を買いに行くんじゃなかったの?」
少し困惑した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます