第9話 藍に染まる未来図

 「なるほど、雨月おばあちゃんの研究ノートね…」


 「先輩が私の祖母を知っているの?」千紗は驚いた表情で尋ねた。


 「以前から聞いていたわ」と白銀先輩は言った。「彼女は若い頃、有名な染色職人だったって。特に特殊な技法に長けていたそうね」


 その時、生徒会のオフィスのドアが突然開いた。黒縁の眼鏡をかけた男子生徒が顔を出しながら言った。「先輩、予算の件ですが…」


 「ああ、ごめんなさい」白銀先輩は立ち上がった。「生徒会の用事を処理しなきゃ。でも…」意味深にこちらを一瞥しながら言った。「文化祭の件については、また後で詳しく話しましょう」


 生徒会のオフィスを出ると、千紗が突然袖を引っ張った。「あの、柊原くん…」


 「どうしたの?」


 「今夜、祖母のノートを整理するのを手伝ってくれない?」彼女の目が期待に輝いた。「いくつか理解できない部分があって…」


 その期待に満ちた目を見ると、断ることはできなかった。


 「いいよ、でもまず部室に行かないと…」


 「やった!」千紗は嬉しそうに走り出そうとしたが、急いで彼女を引き留めた。


 「待って、資料はこっちが持っているから」


 「あ…」彼女は恥ずかしそうに舌を出した。


 その時、廊下の端から騒がしい音が聞こえた。数人の運動着を着た学生が急いで走り過ぎ、一人が掲示板にぶつかってしまった。


 「気をつけて!」思わず叫んだが、遅かった。


 掲示板に貼られていたチラシの一枚が足元に舞い落ちた。拾い上げると、全国工芸展の宣伝チラシだと気づいた。


 「全国工芸展?」千紗は手を伸ばしてそれを見た。「すごそうだね…」


 「うん」内容を一瞥する。「来年の春に台南で開催されるみたいで、出展作品は伝統工芸の革新を示さなきゃいけないって…」


 「全国工芸展が台南で開催されるんだ…」千紗は考え込んだ。「毎年違う都市を選んでいるみたいね」


 チラシの紹介文をじっくり読んだ。「今年のテーマは『伝統工芸の新生』。出展作品は伝統技術の革新を示さなければならない…」


 「文化祭のテーマと似てるね!」千紗は突然目を輝かせた。「あ!いいアイデアが浮かんだ!」


 彼女は興奮して手を引っ張りながら工芸部の教室へ向かって走り出した。途中で数人の後輩にぶつかりそうになり、最後は人間バリケードとなって、無事に目的地に到達した。


 部室のドアを開けると、中島先輩が隅でデッサンを描いており、松崎さんと佐藤先輩がキャビネットを整理していた。


 「みんな!」千紗が息切れしながら言った。「文化祭の企画と全国工芸展を組み合わせることができると思うんだ!」


 「は?」中島先輩が顔を上げた。「もう少し詳しく説明してくれる?」


 「つまり…」千紗は手に持ったチラシを見せながら言った。「文化祭をリハーサルとして使うんだ!反応が良ければ、同じ企画で全国工芸展に参加するんだ!」


 「このアイデア…」少し考えてから言った。「実際、悪くないね」


 「それに」千紗は祖母のノートを開きながら続けた。「ここには台湾の伝統的な藍染め方法がたくさん記載されているの。各地の伝統工芸家たちの特殊な技法とか…」


 「待って」中島先輩が彼女を遮った。「そのノートはどこから手に入れたの?」


 「それは私の祖母の研究ノートだよ!」千紗は誇らしげに言った。「祖母は若い頃、台湾中を巡って様々な藍染めの師匠から学んだの」


 その時、白銀先輩が部室のドアを押し開けた。


 「面白そうな提案だね」白銀先輩は笑顔で言った。「でも、展覧会までにこれだけ多くの作品を完成させるのは時間的に厳しいんじゃないかな」


 「もう準備は始めてます!」千紗はノートからいくつかのデザイン図を取り出しながら言った。「これは初期の構想で、各作品は…」彼女は突然止まり、恥ずかしそうにこちらを見た。「あ、ごめんなさい、また急いで決めちゃいました」


 彼女の創造的なデザイン図と期待に満ちた目を見て、「デザイン図がもうできてるなら、続けよう」と答えた。

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