第54話

くじらさんは毎日のように来店している、ようだ。私のいない日も。単にハンバーガー好きな人なの?私のレジに並べないと悔しそうにしていた。


「思い出したんだけど、あのお客様前来てたことあったと思うよ」


「店長知ってたんですか?」


「うーん、昔学生らしい人とよくいた気がするよ」


「へー。常連さんだったのかー」


「まーやちゃんの入る前かもね」


ふーん。そーなのか。

休憩時間はとしきくんと一緒!嬉しいー


「坂下さん、あの人もしかして家にまで来てるんじゃない?」


「えー?やだぁ!それはないけど心配!としきくん、私怖いなぁー」


「店長と一緒に帰ったら?」


なぜ?あなたが一緒には来てくれないの?


「俺、そんな力ないし、店長がよさそうじゃん」


…なんだよ。私のために頑張れよ!


「それで、坂下さんは就職決まった?」


「え、全然」


なによ、話そらした!


「俺は留年だよ。また勉強しないと」


「そ、そっか…」


就職って言われても、なんとなくすごしてるし。このままここの社員でもなろうかなー。


とぼとぼ夜道を帰る。としきくんは私と帰ってくれない。シフト変えたら大学の講義に合わせたの意味なくなるし。


「あ!まーやさん!」


「う、なぜここに」


くじらさんは普通に町歩くわけ?


「店行っても会えなかったから、心配してました。でもよかった。元気そうで」


「私のバイト時間はめちゃくちゃですよ?講義に合わせてるから」


「そうですか。でも夜は1人で歩くの危ないですよ?物騒だし」


いやいや、あなたもその種類になりかねないんだけど。


「大丈夫です」


「そうですか」


「あの、店長が言ってたんですけど、うちの店に昔から通ってたんですか?」


「ええ、はい。学生のときに」


「私より年上のくせに敬語とか?やめてもらえます?」


「俺としたことが!女神にはなんかつい、敬いたくなるというか?」


「女神じゃないんですけど?」


「いや、まーやさんは女神だよ」


「あの、なんで私にこだわるんです?」


すると、くじらさんはしゃがんで私を見上げる。あなたは王子かなんか?


「君と出会ったことが運命だ!君の全てを愛したいんだ」


「そんな、突然言われてもピンとこないんですけど…」


くじらさんの顔を見る。髪ぼさぼさだけど、よく見たら…かっこいい?


「俺はまーやさんを大事に大切にします」


「じゃあ、いいですよ」


「ありがとうございます!」


「じゃ、帰ります」


「待った!俺と結婚するんでしょ?」


「え、いや、まだ」


「婚姻届書かないと!」


「私まだ大学生なんですよ?学校通わないと…」


「…夢が、あるの?」


「いや、…一応大卒って肩書き欲しい…」


「そっか…それまでは結婚は無理なのか…」


「付き合うならまだしも、結婚なんて…」


「俺ね、来週から海外行くから」


「え」


「遊んでる暇もないなー悲しい!」


「忙しいんですね」


「まーやさん、俺はいつ帰るかわかんないんだけど、待っててくれる?」


「え、脳がついてかないんだけど…」


「おやすみー、また明日」


行ってしまった。

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