第53話

注文した彼はさっさと食べて帰った。

なんだったんだろ…。仕事が終わり帰ろうとしたところ、店の前でまた彼を見かけてしまった。


「お客様。そんなところに立っていたら迷惑なんですけど」


「あ、バイト終わりですか?坂下…まーやさん?」


「まあやです」


うっかり名前教えてしまった…!すると彼は急に姿勢が正しくなった。


「申し遅れましたが、花田鯨はなだくじらと言います。よろくお願いします」


お辞儀なんかしちゃって。


「くじら?それあだ名ですか?」


「普通の名前です」


嘘くせぇー


「まーやさん。今日はお店に迷惑を、いや先日もですが、迷惑をかけてしまって申し訳ありません」


「わかってるならなんでするんですか?」


「それは、まーやさんに会いたかったからです」


「そんなこと言われても困るんですけど?」


「…結婚してるんですか?」


「してません!大学生です!」


「じゃあ結婚できますね」


「いや、私好きな人いるんですけど?」


「え、俺?」


「ありえないし。帰るんで、店の前でうろつかないで下さい」


「まーやさん、お疲れ様でした」


あの人なんなの?

次の日もバイト。


「あの変なお客様来てないよね…?」


憧れの彼に、かわいらしく聞く。


「誰?それ?」


「としきくん、私すごい絡まれて困ってるの…」


怖いから、助けて?そんで私と付き合いましょう?


「変なってどんな?」


「ええっと、また来るかわかんないし、来たら教えるね」


ふふ!彼と私と2人でレジなんだもーん!きゃー!


「いらっしゃいませ」


は!やっぱりあの人来た!私のとこに。


「テリヤキバーガーと…」


普通に注文。同じメニューを。


「あとスマイルもお願いします」


なんだその笑顔は。


「セクハラですけど、それ」


「すみません。まーやさん、ではまた」


それから普通に食べて片づけて帰った。まじ意味わからん!


「さっき帰った人、変な人でしょ?」


「普通そうだったけど、名前呼んでたね。ストーカー的な?」


「えーそうなったら怖い。1人で帰れるかなぁ…」


「店長に言ってシフト変えてもらったら?」


えー?一緒に帰ってよねー?

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