第51話

「あの、お客様?」


「金が、ないんすよ…」


「え、困りましたね…」


「両替とかできます?」


「それは…海外のお金、ですよね?」


「…そうです。すみません、帰ります」


もう、だめだ。腹が減ってやばい。どうする。どこで食う?どっかの食堂にたかりに行くか?店を後にして、のろのろと歩いていたところ、


「あの、すみません!」


振り返ると、さっきの子が追いかけてきていた。


「え、忘れ物しました?」


「よかったら、これ」


「え、…それは…」


今食べたいものナンバーワンではないか。


「倒れたら大変です。顔色悪いから…」


この人は女神なのか?神が、俺の目の前に現れた!彼女の持っているハンバーガーに手を伸ばし、彼女の手ごと一緒に握った。


「君は、俺の女神だ。結婚してくれ!」


「え?」



「それから、毎日のように通ったな」


「それ、すごいストーカーですよね。しかも初対面でそんなこと言ったらやばい人ですよ」


「まーやはな、優しくてさ~。なんで私にこだわるのって聞かれてさ~」


話聞いてないし。


「それで?」


「言ったとも!君と出会ったことが運命だ!君の全てを愛したいってね!」


「えー、信用できないですよ。怪しい」


「まーやは信じてくれたし!じゃあ、いいですよってね」


「えー、奥さんもおかしい人ですね」


「おい、まーやの悪口言ったら許さねぇからな」


「す、すみません」


お兄さん、奥さん崇めすぎ。そんで急に怖いんだけど。お兄さんは話し終わったあとは、店を任せてどこかに去って行った。その後、奥さんが帰ってきた。


「あら?優くん!珍しいねぇ、どうもありがとう」


「さっきお兄さんから奥さんがいかにすごいか話されました」


「まぁ、そうなの?」


「お兄さん、奥さん命ですね。でも、よくストーカーっぽい人と結婚しようと思いましたね」


「そーねぇ。そのとき、バイト先に好きな人いたんだけど、無理そうだったし、就活とかもめんどくさくなってて、ま、かっこいい人だしいいかな?って思っちゃって」


「え、適当。そんとき大学生だったんですね」


「そう。若さ故にね」


「…そう、なんですね」


「もう、あーんなに変わった人とは思わなかったよ。すぐ外国行くし、行った先でここに住むとかいきなり言うし。私は英語とか全然だめなのにね~」


そんなんでよくやってられたな。


「別れなかったんですね。偉いです」


「それがね、案外そういう自由奔放なとこもイケてる気がしたのよ?」


「あー、綾くんみたいな」


「そう!」


なるほど、お兄さんもそういうとこあるんだなぁ。


「真矢もそういうとこあるのよ?友達に勧められた私立に入学しちゃうし。そうそう、綾は知らない土地ですぐバンド組んじゃうのよ!」


「ぐいぐい行くんですね」


「そうなの」


「奥さんもぐいぐい行くじゃないですか」


「うーん、みんなの真似をしてる、かな?」


「あー、なるほど」


「そうだ!奥さんってちょっと恥ずかしいから、まーやって呼んでいいよ」


「いや、怖いんで真綾さんでいいですか?」


「怖い?まぁいいよ!優くんは年の差を感じないね~。話しやすいなぁ」


「それは、どうもありがとうございます」


真綾さんは、ちょっと前のギャルっぽくて、親戚のおばさんみたい。

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