いるかの兄

第42話

仕事をしていないと暇で仕方がない。ので、レッツおでかけ!と言う名の東京散策をしよう。今まで職場までと近所しか歩いてなかったし、ちょっと遠出することにした。

ぼーっとなんとなく歩いていたら、三つ編みの人とすれ違った。へー、男でも三つ編みとかするんだなーっと思った。


…でも、なんか見たことあるような雰囲気。てゆーか歩き方?


気になって振り返り、もう一度見てみる。

後ろ姿だけど、やっぱりこの雰囲気は…


「お兄ちゃん!?」


うっかり大声を出してしまった。


「あ?」


相手は振り返りこちらを見た。うん、やっぱり!


「私!いるか!わかる?」


「え、おま、なんで?」


「お兄ちゃんこそ、なんでこんなとこに?」


「いやいや、いるかこそ。お前奄美にいただろ?」


ふふーん。鼻高々に言ってやろうじゃないの。


「それがね~私って舞台女優になったの~。んで~東京に呼ばれてぇ」


「へー、そんでここにいるわけか」


あっさり受け流すとか。酷いんですけど。


「てゆーかメールしたよね?結婚したって」


「おお、そうだった」


お兄ちゃん、絶対忘れてたでしょ。


「んで、その人と一緒に来たわけよ!すごくない?」


「そうか。ま、元気そうでよかった」


あしらわれたし…。妹の話ちゃんと聞けっつーの!


「んで?お兄ちゃんはなにしてんの?遊び?」


「違うし。俺はなぁ、この辺住んでるしー」


「うっそ!どこ?」


「聞いて驚くな!俺の店は繁盛してだなぁ、地方にとどめられない売れ行きで、こっちに引っ越してきたんだぞ?すごいだろ?」


なにこれ自慢?


「どうせ今も奥さんに迷惑かけてんでしょ?」


「大丈夫だ!これ以上店は大きくしないしな!引っ越さないぞー」


「そうじゃなくて!また海外放浪したりしてんじゃないでしょーね?」


「それは放浪じゃなくて、買い付け。お仕事だぞ?」


「せいぜい奥さんに逃げられないよーにね」


「逃げねーし!」


全力で怒る兄は、奥さん命なのよね。兄から聞いた話によると、死にかけてた兄に奥さんがハンバーガーをくれたとか。しかも無償で。神かと思ったと兄は何度も話してた。兄は単なる迷惑な客なんだけど。

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