第34話

昨日は絵里ちゃんの面白いとこ見ちゃった!でも、内緒にしとかなきゃかわいそうだ!すごい妄想したのよね、あれ。

いつものように仕事へ行くと、美香ちゃんと会った。


「おはよー!美香ちゃん!」


「あ、いるかさん。おはようございます」


「美香ちゃんも、うち来ていいからね?」


「はい?…あ、今日は安菜あんなさん来てますよ」


え、あの有名な舞台女優の?最近は他の舞台が忙しいとかでいなくて。挨拶もしてない私。


「今行ってもいいと思う?」


「はい。楽屋にいますよ?」


「美香ちゃんも一緒に行こう!」


「いいですけど…あ、安菜さん!」


廊下にやって来たのは、さらさらな黒髪で美しいお顔のあの有名な安菜さん!


「あの、私、いるかと申します」


「…よろしく」


ちょっと沈黙があった。冷たそうな人。


「役を頂いたので、これからよろしくお願いします」


すると、突然安菜さんの顔が強張った。


「どうして?なぜ?あなた約束したではありませんか!」


え、なに?


「あー。安菜さん役作り中ですね」


美香ちゃん、これはどういうこと?人と会話してんのに?


「私と!一緒に来て下さるはずでしたよね?ねぇ?」


鬼気迫る感じ。


「え、知らな…」


うっかり答える私。


「は!すみません!私ったら。あ…私、安菜です。お菓子、いりますか?お名前何でしたっけ?」


「…いるかです」


「まぁかわいらしい!」


「どうも…」


「私がそう思ってるとでも?」


え、なにそれ、ひど。


「調子に乗らないで!」


いきなり怒鳴られるとか。


「…何もしてませんけど…」


「まぁ、いるかさん。安菜さん大変なんで。今掛け持ちしてるみたいでして」


美香ちゃん、これはどういうこと?


「どれが本人なの?」


「ちょっとぼけてるときですかね?」


変人すぎる…。


「あ!いるかさん。すみません、あの、お菓子…どうぞ」


突然安菜さんがバッグからクッキーを取り出し、私に渡そうと近寄ってきたのだが。


「きゃ!」


思い切りこけた。これが本人?


はー、今日は悲惨だった。安菜さん怖い。

絵里ちゃんも同じようなものだけど。家にはもう優がいて机で麦茶飲んでるしー。


「ただいまー!」


「おかえり。なに、元気だね」


「逆よ!疲れた!」


「あっそう」


「そーーだ!言い忘れてた!」


「なに?」


「私ねー役もらった!じゃん!これは台本!」


「へぇー。よかったじゃん」


「美香ちゃんたちみたくなりたいから、頑張る!」


「ふーん。でもさぁ、舞台って結構体力とかいるんでしょ?体大丈夫なの?子供いるのに」


「…うん!今回は脇役だし、座ってるだけ」


「つまり、ちょい役ってことか」


「うん。でもー、来てくれる?」


「もちろん。いるかさんが出るんなら」


「嬉しい」


床に座っている優に、後ろからぎゅっと抱きつく。優が悪い人に見えるなんて絵里ちゃんったら可笑しいな。やっぱり絵里ちゃんも変人なのかしら?


「なに笑ってんだよ」


「別にーあ、そうそう、バイトどう?」


優から離れて、近くに置いてあるカバンをあさる。どこやったっけ?


「余裕!店長なれるって」


「すごい自信ね。じゃあこのチケット、売って?」


もらってきたチケットをお札のように扇状に広げてみた。


「え!こんなに?」


「店長なら、できるよね?」


「できますとも。まずは…この辺の知り合いみんなに買わせるか!」


「わーい!お願いね!」


これからいろいろ頑張らなくっちゃ!

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