第33話

絵里視点


いるかさんがこの間泊めてくれてありがとうと、役をもらい舞い上がった気持ちを私に伝えたいとのことで、家に招待された。


「絵里ちゃん、どうぞ」


「お邪魔します」


部屋にはたくさんのダンボールが山積みだった。机だけ出してある。


「ちょっと待ってね。お茶だすから」


いるかさんは、棚を調べはじめたがなかなか見つけられない。


「あれ?どこだっけ?」


どうして見つからないのだろうか?この間引っ越してきたし、自分で片づけたのではないのだろうか?いるかさんは棚からやっと湯飲みを取り出した。


「えっと、お茶は…冷蔵庫には~あ、麦茶あった。絵里ちゃん、麦茶でいい?」


「はい」


麦茶は水出しタイプのであって、自分で作ったはずだ。なのに、冷蔵庫に入れたことも作ったことも忘れている?


「お菓子あったかな?この箱?てか送ったかな?」


独り言を言ういるかさん。まさか、ここはいるかさんの家ではない?


「ごめん、お菓子なかった」


机にお茶だけ持ってきた。


「お気遣いなく」


「あのね、絵里ちゃん、私さ~久々に舞台とか〜」


この部屋。ほとんどなにも出していない。ダンボールだらけでいるかさんはひたすらしゃべってる…。しかも、一人にしては多い荷物気がする。どういうこと?

まさか、私をここに閉じ込めるんじゃ?

玄関にはいるかさんの靴一足しかなかった。本来のいるかさんはもっと持ってる。

やはりこの家、いるかさんの家じゃない。

…まさか!マフィアに私を引き渡そうとしてるんじゃ。え、私殺される?


「絵里ちゃん?聞いてる?」


「え、あ、すみません。なんでしたっけ?」


「だからぁ、要約すると!絵里ちゃんは主演するまでに時間かかったの?って聞いたんだけど?」


「ええ、まぁ」


長々話していたいるかさんの話を聞いていなかったけど、要約された。

は!そういうことか。

私を殺して、主演を奪おうと…なんて恐ろしいの!


「あの、私もう帰ります」


「え?そうなの?」


「ま、また明日」


「もっとゆっくりしてったらいいのにぃー!まだ全然話してないじゃん!」


いるかさんがそう言うと、突然玄関のドアが開き、そこから大きな男が入ってきた。

ひーやっぱり!殺し屋だ!


「誰?」


冷ややかに見られた。


「絵里ちゃんだよ」


簡単に確認された。そしてその大きな男は部屋に入ってきて…


「い、いやーー!殺さないでー!」


必死に叫び、部屋の隅へ逃げた。


「え?2人で練習してんの?」


「違うけど…。絵里ちゃんどうしたの?」


「やめてください!警察!警察呼びますよ?」


「え、刑事物なの?」


「い、いるかさん!私、ずっと応援してたんですよ?ひどいです!」


「え?急になにかしら?」


「これは友情もの?なに?」


「あ、あなたいいかげんにしてください!」


大きな男を睨みつけてやった。


「怒られた。なんで?」


「さぁ?」


「そもそも誰なんです?」


「あー。夫です」


え?


「あ、紹介してなかったわ。夫のすぐる


なんてこと。膝に力が入らなくなり、ぱたりと床に足がつき、全身に力が入らない。


「絵里ちゃん?大丈夫?役作りなの?」


「いるかさ…」


疲れで気絶してしまった。

目が覚めると我に返った。


「大丈夫?絵里ちゃん」


「す、すみません!取り乱してしまって」


「ごめんなさいね。こいつが怪しい顔してたからねぇ」


「違うんです。というか、結婚してたなんて…知らなかったです。なんで、言ってくれなかったんですか?」


「忘れてたわ」


「どうして…荷物の場所とかわからないんですか?」


「あー、それはぁ、こいつが全部片付けしてて~私は全然やってないの!」


「な!」


人任せすぎる。


「絵里ちゃん、何考えてたの?」


バカにされちゃった。


「いえなにも。帰ります」


いろいろ考えすぎた自分が恥ずかしい。

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