第30話

バイト終わりに、2人で自宅へ向かった。せめて、母だけいればいいのだが。至って普通を装い、中に入る。


「ただいま」


「おかえり…あら?どちらさま?」


玄関に母がちょうどいた。予想通り母だけいるのではないか?


「彼女」


「え?」


大きな声を出した母が固まる所へ、のこのこと親父がやって来た。いたのかよ。


「何?騒がしくない?…ん?」


目線がいるかさんに。


「はじめまして、花田 海豚いるかです」


「え?なになに?」


「結婚するから」


「は?まじ?ま、上がって下さいよ」


親父は何事もなかったように、部屋へ入って行く。母は驚いて言葉も出ないようだ。


「まぁ、座ってゆっくり話そうや。…いるかさん?って名前?」


親父と机を挟んで対面して座る。2対1。母は座ることもできないようだ。


「はい」


「へぇ、かわいいねぇ。てゆーか何歳なの?」


親父のくせにチャラい話し方するなよ。


「えっと、30代…ってことで、いいですか?」


「いいよいいよ。結構歳上じゃん。若い子好きなの?」


「変な質問すんなよ」


「いいじゃん!お前も聞きたいだろ?」


にやにやするという。息子はドン引きですけど。


「別に気にしたことはない…です」


「ふーん。そう。でも、あなたも十分若いんじゃん?」


「ありがとうございます」


「…優は、本当にいいの?」


母が介入してきた。珍しい。


「おいおい、優の勝手だろ?」


あ、親父がまたひどいこと言ってる。


「いるかさんにも失礼だろ?」


「いえ、お気になさらず。あの、実は子供ができていまして…」


「へーえ。優もやるじゃん!」


「は、何それ」


親父の発言とは思えない。


「いいじゃん。よかった。早く結婚しろよ」


案外あっさりいるかさんは受け入れられたし、結婚も受け入れられた。親父、適当だな。


「もちろんそのつもりだし。東京住むことにした」


「ふーん。そー」


「私が東京の劇団に入るもので、それで…」


「劇団?すごいねぇー」


「ありがとうございます」


「てか、優は学校辞めないとじゃん」


「そうです」


「中退でいいのか?」


「うん」


「よーし。じゃ、明日には行けよ」


「わかった」


「んで?いるかさんは今までの仕事は大丈夫なの?」


「はい…ドーナツ屋で店長やってたんですけど、なんとか」


「おーすげーな。いやぁ、こんなできる子とかいいねぇ」


下心のあるような発言をする親父である。最悪。


「そうですか?」


「話しすぎだよ」


「おいおい、ヤキモチ?」


「はぁ?」


「ねぇねぇ、いるかさん。俺の弟の子供たちもさぁ、結婚早くて。優もとは思ってなかったからさぁ、超うける!」


「はぁ?うけるとか…ふざけんなよ」


「いるかさん、こいつバカだから頼むよ~」


「はい。喜んで」


なにその返事。

次の日は学校の先生に退学の旨を話すと、とても驚かれた。が、なんとか退学できることに。そして、物件も高原くんのお兄さんの先人さきとさんが住んでるアパートに空きがあるらしく、助かった。が、いるかさんがこんなことを言い出した。


「早く行きたいから、先に東京行っていい?」


「はぁ?どういうこと?」


「だからー、優は手続きまだあるんでしょ?」


「まぁそうですが」


「私だけ東京に前乗りすんのよ!で、美香ちゃんか絵里ちゃんとこに泊めてもらうの。どう?」


どうやら劇団員の人らしい。先輩だからってやりたい放題。


「は?その人たちに迷惑だって」


「大丈夫。フリーな子たちだし」


フリーって、彼氏なし的な?ひどっ


「でも荷物全然まとめてないじゃん!」


「優が準備してくれる?」


「はぁ?」


「アパートの手続きとかもよろしく。で、婚姻届は一緒に東京で出そう?」


「…丸投げかよ」


「いいよね?」


「…そんなに早く行きたいの?」


「そう。ってことで、私明日には行くから!荷物まとめなきゃー!」


「えー明日?」

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