第27話

高原くんは元気ない。ジャムさんは帰って来る気配がないまま、4月も終わろうとしていた。いつ見ても、高原くんも元気がない。学校では取り巻きがより増えてしまい、全く話す暇がない。学校外でも、挨拶程度。ほんと、大丈夫だろうか?

バイトもなく、いるかさんが仕事が終わっただろう時刻に家に遊びに行った。


「ただいま」


「おかえり、…あのね、話があるの」


「ん?何?」


靴を脱いだ後、体育座りしてるいるかさんの隣へ座る。


「…子供できた」


「え」


「優、迷惑?」


「いや、むしろ、…結婚しよう」


「え」


「いや、学生だから結婚でなかなか辞められないじゃん?出来たならさー許してくれそーじゃない?」


「…ほんと?」


「うん。もともといるかさんと結婚したかったし。順番違うけど、よかった」


「優、私のこと、好き?」


「好きか嫌いかなら…好き?かな?」


「そーですかー。私は、好き」


ぎゅっと抱きしめられた。首しめられてますが。突然の報告ではあるが、嬉しい。いるかさんも嬉しそうだ。


「あのね、私この間のオーディション受かったよ」


「え、早く言えよ」


「東京行くの。私と来てくれる?」


「逆プロかよ」


「プロポーズそっちからしたじゃん」


「あれ?そうか?」


「…ほんとは、子供できて嫌われるかと思った。オーディションだって東京であるとか言ってないし…秘密ばっかりね」


「いいよ。いるかさんは俺を信じてくれてるから」


「私も、信じてたよ?」


「ありがとう。…で、東京にはいつ行きたいの?」


「来週かな…」


「まじで?」


これは困った。


「じゃあ、俺学校早く辞めないといけないじゃん」


「そうねぇ。大丈夫かしら」


「なんとか、まぁまず親に言わないと」


「うちの親はいないよ?」


「そうなんだ。…親戚とかは?」


「兄がいるけど。メールしとけば大丈夫!」


「そんなもん?」


「うん。いるかは早く嫁に行けーっていつも言われてるんだぁ」


「そ、うちの親はどうだろうか…」


「難しそう?」


「わからない」


「ドキドキするね」


「どう切り出そう…」


「うーん、そうねぇ」


「てゆーか仕事は?どうすんの?」


「辞めるよ?明日言えば大丈夫。副店長が、店長になるし」


「あ、俺もバイト辞めないと」


「そーね」


「…このこと、艶耀に話さないと怒るから、ちょっと話してくるよ」


「え?今から?」


「うん。ファミレスに呼び出す」


艶耀にメールする。ファミレスで食わない?って。


「奢ってあげてね?」


「うん、行ってくる」


外に出るとすぐに返事が来た。オッケー!と。ファミレスに到着したら艶耀がもういた。


「優くーん!こっちこっち!」


「艶耀、何食べんの?」


「ステーキもう頼んだ。優くんは?」


「コーヒーで」


「えーー!食べないの?」


そんなときに、ステーキ到着。コーヒーを頼み、到着を待つ。待ってる間、艶耀は食す。

到着してから、集中する。


「艶耀、俺東京行くことにした」


「む?なんで?」


ステーキ食べながらする話じゃないけど、まぁいいだろう。


「結婚する。…あと子供できた」


「んん!いるかさん?」


食べるのを止め、目を見開く艶耀。


「そう」


「おめでとう!優くん!」


笑顔…あっさりと受け入れられた。さすが、艶耀。


「でーいつ行くの?」


またステーキを食べる艶耀。


「来週」


がた、とフォークの下で机を叩いた。


「え!早い!なんで?」


「いるかさんが、東京で劇団員なるんだよね、それで」


「優くん、いるかさんのために?」


「そう、だね?」


「優しいね!びっくりした!」


「…いるかさんのために、なるかわからないけど」


「なるよ。で、優くんは仕事どうすんの?」


「コンビニでバイト。で、店長になれたらな?って思ってる。金欲しいしー」


「優くんの夢?」


「…夢、だね?」


そうか、こういうのも夢になるんだな。いるかさんのためにって。


「んで?優くんの両親には言ったの?」


ステーキを食べ終わり、水を飲む艶耀。


「まだ…ちなみに高原くんにも言ってない。てか、彼女できたことも言ってな…」


「えーーひどーい!」


「うっかりね。明日話すしかないな」


「そりゃそーでしょー?」


「高原くんに話したあと親に言うか。…明日バイトもあるんだよね。あ、バイトも辞めないとだからあこさんに言わないと…いるかさん言ってくれないかな」


「ぶつぶつうるさいよー」


考えてみたら、こんなに一度に予定が来たことなんてなかった。スムーズにするにはどうしたらいいんだ?


「うわ、いろいろやることあるなぁ」


「今更?」


「何にも考えてなかったなぁ」


「優くん、応援してるから」


「艶耀、ありがとう」


「やだなぁ、照れる」


コーヒーは全く飲んでいなかったが、今やっと飲めた。完全に冷えてましたが、まぁ、いいだろう。


「艶耀、明日高原くんの家に集合」


「えー、俺も?」


「頼んだよ!奢ってやるんだから」


「げ、これは賄賂だったのか!」

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