第21話

「お帰り」


「え!待ってたの?」


「さっき着いたから」


いるかさんのアパート前で、珍しく待っていた。いつもバイト終わりに、たまにしか家に行けないんだけど。


「嬉しいな。入って」


最近遊びに行ってなかったけど、喜ばれてよかった。


「ドーナツ食べる?新商品食べないとだから、結構量あるのよねぇ」


「食べる」


「優が先にいるなんて珍しすぎるね。バイトもなかったの?」


「うん。受験とかもあるし、日数減らしてもらった」


「そうなんだ。あこが怒らなかった?」


「大丈夫。また新しい子も入ったし」


「そっかぁ。ね、お家の人とはうまくいきそう?」


「うんまぁね。守お兄ちゃんのことも、なんとかなりそう」


「よかった」


もぐもぐとドーナツを食べながら話す。


「でもさ、家に長くいるのは嫌なんだよね」


「そーなんだ」


「ここに来てもいい?」


「うん、来て。私は嬉しいよ」


「ありがとう」


「もー、ドーナツ食べながら言うセリフじゃないでしょー?あ、そーだ!台本読むからちゃんと聞いてもらえる?」


「は?台本?」


「来月、オーディション受けるの」


「へぇ、そうなの?」


「応援して」


「無理やりだなぁ」


いきなり台本読みがスタート。


「あなたを、忘れられません。いっそ…殺して下さい…」


早速、台本を読むいるかさん。これは、劇団白うさぎに入ってたときのらしい。


「迫真の演技。宝塚なれるって」


「宝塚にはなりません」


「一緒じゃね?」


「違うしー。舞台女優なのよー?」


「よくわかんないけど、いいんじゃない?」


「そーでしょ?舞台女優さんはね、かわいい衣装も着れたりするのよ?楽しいの!」


「へー。夢中になれるものがあるといいね」


「優は夢とかないの?」


「んー、ないな。とりあえず学校行ってるだけだしなぁ」


「そっか。何かあるといいね」


「まぁね」


「そーいえば、あの子はどうしたの?艶耀くん」


「あいつはね、預けられてる家に帰ったよ。嫌々ね」


「うまくいってないのかな?」


「そうでもないと思うけど、なんでだか」


「優といたいのかな?」


「そうだといいんだけど…」


あいつはわけがわからない!保育園の話をするような子だしなぁ。


「私は、優といたいなぁ」


いるかさんは、俺なんかでいいのだろうか?


「優は?」


「一緒にいたいよ。ここにいたいし」


「そうしたらいいのに」


「親に迷惑かけすぎでしょ」


「うん、まだ学生だもんねぇ」

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