第14話

海へ到着すると、いるかさんは履いていたサンダルを脱ぎ捨てて、海へ走って行った。俺は木陰へ。


「ほらー!気持ちいいよー!おいでよー!」


「入らない」


「へんなのー!水かけたげようか?」


「まじやめて」


「水も怖いの~?おもしろーい!」


はしゃぐいるかさん。名前だけに、海好きなんだろうか?でも、1人ではしゃいで寂しくない?小一時間、いるかさんは遊んでいた。


「ねー!入る気になった?」


「ならない。入らない」


「なにそれー、うける!」


「なに笑ってんだよ。何が楽しいんだか」


「気持ちいいのにね~。私もやーめた」


いるかさんは海からこちらへやって来た。全く、元気なものだ。


「あー、タオル忘れちゃった」


「あーあ。どうすんの」


「乾かす。それからサンダル履こうっと!」


「それはまだ帰らないってこと?」


「うん」


いるかさんは隣に座った。2人体育座りな感じ。


「ねー何か話そうよー」


「いいよ。何の話する?」


「んー…優、どうして家出しちゃったの?…ごめん、聞いちゃまずかったかな?」


「あぁ、それ?別にどうでもいいけど…うちの親父と叔父さん、母に疲れたから、かな?」


「どうして?」


こんなこと、聞いてくる人は誰もいなかった。なんて言ったらいいんだろう?


「そうだなぁ、叔父さんが…心臓の病気で、その主治医が親父なんだよね」


「へぇ、お医者さんなんだ?」


「うん、叔父さんは心臓以外も弱くて入院ばっかりしてて。移植手術は海外に行ったり、親父はつきっきり。で…まもるお兄ちゃんって言うんだけどさ、わがままなんだよね。甘やかされてるから。定期健診もあってさ、よく家に帰ってくるんだけど」


「…うん」


「俺をさ、罵倒するんだ。お前は何もできない、マジで医者の息子なの?ありえない、頭悪い、何も努力してない、とか?で、母は知らないふり。親父は甘えで俺をからかってるって分かってるから放置。…て、ごめん、ちょーつまんない話だね。忘れて」


「ううん。話してくれてありがとう。わかってるから、どうしようもなくて、ずっと…辛かったんだね」


そう言ういるかさんからは涙がこぼれていた。


「え、ちょっと、なんでいるかさん泣くの?」


「ごめん、でも、優はちゃんと頑張ってるよ?私はちゃんと知ってるよ」


真っ直ぐに見つめられた。あぁ、俺を見てくれてる。クラスでも、家でも、空気な俺を。


「…なんで」


ふと、無意識に涙が溢れた。


「泣いていいんじゃない?」


「いや、あのね、俺は泣き虫という名のださい異名があるんだよ…小学生のときだけどさ」


「大丈夫。優は、頑張ってるよ。よしよし、お兄ちゃんのこと嫌いなわけじゃないんだよね?」


いるかさんに頭を撫でられた。そういえば母はこんなことしないな。


「努力してる…ってのもわかってる、手術とか入院とかばっかりで…辛いってわかってる…んだけど」


「うんうん」


「わかってる…のに、受け入れられない。家と、距離を置きたかった」


「そう…」


「守お兄ちゃんのこと、ちゃんと見てあげたい。でも、どうしても…嫌になる」


「うんうん、よしよし、おいで」


いるかさんに抱きつかれた。さっきからよしよししてもらってるし…


「なんか、子供みたいだし…」


「いいのよ?たまには?」

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