星月と蝶 〜星月と蝶が語る転生の記憶と想い〜

碧猫

エレの過去1 愛姫であるという事


 私は、エンジェリルナレージェ。愛姫エンジェリアってみんなから呼ばれている。


 私は、愛ジェルドの王一族だから。


 人間とジェルドでは、知能に差があるの。と言っても、早くから、物事を理解できるってだけだけど。


 私は二歳の誕生日を迎えた。今日は、ジェルドの王一族の先輩である、水のおにぃさんとお話。


「エレ嬢、愛姫であるという事は、愛ジェルドの王であるという事と違うんだぜぇ。何が違うか、答えたれっか?」


「わかんにゃい」


「それはなぁ、愛姫は、愛を教える代わりに、愛を理解できない。愛を理解する時は、愛姫としての能力を使うに値する時」


「みゃ?」


「つまりぃ、愛姫は、愛を理解するのが仕事ってこったぁ」


 と、今日お話した、水のおにぃさんは言う。


 でも、別日。今度は、風のおねぇさん。


「愛姫ってなぁに?」


「愛姫とは、全てのジェルドの上に達姫でございます。愛姫である、エレ嬢は、全てのジェルドの頂点でございます」


「みゃ?役割は?」


「全てのジェルドへの命令でございます。エレ嬢の一言で、ジェルドは動きます」


 なんだかよく分かんないの。言ってる事違うの。水のおにぃさんとは。


 って事でまた別日、今度は、炎のおにぃさん。


「愛姫か。それは勿論、熱い何かを秘めている姫の事だ!エレ嬢もいつかは理解できる!」


「みゃ?それで役割は?」


「同期の王にその熱い何かを伝える事だ!」


 なんだかとっても暑苦しかったの。そして、また違う事言ってる。


 愛姫ってなんなんだろう。


 という事で、別日。今度こそと思いながらも、雷のおにぃさん。


「愛姫?エレ嬢だ」


「じゃなくて、役割」


「うーん、守られている事?」


 って、これも違うの。なんで誰も同じ事を言わないんだろう。愛姫って一体なんなの。私は、何を求められているの。


 今度こそと何度目だろう。また別日。土のおねぇさん。


「愛姫でございましょうか。愛らしい姫でございましょう」


「役割は?」


「そこにいればよろしいのでは?」


 意味分かんない。他のジェルド達は、役割とかちゃんとしているのに、なんで愛姫だけは、みんなばらばらなの。


 また、今度こそと行っては、余計に分からなくする毎日。


 生命のおにぃさんなら知ってるかもと行ってみる。


「己の心に問え」


「それだけ?」


「それだけである」


 と、二歳の子供相手とは思えない対応。


「……」


「フォル、声かければ?」

 

 っと、私を見ている、同世代の生命ジェルドの双子王。実際に見るのは初めてだけど、女の子なのかな。


「初めまして。私、エンジェリアって言うの」


「フォーリレアシェルスです」


「フィージェティンルゼアです」


「フォルとフィル、これからよろしくね。私、精一杯頑張るから」


「分かってるでは無いか」


 どういう意味だろう。って思いながら、二人と遊んで帰った。


 氷のおにぃさんにも聞いてくるの。


「氷をも溶かす温かみでしょうか」


「みゅ?役割が?」


「そうです」


 これも意味分かんない。


「エレー、会いたかったー」


 同世代の王達の中で、氷ジェルドの双子は、交流があるの。同じ兵器であるゼロがいるから。


「ふみゅ。私も会いたかったの。ゼムも、今日は一緒に遊ぼ」


「うん」


 三人で遊んで、また次の日。今度は、知のおねぇさん。


「そうですね。全ての意味を考え、自分なりの答えを出す事こそが、その質問に対する答えでしょう」


「ふみゅぅ?」


「意味を考えてください」


 と。また次の日に、誰かに会いに行こうって思っていたけど、高熱で寝込んじゃった。


      **********


 愛姫としての在り方。それを試行錯誤しながら、話を聞きながら、忙しい日を過ごしていた。それは、二歳児の身体では耐えられないものだったんだと思う。


 家族は知らない。見た事ない。だから、こんな時でも、来てくれないのは、なんとも思わない。でも、寂しい。不安で、怖い。一人はやだ。誰か


「エレ、お見舞いに来たー」


「大丈夫?」


「熱出したって聞いたから、身体が冷えるもの持ってきた」


「フォル、それ逆効果だ」


「アディは、熱すぎ」


「フィルに同意です」


「全く、世話の焼ける姫ですわね」


「姫に無理を強いてたのは、わたっち達なんだから、それはないでちよ」


「静かに。熱出して寝込んでるんだから、騒いだら酷くなる」


 同世代の王達。どうしてみんなが、ここに来ているんだろう。


「氷と生命で協力して言い回った」


「多い方が、安心すると思ったから」


「ゼロとフォルが言い回ってる間に、オレとフィルで、色々用意したんだ」


「不慣れだけど、看病する」


 この時、涙が止まらなかった。


 それに、気づいたんだ。みんなの言葉。知のおねぇさんの言葉。


 全部本当の事なんだと思う。正解なんて無いんだと思う。


 私は、私なりに、みんなを守る、みんなに守られる愛姫になれば良いんだ。


「ありがと。みんな」


 愛なんて分からない。でも、大切にされてるって事は分かる。私は、みんなから、大切にされている。


 みんなが来てくれて、それに気づけた。


「愛姫様、生命ジェルドは、状態を見るのが得意で……その」


「知恵熱」


 ちえねつ?なんだろうそれ。


「愛姫様の悩み、僕、相談に乗りたい」


「俺も」


「私も」


 みんなが、相談に乗りたいって言ってくれる。


 炎、水、風、雷、土、闇、光、聖、邪、知、創、破、幻、時、音、氷、生。


 十七種を束ねる愛。


 ジェルドの種は、こんな感じ。みんな、私の大事な人達。その人達が


「悩み、解決してくれたの」


「そうなの?」


「うん。フォル、もう少し、その声聞かせて。生命ジェルドの声って、なんだか安心する」


 なんでだろう。その声を聞いていると、安心して、眠くなる。


「うん。愛姫様がそう望むなら」


「ありがと。みんなも。私、愛姫として、みんなを守るから」


 そう言った後、寝ちゃった。一人の時は眠れなかったのに。不思議。


      **********


 知恵熱が治って、外へ行けるようになった頃、みんなとの関係が変わっていたの。


 近くなった。


「今日は、フォルとフィルの婚約者選別ですって」


 一年経って、送られてきた書類に書かれていた。今日はそのために少し早くから集まった。


「愛姫様のために、やる事は分かっているな」


「はい。婚約は嫌だと言う。私達の誰かが良いと言ってしまえば、愛姫様に回ってきませんから」


 好きは理解できるの。でも愛は知らない。


 そんな私に、みんながくれたプレゼントって言って良いのかな。


 そういえば、大人達はみんな、私がまともに喋る事もできないって思っているから、そうしていないとなの。


「ふみゅ。でも、それだと怪しまれる気がちゅるの」


「でしたら、愛姫様が、自分がなると言った後に、男衆が、こぞって希望すると言うのはどうでしょうか」


「良い考えなの。ふみゅ、それで決定なの。もう一人は、ゼロを指名ちゅるの」


 っていうふうに、フォルとフィルは知らないけど、婚約者選びはちょっとだけ私達で仕組んでいたの。


 それが上手くいって、私とゼロが選ばれた。当人達の希望もありって。


      **********


 フォルとフィルは、今は訓練中。まだ帰ってきていない。


「懐かしい思い出なの」


「何が?」


「なんでもない。ゼロ、一緒にお迎え行かない?フォルとフィルに会いたいよ。ゼロがいれば大丈夫だと思うから」


「俺、ゼムみたいに魔法使えないけど?」


 ゼロは、氷ジェルドとしての能力を持っていない。氷魔法程度なら使えるんだけど。


 でも、それでも良いの。きっと大丈夫なの。


 だから、お迎えに行く。待ってなんていられない。後二年しか無いんだから、それまでにみんなでいっぱい思い出を作るの!


「行くの!」


「分かったよ。エレの頼みなら」


 ゼロは私を守らないとだから、行かせたく無いと思う。でも、二十日間待っていればこのくらいのわがまま言いたくもなるの。


 という事で、二人で一緒にゴー。

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