一部 三章 恋が人に与える影響について

第20話 恋人関係が終わる時?

仮部活を創部してから、もう少しで三週間が経とうとしている。


私と言えば、毎日欠かさず心を読み続けていて、自分の観測分体が何をどこまで深く読めるのかについて大体分かってきた。


目の前数メートルの相手に対しては、まさに今考えていることしか読み取れない。


けれど、ドキドキさせるなどして精神を追い込むか、肉体の距離感を近くすればするほど本人の考えていないこと。つまり、深層心理を覗くことが出来る。


今のところ、深層心理を見る訓練の実験台は太陽君と三花ちゃんだけ。


太陽君はいつもドキドキしているだけだし、三花ちゃんはあまり深いことを考えていないし、最近は面白みが無くなってきた。


──もう少し別の人間サンプルが欲しい。


とは言っても、一言も話したことが無いような人間に突然抱きつく訳にはいかないし……。


私の観測分体はまだまだ強力になりそうな予感がする。

茶話ちゃわ部に部員が集まって、色んな人の心を読むことが出来たら、一体私はどこまで人の心を知ることが出来るのだろうか。


太陽との関係も良好で、楽しい人生を送れていると思える。



ただ一つだけ問題があるとすれば。

それは茶話部が仮部活のまま、ということだ。


そろそろ部員を揃えて本部活にしないと、早々に廃部になってしまう。


結局この二週間強は、茶話部が活動中に置く為の立て看板を作っただけで、それ以外は何もしていない。


そもそも誰かに話しかけて、下手したてに出つつ部活に勧誘するとか、向いて無いんだよ。


太陽君に代わりに勧誘してもらうのも方法としてはありだけれど、私と合わない人を連れてこられたら即廃部にしたくなってしまう。


しかも本部活にするための申請用紙に書く四人は、他の部活と兼部していてはダメということもあって、現状の部員は相変わらず私と太陽君の二人のまま。依然として、あと二人足りない。


部活作戦は失敗なのだろうか?

折角考えたのに……


一人もちゃんと勧誘していないのだから部員が増える訳もないのだけれど、単純に面倒で。私が心を覗きたいと思えるような人間がコロコロ転がっていないのも悪い。


自席近くのクラスメイトの思考を読んで、『茶話部に誘ったら入ってくれる?』なんて聞いてみるけれど、答えは皆揃って『嫌』の一文字だった。


私は自分が思うより、クラスメイトに嫌われているらしい。


『私のこと嫌いなの?』

『別に、特に何も?』


違った。嫌われているんじゃなくて無関心だった……


そもそも部活に入っている人ばかりで、今の部活を辞めて茶話部に入ってもらうことが無理というのは誰にでも分かる。


不特定多数の生徒を相手に深層心理を読む練習がしたい。した過ぎて、このままではイライラし過ぎて太陽君に当たってしまいそうだ。


「はぁ、仕方無いか……」


昼休みの時間。

私は重い腰を上げて、部員を探すためにあてもなく教室を後にした。







とりあえず、女子トイレ……は誰も居ない。

個室でずっと籠もってたりとか、極端な話、泣いてる子が居ればチャンスだったのだけど。


「悩み聞くよ」って話しかけて、お悩みを聞きつつ、心を読む実験台にしつつ、部活に勧誘したい。


……でも、待てよ。

いくら学校での私の行動範囲が狭いと言ってもトイレはやめた方が良かったかな。何か覗けてはいけないものが覗けてしまうかもしれないし。例えば、踏ん張っている人の心を読むとか。吐き気がする。

男子トイレなんて更に問題外だ。


危ない危ない。さっさと他の場所に行こう。


とは言うものの、学校での私の行動範囲は自席とトイレしかない。既に一通り周り終わってしまった。


それ以外にどこにいけば良いのだろうか。

人気ひとけの無い学校の端みたいな場所は誰もいないし、そもそも余りジメジメウジウジした人は友達にしたくないから、居たところで困る。



結局無策で、校舎内の輪郭を沿うように歩いていると、図書室にたどり着いた。


意外に狙い目かもしれない。

高校生にもなって図書室で本を読む様な人間は、王道の生き方を歩んでいない(※ド偏見です)。下手に友達を作って群れたりせず、道端に咲く花や石ころのように、健気で真面目で頭が良い、私に似た人間が多いはずだ。そういう人だったら友達にしたい。


と、思ったのもつかの間。


「……誰も居ない」


そりゃそうか。だって私も来るのは入学以来二回目だ。

健気で、真面目で、頭が良い人間が都合良く転がっている訳も無い。


第二図書室も誰かいないか見ておこう。

あの部屋って辞書の類いしか無いはずだから、期待感は言わずもがなだけどね。まともな人間が棲息できる環境じゃない。


ダメ元で第二図書室へ向かうと、図書室特有の大きな机の一面に沢山の辞書などを広げて、一人の女の子が頭を抱えていた。


「つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない、つまんない――」


──なに、この人……


明らかにヤバそうな雰囲気だけれど、とりあえず心を覗いてみよう。


『部活って入ってる?』

『入ってないよー』


部員にする条件はクリアしてる。

けれど、いざ、項垂うなだれている人間を目の当たりにすると、話しかけたく無くなってくる。


友達にしたくはないかも……。


第二図書室の入り口で話しかけるかどうか迷っていると、顔を上げた彼女と、ふと目線が合ってしまった。

刹那に視線を外して、私はそろそろと後ずさる。


「失礼しました~(小声)」

「ちょっと待ってよ。君、チューってしたことある?」


──ああ、最悪だ……


~~~~~~~~~~~~~~~~


◯作者コメント


不穏なタイトルです。

結姫ちゃんは相変わらず口が悪い、、笑


皆さんの学校には第二図書室ってありましたか?

辞書や資料集のような大きな本ばかりが集まっていて、本好きでも寄り付かない閑散とした場所でした。

そんな場所で机一杯に沢山の本を広げて、しかも頭を抱えているなんて、まともな人じゃ無さそうです……

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