サイドストーリー3/3:2030年11月3日 日曜日 佐伯カナ
作戦決行パート カナ
カフェのテラス席で、私はそわそわしながら足を揺らしていた。スマホをいじるふりをしているけれど、画面なんて全然目に入らない。目の端でずっとカフェの入り口を見張っている。
「ねえ、ハル。まだかな?」
紅茶を静かに飲んでいるハルは、私の様子に呆れたように肩をすくめた。
「カナ、少し落ち着いて。予定より早く来るわけじゃないんだから。」
「だって、今日はギルドのタカコさんとユウキがリアルで初めて会う日だよ!興奮しない方がおかしいって!」
ハルはため息をつきながら、淡々と答える。
「気持ちは分かるけど、目立つ行動だけは控えなさいよ。」
「来た!」
私は思わず声を上げた。柔らかな髪、控えめな仕草、どこかほっとするような雰囲気――カフェの入り口に向かって歩いてくるその男性に、私は一瞬で確信を持った。
「ハル!見てよ、あの人!タカコさんだよ!」
ハルも視線を向け、少し目を細めた後、静かに頷いた。
「ええ、間違いないわね。あれがタカコ。」
「でしょ!?なんでリアルでもこんなに癒し系なの?ギルドの時と雰囲気そのまんまだよ!」
私は興奮が抑えきれず、身を乗り出す勢いでハルに話しかけた。彼はカフェの入り口で店員に声をかけ、案内されてギルド専用個室へと消えていった。その姿が見えなくなるまで、私は目で追い続けた。
「ねえ、ハル!私、あの人のこと抱きしめてきてもいい!?私のものにしたい!」
勢い余ってそんなことを口にしてしまった私を見て、ハルは呆れたように肩をすくめた。
「ちょっと、やめて!私に抱きつかないでよ!」
ハルの冷静なツッコミに、私は大笑いしてしまう。
「だって、あんな可愛い人がいるなんてズルいでしょ!しかも、ギルドのタカコさんがこんなに素敵な人だったなんて!」
そんな私の様子に、ハルは少し呆れたようにため息をつく。
「まあ、確かに癒される雰囲気ではあるわね。でも、暴走だけはしないでよ。」
「わかってるって!」
私はふざけながらそう言ったものの、ふと彼の姿を思い返してしまう。そして、その時、ある重大な事実に気づいた。
「あっ……あっ……あーーーーーー!!」
突然声を上げた私に、ハルは冷静に顔を向けた。
「……今度は何?」
「ハル!これ、マズイよ!タカコさん、男じゃん!」
ハルは少し考えるような素振りを見せた後、静かに頷いた。
「そうね、確かに男ね。」
「だから!この作戦失敗ってことじゃん!タカコさんが男でユウキも男だから、男同士で引き合わせちゃうことになるよ!」
私は必死で説明しながら手を振り回すけれど、ハルは冷静なままだった。
「落ち着いて、カナ。」
「落ち着けないよ!これ、絶対に無理でしょ!どうすんのよ、ハル!?」
私が半ばパニック状態になりながら訴えると、ハルは困ったように微笑みながら首を傾げた。
「まあ、確かにその可能性はあるけど……まだ全てが崩れたわけじゃないわ。ほら、あそこ。」
ハルが指差した先には、一人の女性がゆっくりとカフェに向かって歩いてきていた。
その女性は長い髪をなびかせ、スマホを手にしながら立ち止まっていた。まるで周囲には無関心といった様子で、カフェの様子を軽く見回している。その美しい姿に、私は再び息を呑んだ。
「……え、あれ……ユウキ?」
私は震える声で呟いた。
「そうね、あれがユウキね。」
ハルもまたその姿を見つめながら静かに言った。
「めっちゃ綺麗じゃん!キリッとしてるのに、どこか優しそうだし!私、好き!」
私はその美しさに興奮を抑えきれず、身を乗り出して叫んだ。
「そうね……堂々としているけれど、どこか無防備な雰囲気。それがまた魅力的ね。」
「何それ!完璧すぎるでしょ!」
彼女は店員と短い会話を交わし、タカコさんが案内されたギルド専用個室へと進んでいった。その後ろ姿を見て、私はハルの肩を掴んだ。
「ほら、ハル!二人とも入ったよ!絶対中で会ってるよね!」
私は興奮しながらハルに言った。ハルは冷静な表情のまま、軽く頷いた。
「ええ。でも、ここからが本番よ。」
「どういうこと?」
「二人がリアルで会ったのはいいけれど、その結果がどうなるかは分からないもの。」
私は少しだけ冷静さを取り戻し、カフェの窓越しに見える専用個室をじっと見つめた。薄暗いガラス越しに見える二人の影が、話しているように動いているのが分かる。
「ねえ、ハル……これ、うまくいくよね?」
「分からないわ。でも、二人がリアルで会うきっかけを作れた。それが全てよ。」
その言葉に、私は小さく頷いた。胸の中ではまだ不安と期待が交錯していたけれど、この偶然の出会いが二人にとって特別なものになることをただひたすら祈るしかなかった。
「お願いだから……うまくいってよ……。」
私はそう呟きながら、窓越しに見える二人の影を見守り続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます