第6話
ロダンの彫刻が集められた図録はボクのお気に入りになった。そのことを告げても彼はボクから本を取り上げることはなかった。
彼の行動は学校で想定していたどれとも違っていた。
カレンダーを見る。ボクがこの山荘へやってきて三ヶ月ほど経つ。
未だボクは剥製にされていない。
山荘にいる使用人たちは、おそらく彼の母親から言いつけられているのか、ボクとは目も合わせず口をきこうとしなかった。でも食事などの世話はつつがなくしてくれた。
ボクには通常の食事にプラスして、飲まなければならない薬があったが、予定よりもなかなか剥製にならないので、薬の残りは少なくなってきていた。
そのことを使用人が告げたのか、追加の薬を彼の母親は自ら届けに来た。
嬉しそうに泣きながら息子を何度も抱きしめている母親と、母親の誤解を解くわけでもなくなされるがままになっている彼。たぶん「茶番」とはこういうことを言うのだろう。少しだけ面白かった。
母親が帰った後で、彼にそう告げると、「面白いと感じることができたことはいいね」と言ってくれた。
彼は別に少年剥製作りをやめたわけではないと思う。ブリキの木こり役のボクは早く心を手に入れないといけない。
ちゃんと欠けているものを見つけないと。彼のために。
羊肉のソーセージに、エッグベネディクト。バゲットをちぎりながら、彼と向かい合って朝食をとる。コーヒーの良い香りがボクたちの間に立ち込めている。
ボクは全部食べ終わると、ナプキンで口を拭った。そして、立ち上がり、コーヒーを飲みながら朝刊を読んでいる彼のそばまで行き、新聞記事の切り抜きを見せた。
「この美術館に行ってみたいです」
新しくできた首都の現代美術館。ロダンの彫刻もいくつか展示されるらしい。剥製になる前に一度、生で見てみたかった。
彼は朝刊から顔を上げて、「ん」と笑う。
「じゃあ、来週行こう。君を飛行機に乗せるのは難しそうだから、電車がいい」
それから彼と首都旅行の準備をし始めた。ボクが欲しいものを見つけられたからか、とても上機嫌であった。
そして、出発当日。ボクは朝食のカフェオレを一口飲むと、意識を失った。
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