第4話
なんの臭いだろう。ずっと吸っていたら気分が悪くなりそうだが、病みつきにもなりそうな臭い。化学的な臭い。
「君は『オズの魔法使い』という小説を知ってるか?」
ボクは連れてこられた山の中にあるお家で、新しく自分の主人となった男にそう尋ねられた。
「いいえ。読み書きはできますが、そういう情緒を育てるような教育は受けてないです」
出荷前に何パターンか想定される扱いについて教わってきたが、どうやら自分の主人は日常的に虐待を行なって楽しむタイプではないみたい。
その代わり、少年を最終的に剥製にするらしい。刺激臭は剥製に使う化学薬品の臭いのようだ。
目の前にある剥製の少年たちを見ながら、ボクはそんなことを考える。
「竜巻に巻き込まれて異世界に来てしまった女の子が帰るために旅をするんだ。で、道中仲間になるのが、カカシ、ブリキの木こり、臆病なライオン」
彼は一体の少年像を指差した。
「カカシは脳を、ブリキの木こりは心を、ライオンは勇気を欲しがった。その少年は足が遅くて学校でいじめられていた」
少年は人間の足が切り取られており、代わりに馬の足がついていた。他の少年像にも目を向けると、どれも身体のどこか改造されている。
「私は欠けてるものを補充してあげたい。そして完璧なまま保存したい。これは樹脂エンバーミングという手法なんだ。まるで生きてるみたいだろう?」
ボクは彼を向き直った。
「君は何が欠けているかな。何が欲しい」
「わかりません」
即答するボクに彼は何度か頷いた。
「たぶん君が最後の作品になると思う。ゆっくり探していこう」
パンッ。彼は手を叩く。そして、本棚から一冊の本を引き抜いた。
「まずは、小説でも読んでみたまえ」
タイトルは、オズの魔法使い。それから辞書も渡される。
ボクはとりあえず辞書で「小説」を調べるところから始めた。
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