第9話 決闘に向けて

俺は神素流転法とスキルの稽古を始めてから2週間が経過していた。


今日も今日とてスキルの練習をしている。

けれどいつもと違うところは、今日の稽古にはルークも参加しているのだ。

経緯は、俺が稽古場に向かおうとしていた時に偶然会って、稽古を一緒にすることになった、という具合だ。


そういうわけで、今はルークと模擬戦を行っている。


「『土ノ針ソイルスピナー!』」


俺がそう唱えると、地面から二本の棒状の土の塊が出てきて、その土の塊の先端が針状へと変化する。そしてそれがルークへと襲いかかる。


この『土ノ針ソイルスピナー』は俺がこの2週間で生み出した技の一つである。


俺のスキル『萌芽創成スプラウト』は、物質を作るだけではなかったのだ。このスキルの権能である『構築操作』の『操作』って書いてある通りに、すでに存在している物質を操作することも可能なのだ。


「お、これはすごいですね」


と、ルークは冷静に俺の『土ノ針ソイルスピナー』を回避する。

ルークが持っているのは弓で、中遠距離型の戦法をとっていた。


俺は回避されたが間髪入れずに追撃する。

土ノ針ソイルスピナー』を3本に増やして、ルークを追い詰める。


「よし、これで━━━━━━」


「⋯!『韋弦之佩いげんのはい!』」

そうルークが唱えると、ルークに直撃するはずだった『土ノ針』が軌道を急に変えたのだ。


「え?」


まさか、ね。


「もしかして、スキル?」


「はい!正解です。僕も物質操作は得意なんですよ」


まさかの操作系被りであった。


「ちょ、それはまずい⋯!」


俺の『土ノ針ソイルスピナー』が俺に向かって軌道を変えたのだ。

俺がそれを操作しようにも何故かできない。


俺は仕方なく、これも新技である『土ノ壁ソイルウォール』によってなんとか受け止めたのだった。


「なんでこっちから操作できないんだ⋯」

そう俺がつぶやくと、


「僕のスキル『韋弦之佩インゲンノハイ』の権能の『指向変化』によってカケルさんの権能を上書きしたからです」


上書き?!スキルの権能を他のスキルで塗り替えたってこと?でもそれならなんで、俺から上書きができなかったんだろうか。


「なるほど、けどなんで俺から上書き出来ないの?」


「それは⋯多分ですけど、『操作』の権能の優先順位が僕のスキルの方が高かったからだと思います。スキルにも質があるので」


ということは、俺のスキルよりもルークのスキルの方が「物質操作」については優秀ってことか⋯。あきらかに相性が悪いな、これは。



するとルークが矢を撃つ体勢に入り、矢を撃ってきたのだ。


けれどそれぐらいなら『土ノ壁ソイルウォール』によって防げる。

一、二本目は簡単に防げたが3本目からがルークのスキルの本質だった。


そう、『指向変化』によって矢が物理法則を無視して飛んでくるのだ。


前を防いでも急にカーブをして後ろに回り込んでくる。そのため俺は前に進めない状況となった。俺も中遠距離を主軸にしているが、『土ノ針ソイルスピナー』が通用しないので前に出るしか無かった。


そういうわけで、俺は無理をして前に出たのだが⋯


「うわっっ!」

と、後ろからの矢が頭に直撃して倒れた。

まぁこの矢は本物ではなく、先端は柔らかい素材になっているので怪我は無いのだが速度はあるので痛いものは痛い。


すると、ルークが俺のところに駆け寄ってきた。


「いたた⋯、完敗だな⋯」


「いやいや、この短期間で成長しすぎですよ。凄かったです」


「そう?ありがとうね」


今回は相性が悪かったのもあるが、攻撃手段が少ないのも問題だよな。俺のスキルは守りに向いていると思う。けどそのせいか攻めに使えないんだよな。


するとそこにアイリスもくる。サーラさんはと言うと、仕事で今日は参加していない。


「そりゃカケルが勝てるわけないよ。まだ2週間なんだし」


「だよね。戦闘って難しいよ⋯」


「でも伸び代しかないじゃないですか!ルイにもこのままいけばいけますって」


「んーそうかな⋯」


「てか、カケルが勝たないと私がルイと結婚する羽目になるんだから頑張ってよ!」


「それはアイリスがあんな提案したのが悪いでしょ!」


「違いますー!あれはお姉ちゃんが悪いのであって━━━━━」


と俺とアイリスが言い争っているところに「まぁまぁ、兄弟喧嘩はやめましょうよ」とルークの仲介が入る。


前まではアイリスとこんな口喧嘩することは無かったんだけど、一緒に過ごすにつれてこんな感じになっていた。


まぁ、それはいいや。

ルイにか⋯。どうなんだろうか?今では決定打に欠けると思う。なにか必殺技みたいなものがないと。


「でもやっぱり決め手にはかけるよね⋯」


「んー、どうなんでしょう。カケルさんの『操作』が干渉できる物の範囲を知りたいですね」


「範囲?」


「はい。僕の場合は動いている物質ならほとんどいけるんですけど、そんな感じです。」


言われてみれば考えたこと無かったな、そんなこと。今は土には干渉できる。多分木とかも出来るし、水もできると思う。


「んー、多分木とか水とか?まぁ、目に見えているものなら全部出来ると思う」


「なるほど、目に見えないものも操作出来たら面白いんですけどね⋯」


「目に見えないもの?」


「はい。目視できないものに干渉出来たら、相手には見えないのにこっちからは謎の攻撃が出来るってことが出来ると思うんです」


目に見えないもの、か。けど、もしできたとしてもそんな都合のよいモノあるのか?


すると、そこにアイリスが口を挟んだ。

とか操作出来たら面白そうじゃない?常に周りにあるものだし」


「確かに!空気砲とか出来るのかな…」


確かにか。 やってみる価値はあるかも。


「まぁ、1回やってみるよ」

多分そんな上手くいかないだろうけどね。

まずまずどうイメージしたらいいのやら。


まぁ、とりあえずイメージするしかない。

俺は虚空に手をかざす、そのときだった。


「えっ…」


そう、簡単にも空気にも干渉でき、掴めたのだ。空気までもがモノとして使えるのだ。


「「え?」」

と、二人とも困惑している様子。2人には俺が虚空で手を握っているだけに見えているからだ。


「えっと…、干渉できちゃった…」


「え、まじ?適当に言っただけなのに」


「カケルさん、これはいけますよ!ルイに勝てますよ!」


そうして、三人で新技について案を練っていく。


そして━━━━━


「明らかに初見殺しだよね、これ」


「まぁ、いいと思います僕は。案出したのはアイリスだし」


「勝つため勝つため!卑怯だと言われてもルール違反じゃないからセーフでしょ!」


そう、完全な初見殺し技が出来てしまったのだ。まぁ、仕方ない。俺にはなんのメリットもないが勝たないといけないのだ。


うん。メリットないんだよな…。






こうして今日の稽古は終わり、前に約束していたルークと二人で話をすることに。


俺たちは都内の人が少ないカフェに移動した。


「それでお話なんですけど…」


「あぁ、俺異世界人だよ。多分ルークもだヨネ?」


と俺は初手からもう切り出したのだ。

だいたい確信はしているからね。


「え、そうです!けど、まさか先に言われるとは」


「いや、さっきも『空気砲』とか言ってたじゃん?あれはドラ○もん見てないと分からないよ笑」


「そこでですか?笑、確かにそう思って言いましたけど」


こうして俺たちは異世界人同士なのかか、自分たちのことや、前の世界の話なので盛り上がり、何時間も話してしまった。


話によると、ルークも日本人らしく、本名は古谷琉玖ふるたにるくだそう。

7年前にこっちの世界に来ていて、思っていたよりも長かった。異世界に関しては大先輩である。


「前の世界で登校中に信号無視の車に跳ねられそうになった時にこの世界に突然飛ばされまして」


「それは災難で…」


ルークも死ぬ直前に飛ばされたの、か。


「そしたら、第一騎士団長のジラルドさんっていうイケおじがいるんだけど、その人の入浴中の所に転移しちゃって、そのままジラルドさんに匿って貰った感じです」


「入浴中に?!」


「はい笑、イケおじらしからぬ声で叫んでました」


それはジラルドさんが気の毒である。

急に入浴中に転移してくるとは誰も思わないだろう。


その後に

「カケルさんはいつ転移したんですか?」

と聞かれたが、少し言いづらいので適当に

「寝ている時、かな?」と言っといた。


「へ〜、でもなんで疑問形なんですか?笑」

とも言われたが上手く取り繕っておいた。


そうして色々と話をした後、一番俺が聞きたかったことを聞いた。


「そういえばさ、琉玖は前の世界に戻れる方法とかって知ってたり、する?」


そう、前の世界に帰れる方法についてだ。


「あぁ〜、いちよう昔に図書館で異世界転移については調べてたんですけど、どこにも記載していなくて、手がかりはなしです、」


「全然大丈夫だよ。もしかしたらって思って」


「ならよかったです。僕はこの世界も好きですが、帰りたい気持ちもやっぱあります。また調べてみます!」


「ほんと?ありがとう。俺の方でも探してみるよ」


やっぱり手がかりはない、か。

まぁ見つかってたらみんな帰ってるか…。

だけど、同じ異世界人がいるのはとても安心するからそれだけど嬉しいのだ。


そうして琉玖とも話し終えて家へと帰った。

いちよう互いのことは絶対に秘密にすることになったのでサーラさん達にも言っていない。






まぁ、こうして稽古・稽古・稽古の毎日が続いて、いつの間にか決闘の前日にまでなっていた。


この2週間はサーラさん達や、琉玖にも付き合ってもらい、スキルや、剣技はある程度まではできるように上達したのだ。


今日はというと最終確認で、アイリスと模擬戦をしたのだが、1回だけ胴体に当てることが出来た。琉玖とは、俺が空気を使えるようになったおかげで、対等とは行かないけど、善戦できるようにはなっていた。


編み出した初見殺し技も磨きをかけていつでも使える状態である。

サーラさんに何も言わずに使ってみたところ通用して、サーラさんからもOKを貰っている。

まぁ、すぐに対策を思いつかれて破られたけどね…。さすがは団長だった。







そして今日も終わり、ついに決戦の日がやってきた。


やることは全てやったのでやるしかない。

まぁ、何回でも言うが、俺にはメリットは無いんだけどね!この決闘に!

だけど、負けるとアイリスに殺されるので出来るだけやってみるか…。


俺は色々と支度を済まして、決闘会場である訓練場に向かったのだった。

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