第8話 初稽古・午後

午後の稽古はというと、先程言った『思考速度上昇』についてだ。


サーラさんいわく『思考速度上昇』は、スキルや神素流転法を使う際に一番重要らしい。

理由としては、この世界のスキルについて知らないといけないらしく教えてもらったのだが、簡潔に言えば『スキルは脳に存在する』なのだそうだ。


そして、スキル発動時に神素力を流し、何をするかをイメージ、そして発動する。というのがスキル使用の一般的な流れで、その時に脳での情報処理が必要になるのだそう。


そのため、この『思考速度上昇』を使わないと、スキルを多用した際、脳の処理が間に合わずに脳がショートする『過剰処理不能オーバーヒート』になってしまうそうなのだ。


過剰処理不能オーバーヒートですか?」


「うん。その状態になるとスキルとか神素力流転法が使用出来なくなるから危ないんだよ」


なにそれ、戦闘時に絶対にしてはいけないやつでは…


「だから『思考速度上昇』によって脳の処理を手助けするって話だよ」


「なるほど⋯、それは重要ですね」


そうして俺は『思考速度上昇』と、ついでにスキルを使ってみることに。


「『構築スプラウト』」


初めは『思考速度上昇』を使わずに、俺ぐらいする大きめの石壁を作ってみた。

特に一回目は何も支障はなかったので、何回も、そして間隔を短くして使ってみると、やはり頭が疲れてきたのだ。

多分、脳の処理回数が多くなるほど疲れるのだろう。


次は『思考速度上昇』を使ってみる。

先程は連続10回ぐらいで疲れてきたのだが、今回はポンポンと倍の20回でも疲れなかった。


ふー、『思考速度上昇』も使い慣れてきたから一旦休憩しようかな。


すると


「な、何これ!?」

と驚いた表情でアイリスが俺のところに来たのだ。


「あ、アイリス来てたんだ」


「う、うん。来たんだけど⋯これ、は?」


稽古上には俺が作った石壁がドミノ上に置かれてある。


「それは俺が作ったやつだけど?」


と俺はドミノ上になった石壁の一番端っこのやつを押す。


すると、ドンドンドン!と連続して倒れていった。これが規模でかい版ドミノ倒しである。

密かにドミノ上にしていたのだ。


「えっと、色々とツッコミどころ多いけど…これ後片付けどうするつもり?」


「あっ⋯」


言われて気づいた。そう、この石壁、俺の身長ぐらいあるし、材質も石と同じなのでしっかり重いのだ。


「どう、しましょうか?」


「自力で片付けるしかないでしょ」


「そうだよね⋯」


そうして地獄の後片付けが始まったのだった。

サーラさんにも手伝ってもらい、ついでに『腕力上昇』という『能力強化バフ』も活用して運んだのであった。

誰がこんなに⋯。と思ったが自業自得である。


そうして後片付けが終わり、稽古場は綺麗になった。

俺の作った石壁はそこらへんの森に置いている。ずっとこのままかというと、この石壁の材質は神素力なので、いつかは空気中に散乱して消えるのでいいのだそう。

ただ、神素力が多ければ多いほど時間がかかるらしい…。


「サーラさん、ありがとうございます」


「いいよいいよ、けど私がびっくりなのは、あの量の石壁を作ってることだよ。神素力多いのは知ってるけど、あんなに作れる?」


とサーラさんが聞いてきたのだ。

それにはアイリスからも


「そうそう私もそれ聞きたかった。あんなに作ったら神素力無くなるでしょ」

と同じことを聞かれた。


そう言われましても⋯、特に今も神素力は残ってるし。

だけど、1つ思い当たるところはある。

えっと、『始原はじまりの加護』だっけ、それに『効率化』っていう神素力消費量の削減があるのだ。


多分、これなんだろうな…。


「えっと、多分ですけど━━━━━━━━━」

と俺は二人に自分の『始原はじまりの加護』のことを話した。


「なるほどね⋯、カケルくんのスキルって『神祖系』だったんだ」


「『神祖系』、ですか?」

確かにあの時に『神祖系』って書いてあったかも。


「まぁ簡単に言うと、スキルの種類でね、大まかに『神祖系』と『一般系』に分かれていて、『神祖系』は、〔神に由来する〕と言われるスキルなの。『一般系』はそれ以外ね」


「なるほど、でもその『神祖系』と『始原はじまりの加護』にはなんの関係が?」


「その加護はね、『神祖系』のスキルにしかないんだよ」


サーラさんの話によると、『始原はじまりの加護』は『神祖系』スキルに付いている特殊効果だそうで、ランダムで効果がつくそう。


「それでカケルは『効率化』っていう相性のいい加護を得たんだ。え、ズルくない?」


「俺のスキルと相性いいの?」


「うん。カケルのスキルはゼロから物質を作るから神素力の消費量が多いのが欠点だけど、その『効率化』によってその問題をクリアしているわけで⋯」


なるほど、確かに俺のスキルと相性がいい。

そういえばアイリスたちのスキルは何系なのだろうか?


「なるほど。そういえばアイリスのスキルって何系なの?」


「ん?私も神祖系だよ。ついでにお姉ちゃんもね」


えっと、まじか。姉妹揃って持ってるんだ。


「ほんとに?そんなに神祖系って珍しく無いんだ」


と、俺はそう言ったがそうでは無いらしい。


「いやそれは違うよ?『始原の加護』が唯一あるスキルだから当たりだし、数も少ないよ」


とサーラさんが教えてくれたが、ここの三人中三人が神祖系スキル持ちなんですけど⋯と思った俺である。


ついでにいうと、アイリスの『始原の加護』は『二重奏デュオ』っていって、仲間と共闘するとき自身の能力を上昇させるものらしい。1人の時に発動しないので、アイリスは「ハズレだよ外れ」と口をこぼしていたが、状況的には強いのでは?と俺は思う。


まあ、まずまず『始原の加護』がある時点で有利なのは確かだからな。


あと、サーラさんにも何の加護があるのか聞いたんだけど、


「私は言わないよ?企業秘密です〜」


と教えて貰えなかった。アイリスもサーラさんの加護をあまり知らないらしい。

まぁ、自分の能力教えるのは普通はよくないから秘匿は当たり前ではあるけどね。



そうして、午後の稽古も終わり、俺の初稽古は終了したのだった。





⚫︎


⋯カケルたちが稽古場を去った後━━━━━━



「⋯なるほどね」


と、そこには木の幹に座るある一人の青年がいた。その男の髪は鮮やかなアクアブルーで、瞳には綺麗なサファイヤのような輝きを持っている。


「カケル君、ね。ん〜今年の試験には異色が多いな〜」


そう言うとその男は都へと帰っていったのだった⋯




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