第7話 初稽古・午前

翔たちと別れた後⋯



ルークは1人で家へと向かっていた。



(カケル?多分『翔』だよね。日本人だと思うけど⋯、もしかしたら僕と同じかもしれないな)



そう、ルーク、またの名を古谷 琉玖フルタニルクは、翔と同じく異世界転移者であった。

もちろんルークとは偽名である。

ルークも同様に、翔の事を日本人だと気づいていたのだ。



(会った時の顔的にあっちも勘づいているとは思うけど、最後に話をしたいって言ったから、確信してるんじゃないかな)



ルークはその場で日本人かと聞きたかったが、ルークと同様に翔も偽名を使っていたため何か訳があると思い、最後に二人で話がしたいと提案したのだ。



(まぁ、また今度って言ったし、その時に分かるかな)



そう考え、ルークは家に帰って行ったのだった。





「カケ━━朝だよ!」


「んー...」


俺は誰かの呼びかけで目を覚ました。


「カケル、朝だよ!!」


とアイリスさんの声が1階から聞こえたので、


「あ、はーい!」


と俺は返事をして1階へと降りた。


昨日の晩はと言うと、色々あったせいか疲れてしまってすぐに寝てしまった。

俺の寝床はというと、空き部屋があるらしくそこが一時的に俺の部屋になったのだ。


俺は1階に下がると、テーブルには朝食が用意されていたので、俺は席について3人で朝食を食べた。


二人を見ると、今日は何やら隊服のようなものを着ていた。何かあるのかな?

まぁ、それはいいか。それよりも聞きたかったことがあるのだ。



「そういえば、サーラさんたちのご両親はこっちに来てないんですか?」



昨日から思っていたが、2人の両親の姿が無かったのだ。二人だけ引っ越してきたのかな?



「うん。私たちは火ノ国メタレイア出身なんだけど、色々あってこっちに二人で住むことになったの」


「あ〜そうなんですね」


色々か⋯。ちょっとマズイこと聞いたかも、?


そう思っていると。


「あ、そうそう!今日からカケル君にも稽古するしね!」


とサーラさんが急に言い出したのだ。



「え、稽古、ですか?」


「うん。だってルイに勝つんでしょ?」


そう言われ、昨日のことを思い出した。そうだった⋯、ルイと決闘することになったんだった⋯。


すると⋯


「あ、後ね、騎士団の入団試験希望書出しといたから頑張ろうね!」

とまた訳の分からないことを言い出したのだ。


?」


サーラさんいわく、昨日も言ってたが、この国の騎士団である海翠水神騎士団ワーテルナイトへの入団試験は一年に一回らしい。

そして、この騎士団に入団すれば、衣食住全て保証されるというので、サーラさんは俺のためにと入団試験を申し込んだらしいのだ。



俺に言わずに勝手に⋯。と思ったが、サーラさんなら勝手にしそうではある。


別にそこは問題ではなかった。けど次の一言に問題があった⋯。



「あ、言ってなかったけど、試験まで二ヶ月だから死ぬ気で頑張ろうっか!」


そう、入団試験まで二ヶ月しかなかったのだ。


「え、本気で言ってます?」


「うん?本気だよ」


「絶対に間に合わないですよね⋯」


「任せてって。私が二ヶ月で仕上げてあげるから」


「はぁ⋯」

サーラさんは凄い人とは思うが、そんな事が果たして可能なんだろうか、、?


そうして、今日からサーラさんの稽古を受けることになったのだ。









俺はアイリスさんと稽古を受けるために、いつも使っているという都外の空き地に向かっていた。


サーラさんはというと、何やら持っていくものがあるそうなので遅れるらしい。



そのため、今は俺とアイリスさんの2人っきりである。



アイリスさんって改めて見ると、本当に美少女だよな⋯。


綺麗で艶のあるオレンジ色の髪に、雪のように白い肌。しかも、サーラさんと同じくご立派なモノも持ち合わせていて━━━━━━


すると、「⋯どこ見てるの?」と勘づかれてしまった。


俺は咄嗟に、「いや!何も見てませんよ!」

と返す。


けれど、「ふーん」とアイリスさんはこっちをすこし睨んでいた。


ヤバい⋯、やっぱ視線ってバレてるのか⋯。

謝った方がいいのか?

けど、正直に言ったら変態野郎になってしまうのでは⋯。


俺はそう考え、少し濁して


「いや、見ていましたけど⋯アイリスさんって綺麗だなぁ〜って思って見てたんです!変なところは見てません!」


と半分正直に答えると


「⋯!、ま、まぁそれなら良いけど?」

と、多分?許してくれたと思う。


少し照れてるような気もするが俺の気のせいだろう。


すると、アイリスさんから意外な提案がきた。


「あ、そうそう。私の呼び方だけど、アイリスでいいよ」


「え、いいんですか?」


「うん。というかカケルが自分で兄設定にしたんだから、『さん』付けはおかしいでしょ?勝手に兄にしちゃってさ〜」


「それはすみません⋯」



そういえばそうだった。俺が勝手に兄って名乗っちゃったから⋯。



「まぁいいけど。というか試験もあって大変だね?」



とアイリスさんはニヤニヤとこちらを見る。

明らかに煽ってやがるこの人⋯!



「⋯アイリスさんも試験あるでしょ?」


「私は優秀なんで、余裕です〜。てかまだ『さん』、ついてるよ」


「⋯すみませんね、!」



急にさん付けを無くすのも難しいし、というか、この人も『神世代』の一人だったっな。そりゃ余裕か⋯。



そうして、そうこう話していると、サーラさんがやってきた。


「お待たせ〜。はい、カケル君これ」

とサーラさんから紙袋を渡される。


俺は中身を見ると、そこには隊服のようなものが入ってあった。



「隊服、ですか?」


「うん。だってその格好だと動きにくいでしょ?」


あ、そういえば俺、普通に私服だったな。

俺は渡されたその隊服に着替える。


隊服はというと、外の素材は丈夫な布が使われており中々破れなさそう。

対して中の素材はふんわりとしていて着心地がとても良く、青と白を基調としていて、The・騎士団って感じだ。


俺はズボンタイプで、アイリスさん、いやアイリスはスカートタイプである。


サーラさんによると、この隊服は正式な騎士団のものではなく、性能は劣るそうだが、生産性が高いのでお手ごろ価格で入手できるそう。

ついでに言うと、アイリスのは特注物らしい。



それはそうと、俺も着替えたところで稽古に入った。アイリスはいつもの訓練をするらしく、森の中に入っていった。



一方、俺はというとサーラさんからの特別指導である。



「二ヶ月というわけで、昨日の夜に、サーラ直伝稽古法:即興習熟スピーディ法を作ってきました!」

そう言われ、一切れの紙を渡された。



ネーミングについては一旦置いておこう。



内容を要約すると━━━

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

1週間目〜4週間目:神素流転法の会得とスキルと剣技の練習

・ルイとの決闘→スキル確認試験


当日まで:スキルと剣技を極める!ファイト!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

というものだった。


ルイとの決闘もしっかり表記されていた。

それよりもだ、1週間目の『神素流転法』ってのは何だろうか?



「サーラさん、これに書いてある『神素流転法』ってなんですか?」


そう聞くと、サーラさんがざっくりと教えてくれた。


まぁ、要約すると

『神素力を使って身体能力を底上げする』、いわゆる『能力強化バフ』らしい。


能力強化バフ、ですか」


「そう。スキルを使う時もそうだし、戦闘面では基本中の基本のやつね。まぁ主なやつを挙げると━━━━━」


とサーラさんが上げてくれたのは


『視認速度上昇・聴力上昇』

『物理攻撃力上昇』

『思考速度上昇』

『移動速度上昇・跳躍力上昇』


の六つで、他にもたくさんあるのだそう。


「んじゃ、さっそくやってみよ〜。まずは簡単な『視認速度上昇』と『移動速度上昇』、『跳躍力上昇』を使ってみよっか」



「どう使うんですか?」



「簡単簡単、各体の部位に神素力を送ればいいんだよ。例えば、目に送ったら『視認速度上昇』だし、足に使えば『移動速度上昇』を得られるよ」


なるほど、?とりあえず送ればいいのか。


俺は試しに、足に向けて送ってみる。

神素力を送る動作は、スキルの時になんとなくコツを掴んだから行けると思う。


そして使ってみると━━━━━━


「え、めっちゃ速い!!」


「おぉ〜!出来てるじゃん」


そう、自分には有り得ないような速度で走れているのだ。俺は50mは6.2秒ぐらいだが、今は3秒台はあると思う。


しかもめちゃくちゃ飛べるのだ。

いつもよりも2、3倍は飛んでいる。


これらが、『移動速度上昇・跳躍力上昇』だ。



なにこれ!めちゃくちゃ楽しい。



そうして、他の『能力強化バフ』を使ってみることに。

まずは、目と耳に神素力を流して、『視認速度上昇・聴力上昇』を使ってみた。


すると、周りの動きが遅く感じたのだ。

もちろん、周りが遅くなっている訳では無い。

サーラさんに剣を振ってもらうと、動きがいつもよりスローモーションに見えた。


ルイが俺に斬りかかった時に見えなかったのはこれを使ってなかったからかな。


『聴力上昇』は、名の通りに微細な音にも気づけるようになった。


『物理攻撃力上昇』は、腕に流せば良いらしいので、流して、その辺の木に殴ってみると⋯


「⋯いっった!!」


うん、めっちゃ痛かった。もちろん殴ったところは凹んでいて、威力の大きさが分かるが、痛いものは痛かった。


「そりゃそうでしょ⋯」

とサーラさんも呆れていた。


だってさ?『能力強化バフ』があったら、防御面も大丈夫だと思うじゃん⋯。


そうして大体使ってみたのだが、『思考速度上昇』に関しては、単体では分かりずらいらしいので、後で使ってみることに。



そうして、そうこう試していると、もう昼になっていた。



「んじゃお昼ご飯にしよっか!」

と、サーラさんが弁当を持ってきてくれたのだ。


少しすると、アイリスも帰ってきて3人で昼食を食べた。


メニューはサンドイッチで、めちゃくちゃ美味しい⋯!サーラさんってどこか抜けてるけど、よく考えたら、料理もできる・多分強い(団長だから)・美人

っていうハイスペック人間なんよな⋯。


そうして昼食を食べ終えて、午後の稽古に入った。



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