第4話 ルミエール姉妹

「デカくね⋯」

そう言ったのは、サーラさんの家が思ってた以上に豪邸だったからだ。


自分の家は至って普通で小さくはないと思うが、それでも俺の家の2、3倍はある。

けど、それもそっか。

そりゃここ首都だし、しかも宮殿近くの一等地。ましてや、サーラさんは団長らしいからお偉いさんなのは間違いない。

日本で言う東京の都心部の一等地みたいな感じなんだろうな、ここ。

そりゃ凄いか、と納得したのだった。


俺はサーラさんに続いて家に入った。

「ただいま〜、アイリスいるー?」

と、サーラさんが大きな声で言うと直ぐに奥のドアから人が現れた。


「おかえり〜お姉ちゃん⋯ってその人誰?」

その人は、サーラさんととても似ていた。

髪色は濃い橙色のロングヘアーで、背はサーラさんより少し小さめだ。

サーラさんはThe美人だったが、その人は言うなら、美人と可愛いのハーフだった。

間違いなくこの人が妹さんなんだと察した。


「うん。まず紹介すると、この子はクロノカケル君。こっちが私の妹のアイリスね」

とサーラさんが紹介してくれた。

俺は続けて自己紹介をする。


「初めまして、自分は黒野翔です。少し色々あり、サーラさんに助けて頂いてここに来ました」


「えっと⋯、こちらこそ初めまして。私はアイリス=ルミエール。色々って所が気になるけど、家に連れてくるなんて、多分重大なことなんでしょ?ね、お姉ちゃん?」


アイリスさんは疑いの目で俺を少し見つめながらサーラさんに問う。

そりゃ知らん人が急に来たら怪しむよね。


問われたサーラさんは「うん。まぁ、ここじゃなんだしさ、玄関じゃなくてリビングで話すよ」


といい、俺は案内されリビングのテーブルに座った。


俺の横にサーラさんがいて、正面にアイリスさんがいる構図。

高校の三者面談を思い出す。

それなのか分からないがなんだか緊張するんだよな⋯。


サーラさんが紅茶を入れてくれて、リビングには紅茶のいい香りが広がっている。


そのおかげで少し緊張も和らいだ。


そうして、サーラさんが経緯を説明する。


「えぇ?!異世界人?ほんとに?」

「はい、恐縮ながら⋯」

「がちで?」

「がちです」


アイリスさんは驚いて困惑している様子。

この世界では異世界人は珍しいらしいから、そうなるのかも。


「前の世界で死んだと思ったらここに来ていて。そしたら森で魔物に襲われて死にかけそうになったところをサーラさんに助けてもらったって感じです」

「えぇ、大変だったね⋯」

「そう!そうなんですよ⋯」


アイリスさんになんか同情されてしまう始末である。そして、一通り説明が終わったところで 本題に入る。


「まぁ、そんなわけでカケル君って住む場所も食料もないでしょ?だから少しの間、衣食住が揃うまで私たちの家で住まわしてあげようと思うのだけど、いいかな?」


とサーラさんが聞くと、「そうくるか⋯」と呟き、腕を組んで考えこんだ。


やはり、知らない男と暮らすのなんて嫌だろうなぁ...とは思う。


俺だって急に知らない人と暮らすなんて⋯、え?君は住むとしても美女2人とだから嬉しいだろうって?

いや、そんなことはないよ。決して。断じて。

目の行き場が困るぐらいなのだ。


するとサーラさんが俺へ


「カケル君、もちろん住むってなったら家の仕事とかしてくれるよね?」

と聞いてきたのだ。


「え、はい。そりゃもちろん」


住まわせてもらう立場だから当たり前である。『働かざる者食うべからず』だ。


「だよね。だから、もしかしたらアイリスがやっている家事、ぜ・ん・ぶカケル君がしてくれるかもなー」


となんか聞き捨てならない事が聞こえた気がする。なんか嫌な予感か⋯。


それを聞いたアイリスさんの体が完全に止まる。そして俺の方を見る。


「してくれるの??」

と、とても嬉しそうな顔で見つめてしたのだ。


もし、これ拒否ったら住む場所無くなるし、俺に拒否権はない。完全に嵌められた。

まさか、となるとは⋯。

そう思っても後の祭りである。


「喜んでさせていただきます⋯」

「ほんとに!?ありがと!なら全然いいよ!」

と、とても嬉しそうにグッドポーズをしていた。


サーラさんは「さすが我が妹だね」と言っているが、俺は横目でサーラさんを睨む。


サーラさんはそれに気づいて、小声で「(ごめんね?けどこうするしか無かったの!)」と弁明した。


そう言われると何も言えないのだが⋯。

嵌められたのは嵌められたので、密かにいつか仕返しが出来るようにこの気持ちは心に閉まっとくのであった。







まぁ、俺の衣食住は確保できたので、それだけでも大収穫である。


これで話し合いは終わりかな?と思ってたらそれで終わりではなかったらしい。

サーラさんから俺に聞きたいことがあるのだとか。


「えっとね、さっきあの巨大蜘蛛、巨闇蜘蛛ナイトロメガスパイダーって言うのだけど、そいつの攻撃、1回で防いでたよね?」


え、あーー、言われてみれば確かに?


思い返して見れば一回目の攻撃のとき自分でもよく分からなかったけど、石の壁?みたいなので防いでいたっけ。


今思えばなんだったんだろうか?あれは。


「はい。あれは実は自分でも分かっていなくて。死んだって思ったら目の前に石の壁ができていた感じです」


と俺が言うと、サーラさんとアイリスさんが目を合わせて何か考えている様子。


何かやばいことなのかな⋯。


すると、サーラさんが服のポッケから何かを取りだした。


机に置かれたのは石の欠片である。

するとサーラさんが説明する。


「あの時に一様拾ったのだけど、この欠片は巨大蜘蛛によって粉砕したやつね。アイリス、これ、神素力じんそりょく量すごくない?」


「んー確かに。一般人には無理な芸当だよね」


えっと、神素力ってなんだ?

魔力とかと同じ系列かな?


「『神素力』、ですか?」

「うん、神素力ってのはね━━━━━」


サーラさんが言うには、神素力はこの世界を構成しているものの一つで、この神素力というのを使って魔法やスキルを扱うらしい。

人間の体にも神素力が元々あるのだそうで、

その保有量は人によって千差万別らしい。


となると

「もしかして、あの時の石の壁は俺が神素力を使って作り出したものってことですか?」


そう言うと、サーラさんは意外だったのか、驚いた様子で

「え、あ、うん。そうそう。私が言おうとしてたのに先越されちゃった。すぐに分かるなんて君、ほんとに異世界人?」


「怪しい〜」


と2人から疑われる。たまたま考察が当たっただけなのに⋯。


「異世界人です!たまたま当たっただけですよ。それはそうと、話を戻しますけど、これを作ったのは魔法かスキルってことですか?」


そう聞くとアイリスさんは首を振る。


「んー、魔法は違うんじゃない?だってあれって後天性で、加えて詠唱もいるし、知識がないと無理だからスキルの方じゃない?お姉ちゃんの話的にも詠唱もしてなそうだったし、スキルは先天性だから咄嗟に発動出来たのも説明できると思うけど」


「あれ、アイリスってそんなに賢かったっけ?」


「バカにしないでくれる?魔法とかスキルの座学は同年代ならトップなんだから」


「他の教科は?」

「⋯怒るよ?」


なぜか姉妹喧嘩が始まりそうなので話を戻した方が良さそうである。

俺は「えっと…2人とも落ち着いてください?」と2人を落ち着かせる。


「アイリスさんの話でいくなら、俺はスキルを持っている。ってことですか?」


「そうそう、その可能性が高いかも」


と、サーラさんもこう言ってくれたので、俺にスキルというものがある可能性がある。


俺にスキルか。と思うと少し嬉しいのだが、あまり実感がない。

さっきは咄嗟のことでスキルを使ったのかあやふやだったからな。


「そうなんですね。けどあんまり、まだ実感がないです」


「なら今から少し試したら?まだ夕方前だし訓練場もこの時間なら空いてるんじゃない?」


「確かに、アイリスの言う通りかも」


と、2人から勧められた。確かに俺もどんなスキルなのか知りたいし、漫画でしか無かった色々な事ができる、となると少しだけワクワクしてくる。


「はい!ならさっそくいきましょう」


そうして、スキルを試すために俺たちはその訓練場とやらに向かうのであった。

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