第2話 出逢い

「チュンチュン」と小鳥のさえずりが遠くから聞こえた。

それによって俺は目を覚ます。


「まぶ、、しい」

目を少し開けると太陽の光が直に差し込んでくる。

目を完全に開けるのも一苦労だ。


そして、そのとき俺は死んでいないことに気づく。俺の体には傷一つすらない。

心臓の音もはっきり聞こえる。

俺ってビルから転落して死んだはずじゃ…?


俺は周りを見渡す。

そこは深緑色の閑静な森だった。

木々が生い茂り、木と木の間から太陽の光が差し込んでいる。

俺の寝てた場所だけ木が一本もない更地となっていた。


俺の住んでいるところでは無いことは明白だった。ならここはどこなのか?

俺を誰か助けてくれてここに運んだとか?

なら、なんでこんな森に置くんだよって話だよな…。


まぁ、とりあえず周りを探索するしかない、か。誰かいるかもしれないし。

俺は立ち上がり、右奥に小道があったのでそこに向かって歩き始めた。







俺は歩き始めて観察していると、周りには俺が今までに見たこともないものが沢山あった。

デカくて見た目の気持ち悪いキノコや、虹色に輝く花などだ。

俺の経験上、見たことも聞いたこともない植物ばっかりだった。

そこから、俺はひとつの考えにたどり着いた。


ここ、異世界では?と。

いや、ラノベの読みすぎとかではなくてね?

明らかに植生がおかしい。

海外ならワンチャンあるかもしれないけど…、日本なら尚更ありえないし…。


やっぱりこの世界って…と考えてた時。

突然悪寒に襲われた。後ろから気配を感じる。

黒い巨大ながいることに気づいた。


後ろを振り向きたくない…。

やばい、と俺の脳がそう訴えている。

あの時、柵の上に乗った時のように。

死を後ろから感じる。


しかし後ろを見ないと何も進まないのは確かだった。

恐る恐る俺は振り向く。

もしかしたらめっちゃオーラがすごい、ガタイのいい人なだけの可能性があるし、ね?


けれど、そんな希望があるわけがなかった。

そこに居たのは真っ黒な巨大蜘蛛。

俺の2、3倍でかく、周りには黒い禍々しいオーラを発していて、外骨格は金属のように光沢を纏っている。

何をしても傷がつかなそうだった。


あ、ダメなやつだ。

と俺はすぐに全力で逃げ出していた。

この決断の速さが俺の数少ない長所である。


すると、その巨大な蜘蛛が「シャァァ!!」と俺を追いかけて走ってきた。


走ったところの土は深くえぐれている。

逃げていなかったら即死してただろうな。

と悠長に考えれてるのは、足には自信があったからだ。


そう、俺は陸上部なのである。部内でも速い方だ。

けど、ここで注意して欲しいのは、けっして強豪ではない、ということ。


それはいいとして、少しずつ俺と巨大蜘蛛の間の距離が縮まっているのを感じる。

蜘蛛のスピードが思ったよりも速い、てか当たり前か。俺よりも数倍もでかいんだから。

このままじゃヤバいっと思ったその時だった。


巨大蜘蛛が俺の前方に黒色の糸を吐いたのだ。

それによって前方の木が軽々と折られ、俺の進路を塞いでしまった。


この蜘蛛、知性あんのかよ!?


と思ったが、俺に吐いていればそこで終了だったのでは?と冷静に考え込んでしまった。


いやいや、そんな場合じゃない!

前は巨大蜘蛛、後ろは倒木によって行き止まり。


巨大蜘蛛が俺をじっと見つめる。


どう殺そうか考えているのかもしれない。

チッ、ここまでか⋯。と俺はあきあきする。

ここでも神に見放されたのだから。


(今度こそ死ぬのか?)


そんな言葉が脳裏を過ぎる。


蜘蛛の振り上げた脚が俺に向かってくる。

俺は必死に腕を上げて止める姿勢に入る。

けど、そんなものは当然意味は無い。


俺は潰れると悟った。


ごめん、母さん。今度こそ死⋯

が、現実はそんなことは無かった。


ガゴン!! と鈍い音が響く。

え?っと俺は目の前を見ると俺の手の前に巨大な石の壁が出来ていた。


それが巨大蜘蛛の攻撃を弾いたのだ。


俺は何が起きたか理解できなかった。

けれど奇跡もそこで終わる。

2度目の追撃で粉々に粉砕したのだ。

そして、間髪入れず3度目の追撃がくる。


(もう、ダメだな⋯)

と俺は目をつぶった。


その時だった。

カーーーン!っと、金属と金属が当たったような音が響く。


俺は、え?と思い目を開けるとそこには、オレンジ髪のすらっした女性が巨大蜘蛛の攻撃を剣で受け止めていた。


身長は俺と同じ、か少し高いぐらい。

ちなみに俺は170cmである。四捨五入したらね()


その女性が後ろに振り返る。

「君、大丈夫?間に合ってよかった。私が来たからもう安心だよ」


突然現れたその女性はとても美しかった。


俺には彼女の風貌がまるで女神かのように映った。

雪のような白い肌で華奢であり、なんであの攻撃を受け止めれるか分からないほどの腕の細さである。

そうして、そこからのその女性の反撃が凄かった。


「剣:属性付着アタッチメントフレイム


そう唱えると彼女の剣に炎が纏わりつく。

その炎は優しく、とても美しかった。

そして一撃で雌雄が決まった。


焔刄斬フレイムスラッシュ!」


彼女は綺麗な太刀筋で巨大蜘蛛を真っ二つにしたのだ。


蜘蛛の切られたところは炎によって燃えていて、その蜘蛛は徐々に黒い塵となって空中に舞い、消えたのだった。


「ふー、倒せた倒せた。君大丈夫?怪我はない?」


俺はその剣技に見蕩れていたあまり(女性にでは無いよ?)ぼーとしてしまった。


「え、あ、はい!大丈夫です!本当に助かりました。本当に死ぬかと⋯」


「いえいえ、どういたしまして。それで君はどこから来たの?名前は?なんでこんな所にいるの?」


そう質問されたが返すのに困る。

異世界から来ました!なんて言ったら完全に変な人だろうし⋯。

けど正直に言った方がいい気がする、うん。

この人なら受け入れてくれそう。直感だけど。


「自分は黒野 翔です。信じてもらえるか分からないんですけど、色々あって気づいたらこの森で寝てて。そして起きたら自分がいた世界?とは違う感じで⋯」

と俺はオドオドしながら答える。


「カケル君ね。私はサーラ=ルミエール、よろしくね。えっと、カケル君がいた世界と違うってどうゆうこと?」


俺はその女性、サーラさんにこの森でみつけたキノコや花、そしてさっきの巨大蜘蛛など俺のいた世界では存在しないことを説明した。


「⋯っとなるとカケル君は異世界から来たってこと?いわゆる異世界人??」


「そうゆうことになるかもしれません⋯」


「ほんとに?!本当に存在するんだ、異世界人って。私って結構運あるかも!」


とサーラさんは嬉しそうに俺の手を握る。

美女の顔が近くにあるのと、手を握られて、女耐性がない俺にはなかなかヤバい。


て、ていうか俺以外にも異世界人がいるのか?


「えっと、異世界人って他にもいるのですか?」

俺は手を離し、少し距離をとる。


「うん。噂で聞いたことあるぐらいだけどね。けど本当に少ないと思う。確認されてないだけかもしれないけど、いるにはいると思うよ」


なるほど、と仲間は居るのかと少し安心した。


ん?てかちょっとまてよ?

さっきまで当然のようにスルーしてたんだが、なんでが通じるんだ?

サーラさんは絶対日本人じゃない、というか異世界なのに、サーラさんの言葉は不自然のない流暢な日本語なのだ。


「なんで言葉が通じるんだ...?」

と不思議のあまり、心の声が漏れてしまった。


「あぁ、それは多分【常用スキル】『言語理解』のおかげだと思うよ。このスキルがあったら相手の言語が違っても自動で自国語に変換してくれるの。多分転移時に獲得してたんじゃないかな」

と丁寧に教えてくれた。


「そんなのがあるんですね⋯」


なにそれ欲しい⋯いやもう持ってるのか。

前の世界でそんなのがあったらガチで重宝されただろうに。

まぁ、あるなら有難く使わせてもらおう。

過程とか別にいらない、よね?


そしてサーラさんは続ける。

「となるとー、カケル君は今、衣食住何も無いって感じ?」


「はい⋯、恥ずかしながら⋯」


俺って、多分このままだと飢え死にするよな。

死のうとしてた俺が言うのもなんだが飢え死には嫌かな…。だって苦しいし⋯。


というか、だ。やっぱり母を1人にして置いていく訳にはいかない。苦しくても生きなくちゃ⋯。


帰れるなら早く元の世界に戻りたい。


「んー⋯、まぁとりあえず私の家で泊まるといいよ。ほっとけないしね。家には妹もいるけど私が説得するから多分大丈夫!」

とグッジョブしている。


俺は意外な提案に戸惑う。


確かに衣食住確保できるのは有難いけど⋯、妹さんとサーラさんに迷惑になるよな⋯。

けど、これ以上当てがないから本当に渡りに船である。


「え、本当ですか!本当に助かります。えっと、サーラ様と呼ばせてもらってもいいですか?」

と俺は真面目な表情で言った。


「まぁー、ありよりのありかもしれないけどー、恥ずかしいからサーラでお願い!」

とサーラさんは少し照れた表情でそう答えた。


「あ、はい。じゃあサーラさんって呼びます」

美女が照れている。これは絵になるな⋯。と俺は脳内シャッターで永久保存したのだった。







そうこうしていると、いつの間にか日は落ち、夕方となっていた。


「もうこんな時間、そろそろ行こっかカケル君」

「はいそうですね」

俺たちはサーラさんの家へと向かうことに。

俺は家に向かいながら、サーラさんに色々とこの世界について教えてもらった。


サーラさんが言うには、ここは「水ノ国アクアリス」という国の領土らしい。

そしてサーラさんの家はその国の首都「アクア」にあるという。

けれど、サーラさんは「水ノ国」出身ではないのだそう。何かワケありみたい。



まぁ、それは置いといて。

今いるのは首都「アクア」の近くの森で、もう少し遠くに転移してたら、魔獣に襲われて死んでいた可能性が高かったらしい。


危なかった⋯。俺は九死に一生を得たというわけだ。



そして、サーラさんが加えて教えてくれたのが、この世界には大きく5つの大国があるらしい。

それは先程言った

水ノ国アクアリス」そして 、

火ノ国メタレイア

風ノ国ゼフィール

地ノ国デゼール

最後に

「メリゼナス人導じんどう人民共和国」なのだそう。


上記の初めの4国は『神』による統治がされているという。

この世界には神がいるのか?と少し驚いたが、本当に存在するらしい。


そして最後の「メリゼナス人導人民共和国」は他の4国とは変わって、普通に人による統治がされている国なのだそう。

神が統べる国と対等に並んで大国となっていることから異端さが分かる。


また、さっきの四神の他にも2人ほど神がいるそうだ。

この世界には合計で6人の神がいるわけだな。


サーラさんから聞いたことはこんな感じだった。


けど、『神』という単語に少し俺の中で引っかかる。

俺は神は嫌いだ。

なのに俺は神のいる世界へと飛んでしまった。

どんな偶然の重なりかと思ってしまう。


そうして、しばらく歩いていると、森をぬけて見晴らしの良い丘にでた。

そこに広がっていたのは俺が見た事もないような絶景だった。


首都アクアは、大きな城壁によって囲まれていた。ヨーロッパ風の白い家々が立ち並び、最奥には堂々たる真っ白な宮殿が立っている。

その宮殿の奥にはダム?かな。

ダムみたいな巨大な建造物がそびえ立ち、圧巻だと言わざるおえない。


「これが水ノ国アクアリスの首都''アクア''⋯」

俺は本当に異世界に来たんだ。と、この景色を見るとひしひしと感じる。


「んじゃ、入口へ向かおうか」

「はい!」



⋯俺は異世界転移して、偶然にも俺が憎んでいる神がいる世界へと来てしまったらしい。

まぁ、けど神なんてそう簡単に会えるわけ無いだろうし、大丈夫だろう。

と俺はそう考えることにしたのだった⋯




しかし、この時の俺は知る由もないが、後に本当に神と会うことになるなんて、俺は思ってもいなかったのだった⋯。

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