第22話 野獣先輩と廃墟のエクスカリバー

 ある日のこと、野獣先輩は町外れの廃墟に足を踏み入れることになった。その廃墟は、かつて王が築いたという伝説の城であり、今では朽ち果て、誰も寄り付かない場所となっていた。


「この先にエクスカリバーがあるってマジ? ……んにゃぴ、信じられないっすね。」


 彼は半信半疑ながらも、持ち前の生意気さと好奇心に駆られて廃墟の門を押し開けた。重々しい音が響き渡り、錆びついた扉が軋みながら開く。


「これ、完全に廃墟じゃん(驚愕)。まぁいいや、王道を征くルートだしな。先に進むぞ」


 廃墟の中は薄暗く、埃とカビの匂いが充満していた。床はところどころ崩れ、壁には無数のひびが走っている。足元に注意しながら奥へと進むと、突然、不気味な声が響いた。


「ここを進む者よ、名を名乗れ」


「誰だよお前……あ、俺? 俺は野獣先輩だぞ。何か文句あんのかおるるぁん?」


 声の主は、朽ち果てた甲冑を身にまとった幽霊だった。彼は野獣先輩を見下ろし、厳かな口調で告げる。


「エクスカリバーを求めるならば、試練を乗り越えねばならない」


「はぇ〜、そういう展開ね。まぁ、俺に任せてくださいよ」


幽霊が指し示す先には、三つの扉があった。それぞれの扉には「知恵」「勇気」「力」と書かれている。


「選べってこと? ……んじゃ、知恵から行くっすわ。」


第一の試練:知恵の部屋


 扉を開けると、そこには巨大な石板があり、あほみたいに古代文字が刻まれていた。その横には、一匹の小さなスライムが佇んでいる。野獣先輩は完全に格下と見なしてなめてかかる。


「おいおい、スライムとか雑魚キャラじゃん。余裕っしょ。冷えてるかー?」


 スライムはぴょんと跳ねながら、意外にも人語を話した。


「お前、雑魚とか言うけど、この文字読めるんか? サルみたいな顔してるけどよぉ」


「読めるわけないだろ! いい加減にしろ!」


 スライムはクスクス笑いながら、ヒントを出してくれた。


「この文字は、知恵を持つ者にしか解けない暗号だゾ」


 野獣先輩は石板をじっと見つめた。古代文字はチンプンカンプンで難解だったが、彼は持ち前の浅知恵と悪知恵とほんの少しのひらめきで次々と文字を解読していく。


「ふんふん、なるほどね……これ、完全に解けたわ」


 当てずっぽうに石板に手を触れると、扉が音を立てて開いた。スライムは驚きながらも感心した様子で言った。


「やるじゃねぇか、お前!」


「まぁ、当然っすね(謙虚)」


 まったく解読していないが、扉は開いたし多少はね?


第二の試練:勇気の部屋


 次の部屋は暗闇に包まれていた。野獣先輩が一歩踏み出すと、床が突然揺れ始めた。


「うわぁ! やばいやばい! これ、床抜けるやつですねぇ!」


 目の前には細い橋が架かっており、その下には燃え盛る溶岩が広がっている。

カ●ジにありそうな鉄骨ならぬ橋渡りだ。


「ふぅーあー。これ、普通に無理でしょ……って思ったけど、やるしかないっすね。おかのした」


 野獣先輩は恐怖を抑えながら、一歩ずつ橋を渡っていった。しかし、途中で強風が吹き始め、彼のバランスが崩れそうになる。


「ンアッー! 落ちる落ちる落ちる! いいよこいよ!!」


 それでも、彼はなんとか踏ん張り、無事に橋を渡りきった。


「俺、やっぱつえぇわ……勇気って、こういうことなんすねぇ」


第三の試練:力の部屋


 最後の部屋には、巨大なゴーレムが待ち構えていた。


「おいおい、こんなの勝てるわけないだろ……って、言っても仕方ないか。まずうちさぁ。火の剣あんだけど、焼いてかない?」


 ゴーレムはゆっくりと動き出し、野獣先輩に向かって拳を振り下ろした。彼はそれをギリギリでかわし、反撃のチャンスを伺う。


「やりますねぇ! ブッチッパ!」


 野獣先輩は廃墟に転がっていた火を纏った錆びた剣を拾い上げ、ゴーレムの関節部分を狙ってせこい攻撃を続けた。何度も繰り返し攻撃するうちに、ゴーレムの動きが鈍くなり、ついには崩れ落ち、動かなくなった。


「勝った……やっぱ俺、王道を征く勝利者なんで。奥までほらほらほらほら」


エクスカリバーの間


 すべての試練を乗り越えた野獣先輩は、ついにエクスカリバーが安置された部屋にたどり着いた。そこには、眩い光を放つ剣が石に突き刺さっていた。


「これがエクスカリバー……って、光りすぎだろ! いい加減にしろ!」


 彼は剣に手をかけ、一気に引き抜いた。その瞬間、廃墟全体が光に包まれた。ポット出幽霊たちは次々と姿を消し、廃墟は静寂を取り戻した。


「やっぱり俺、選ばれし者だったんすねぇ」


 エクスカリバーを手にした野獣先輩は、胸を張りながら廃墟を後にした。町に戻ると、人々は彼の活躍を聞きつけ、拍手で迎えた。

 後輩の遠野が先陣を切って野獣を祝福した。


「先輩、すごいっすね!」


「ま、こんなもんっすよ(隙自語)」


 こうして野獣先輩は伝説の英雄として名を刻み、再び平和な日常へと戻っていった。


 調子に乗った野獣先輩の破滅


 しかし、エクスカリバーを手に入れたことで、野獣先輩の心に変化が生まれてしまった。最初は正義のために剣を振るっていた彼だったが、その圧倒的な力に酔いしれ、次第に調子に乗り始めるのはお約束だった。


「俺、最強じゃん? この剣があれば、世界征服も余裕っしょ! みろよみろよ!」


 彼はエクスカリバーを手に、次々と周辺の村や町を支配下に置いていった。最初は英雄として迎えられた彼も、力を乱用するようになり、人々の恐怖を買うようになった。


「おいおい、逆らうとかマジありえないっしょ? 俺に逆らうやつは、こうだってはっきりわかんだね!」


そう言ってエクスカリバーを振るうと、一振りで建物が吹き飛び、大地が裂けた。


「やっべ、俺の力、ヤバすぎだろ(歓喜)」


 次第に元々サル以下の脳みそだった野獣先輩は理性を失い、全世界を力でねじ伏せようとするようになる。人々は彼の暴走を止めるため、各地の勇者を呼び集めたが、エクスカリバーを手にした彼の前では誰も歯が立たなかった。


「お前らさぁ、俺に勝てると思ってんの? 身の程を知れよ」


 野獣先輩の力は止まることを知らず、ついには世界全土を支配するに至った。しかし、その圧倒的な力が原因で、地球そのものが崩壊の危機に瀕してしまう。


「なんか地面が割れてね? ……え、これ俺のせい?」


 エクスカリバーの力を乱用したことで、世界のバランスが崩れ、大地震や火山噴火といった超天変地異が頻発するようになった。人々はパニックに陥り、彼に救いを求めたが、野獣先輩はもはやその責任を取る気力も失っていた。


「俺、こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……」


 最終的に、エクスカリバーの暴走によって地球は滅亡し、野獣先輩もまたその運命から逃れることはできなかった。

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