第21話 アマゾンの秘宝をパクる先輩

「ぬわあああああああああああああああああああああああああああああん疲れたもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん」


 アマゾンの密林に響く鳥のさえずり、湿った空気に漂う生命の匂い。その中を進む一隻の小舟に乗り、疲れたとほざく男がいた。

 その名は野獣先輩。彼はどこか気怠げな表情を浮かべながらも、確固たる目的を胸に秘めていた。


「ここがアマゾン川ってやつかぁ……やべぇよ、やべぇよ……」


 野獣先輩はぼそりと呟きながら、舵を取る手に力を込めた。遥か彼方、霧の中にうっすらと浮かぶ古代の遺跡。その奥深くには、数百年の時を超えて眠る黄金の財宝があるという。先輩はその噂を耳にし、独りこの冒険に挑んでいた。

 小舟が進むにつれ、川岸にはジャングル特有の奇妙な生物たちが顔を出す。


「こ↑こ↓、マジで命懸けって感じだなぁ」


 彼の呟きに応えるように、木々の間から鋭い目つきの獣がじっとこちらを見ている。見た所、ジャガーという大型の肉食動物だった。

 しかし、幾多のダンジョンを踏破してきた野獣先輩は怯むことなく、彼特有の野獣の眼光でその目を見据えた。


「おっ、大丈夫だ問題ないですねぇ!」


 胸元から取り出したイキスギナイフを見せつけると、ジャガーは一声低い唸りを上げて姿を消した。やはり彼はただの男ではない。その鋭い洞察力と冷静さは、並大抵の冒険者では真似できないものだった。たぶんね。

 数日後、野獣先輩はようやく目的の遺跡へとたどり着いた。巨大な石の扉が彼の前に立ちはだかる。


「学生です」


 先輩は懐から古びた巻物を取り出し、その指示通りに石扉の仕掛けを解いていく。だが、その時だった。


「ふぁっ!? 罠だこれ!!」


 床下から無数の矢が飛び出し、彼を貫こうとする。咄嗟の判断で身を翻し、間一髪で危機を回避する先輩。


「やっぱりなぁ、こういうのがあると思ったんだよなぁ……。はい、リスペクト」


 そう言いながらも、彼の顔には焦りの色はなく、むしろ余裕すら感じられる。


 扉の奥には広大な空間が広がり、その中心には輝く黄金の像が鎮座していた。周囲には古代の文字が刻まれた壁画があり、何かを訴えかけているようだ。


「これが……例の財宝かぁ……。はぇーすっごい……でかい」


 しかし、彼が像に手を触れた瞬間、遺跡全体が揺れ始めた。紛れもなく崩壊の兆しだ。


「まずいですよ! 逃げなきゃ……。」


 彼は黄金の像を力づくで引っこ抜いて背負い、全力で遺跡を駆け抜けた。後ろから迫る瓦礫と土煙を振り切り、ついに外の光が見える出口へと飛び込む。


「ほらほらほらほらぁっ!!!!! いきすぎぃ!!! んあっあああああああああああああああ!?」


「うぼあー。やったぜ」


息を切らしながらも、先輩は笑みを浮かべた。こうして彼は無事に秘宝を手に入れたのだった。

 その後、先輩は財宝を手に故郷へ帰還した。その活躍は瞬く間に広がり、彼の名はアマゾンの英雄として語り継がれることとなる。


「まぁ、こんなもんでしょ」


 そう言い残し、野獣先輩は再び新たな冒険へと旅立つのだった。

 後日、アマゾンの英雄(笑)として名を馳せた野獣先輩だったが、その後の人生は意外な方向へと進むこととなる。財宝を手にしてから810時間後、先輩はひっそりとした生活を送っていた。

 しかし、世間の目から逃れるように暮らすうちに、彼の手元の財宝も少しずつ減り、ついには仕事を探すことになった。


「やべぇよ……生活費が尽きるよ……」


 そんなある日、彼は「AMAZON倉庫」の求人広告を目にする。

 アマゾンの英雄がAMAZON倉庫とかどうかしてるぜ! とか思いながらも。


「これだぁ!」


 先輩は即座に応募し、面接に臨んだ。かつての英雄とは思えない緊張の面持ちで、採用担当者の質問に答える。


「えっと、長所は……冒険経験が豊富で、体力には自信があります!」


 採用担当者は少し困惑した表情を浮かべたが、その熱意に押されて先輩は無事採用された。

 倉庫での初日、あっけにとられた先輩は大量の商品を目の当たりにして呟いた。


「すっごい……多い」


「それじゃあ野獣君、そこの棚を30分で5万ヵ所に仕入れてクレメンス」


「ふぁ!? おかのした」


 与えられた仕事は商品を棚に並べたり、出荷準備をする単純作業だった。しかし、先輩はその手際の良さと、冒険で培った身体能力を活かして瞬く間に成果を上げていった。


「おー、ええやん!!」


「やりますねぇ!」


 同僚たちからも一目置かれる存在となり、次第に職場のムードメーカーとして愛されるようになった。

 ある日、先輩は倉庫の奥で奇妙な箱を発見した。箱には古代文字が刻まれており、彼の冒険心を再びくすぐった。


「これ……やべぇ匂いがするぞ……」


 好奇心を抑えきれず、箱を開けた瞬間、中から黄金の輝きが溢れ出した。それは彼がかつて手にした秘宝の一部であるかのようだった。

 日に日に彼の元から財宝が減っていた原因が見つかったかもしれないのだ。


「ふぁっ!? なんでこんなところに……。」


 その出来事をきっかけに、彼の中で再び冒険心が燃え上がる。倉庫の仕事を続けながらも、次なる未知の財宝を探す計画を練る先輩。


「次はどこ行くかなぁ……。」


 こうして、軍資金を稼ぎつつ野獣先輩の新たな冒険が静かに幕を開けるのだった。

 翌日にアマゾン倉庫内の商品を横領して野獣先輩はクビになってしまうのだが、それはまた別のお話。あほくさ。

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