第2話
夢を見た。
とても良い夢とは言い難い夢だった。
夢の中で自分は…死んでいた。
夢でよかった、そう思った。
憂おうが晴れ 第二話
「本日は晴天」
…ふぅ。
昨日のニュースのことで少し考えすぎたのか、悪い夢を見てしまった。
…この国では、魔法使いは殺される。
通常、功翔では、病院で出産したのちにすぐ赤子を検査し、魔法使いでないことを確認してから、赤子が親に引き渡される。
通常通りであれば、俺は…既に生まれたての赤ん坊の時に殺されていた。
俺が生きているのは…そう、何よりあの例の[晴れ傘]のお陰であるのだ。
俺が出産された場所は、病院ではなく[晴れ傘]
の施設だった。
[晴れ傘]の信者の中で医療に携わっていた者も一定数おり、そのような人たちで構成された病院があるのだ。
昔、姉弟を殺されたことがある母は、[晴れ傘]のアンブレラ(教会のような場所)を訪ね、そのような病院を紹介してもらったらしい。
…検査の結果、俺は魔法使いだった。
魔法の使い方なんて15年生きていても分かりはしないけど。
…まぁ、今日も普段と変わらぬ日常が続くのなら十分だ、過去のことはどうでもいい。
─ベッドから身を起こし、朝の支度を済ます。
さっさと支度を終わらせれば、すぐ学校へと向かう。
「行ってきまーす」
「いってらっしゃい。気をつけるのよ。」
…今日も晴天だ。
晴れの日の通学路から見る海なんて何度も見てきたが、何故だか今日は一段と輝いて見えた。
きっと今日が金曜日だから…かな?
明日からの休日のために、今日は1日頑張って過ごせそうだ。
─学校へと向かう途中、友人と合流する。
「麗也〜!おはよ!」
麗也とは対照的に小麦色に焼けた肌で、明るい金髪の元気はつらつとしている彼の名前は三宮 海斗。麗也の中学からの親友である。
「おはよ。課題、ちゃんとやってきた?」
「それが…麗也、数学の課題さ…ちょっと教えてくれ!頼むっ!」
「あ〜…数学の方ね…俺も無理だわそれは。」
「うげっ…マジか。」
「マジ。」
─そうこうしているうちに学校に着いた。
クラスが違うため、海斗とは一旦別れ、自分の教室の席に着き、ホームルームが始まるまで待つ。
いつも通りのホームルーム。クラスでの特別な連絡は無く、どうやら数学の授業も取り消しにはならないらしい。ちくしょう!
朝のホームルームが終わり、授業に入る。
今日の科目は…情報…数学…地学…歴史…
ハッキリ言ってキライな科目ばかりだ。
─さて…まずは情報、2進数…16進数…考えるだけで頭が痛くなった。90分の授業…頭が持たない。
─次に数学。三角関数?sin?何の話だか全く理解できなかった。やはり90分持たない。
─ここで一旦昼休みを挟み、体力を回復させる。海斗と一緒に屋上で弁当を食べるのが日課だ。
─そして昼休みが終わり、午後の授業、地学…宇宙の運動…90分…
─歴史…魔法のことについて…zzz…はっ!久々に居眠りをしかけてしまった、危なかった。
…長い戦いの末、ようやく華の金曜が始まる。
今週末は出された大量の課題はそっちのけで遊びまくろう…なんせ今週は三連休だ!
そして意気揚々と校門を出た、その時。
「検査〜検査にご協力お願いします〜」
何やらパンフレットを配る人達が居た。
麗也もそのパンフレットを受け取る。
…!?
一目見て麗也は絶望した。
パンフレットの内容はこうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『脳の再検査のお願い』
近年、功翔に魔法使いの組織が存在していることが確認されています。
このような事態を受け、全国的に、国による公式な検査が義務付けられることとなりました。
[中略]
国民の皆様、必ず、今月末(10月31日)までに再検査を行うよう、よろしくお願いします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…終わった。
終わったな。
第二話 終
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コラム
功翔の歴史と現在
「晴れやかな空、潮の香り、心地よい風…ここは功翔という国です。
この国について、少しお話しましょう。
例の大戦争が終わり、世界が再建されてからできた国々の一つです。
現在、建国から約300年のこの国は、建国当初は、少ない魔法使いと、それ以外の大勢の非魔法使いの人達が仲良く暮らしていました。
しかし次第に、魔法の利便性から、魔法使い達の力が人々の欲のままに、いいように使われてしまうようになりだしました。
魔法だって簡単に使えるものではありません。扱うためには体力や集中力を使うので、たくさん使えば使うほどにとても大きな疲労を生みます。
それなのに人々は魔法使いに重労働を強い、
自分たちは怠けた生活を送りました。
そして建国から130年、事件が起こります。
魔法使い達の反乱です。
ここで人々は、魔法の恐ろしさを知ることとなるのです。
魔法とは、どんなエネルギーにもなるもの。
人々に恵みをもたらすだけではない。
使いようによっては、物を壊すこと、人々を傷つけることなどもできてしまうのです。
魔法使いたちは人々にその力を見せつけるように、功翔のありとあらゆる建物を壊しました。
ですが魔法使いも立派な人間です。人々を傷つけることは少しもしませんでした。
その後、反乱を起こした魔法使いたちは国を出て行きました。
それでおしまい…………とはなりません。
反乱を起こした魔法使い達が出て行ったその後のこと。
国内には、まだ残っている魔法使い達もいました。
そんな魔法使い達を、人々はみんな殺してしまいます。
こうして、今の功翔という国ができあがったのです。
さて、現在の功翔です。
…生まれてきた魔法使いを殺すことが当たり前になっている、おかしな国です。
何の罪もない赤子を、殺すのです。
残酷なこと、この上ないですね。
…さて、話は変わりますが、功翔にはテレビやケータイ、その他多くの電子機器があります。赤子にだって、MRI検査を行います。
こういった文明の利器たちは、大戦争の後に一度消えました。
しかし、皮肉にも、魔法使いが功翔から居なくなったからこそ、独自の技術の発展を遂げ、文明が開花したのです。
人間の欲とは恐ろしい物。
そして、変化をもたらす物。
そう、私は思った。」
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