憂おうが晴れ
あじフライ
プロローグ
第1話
…心地よい風と潮の香りに、心が安らぐ。
ここはとある島国。名前は功翔という。
砂浜にとある少年が一人。
ほっそりとした体型で、目や髪の黒とは対照的な白い肌をしている。いかにも弱々しい。
これは、フシギなフシギな世界で生きる、
この弱々しい少年を追う物語である。
憂おうが晴れ 第一話
「普通、日常、平和。」
功翔は今日も平和だ。
功翔に住まう少年。三崎 麗也は、今日も放課後、砂浜で、日の光と潮風を浴び、のんびりと過ごしていた。
(…ふう。気持ちいい)
砂浜を歩き、海を眺めながら、絶対に行くことのできない海の向こうの国々に思いを馳せる…ただそれだけだ。
だが、彼はそんな普通の、いつも通りの日常をこよなく愛していた。
そう。これはただの…普通の日常だ。
その普通がいつまで続くのか、そんな事は自分が知る由もない…そう思いたかった。
果てしなく続く自由と平和だなんて、在りはしないことなど、麗也にはわかっていた。
それでも今は少しでも普通に、平凡で、無難な日常を過ごしたい。うわべの平和を噛み締めていたい。
…夕凪を眺めながら、麗也はそう思った。
─そのまま海で過ごし数十分。さてと、大分時間も経ったことだ。今日はもう帰ろう。
今頃、家では暖かな料理が待っているはずだ。
長く伸びた自身の影を追いながら家へ帰る。
「ただいま。」
戸を開けると、母が優しい顔で待っていた。
「おかえりなさい、麗也。もうご飯ならできてるわよ。ささ、食べましょうか。」
手を洗い食卓に着くと、出来立てのカレーがあった。
「やった!今日はカレーかぁ!」
「うふふ。久しぶりに作ったのよ。麗也、大好きでしょう?」
少し熱いカレーに息をふきかけ、一口食べる。いい具合にスパイスが効いており、なかなか美味だった。
「美味しい!」
「ふふ。よかったわ。」
─美味しいカレーを食べながら、母と話す。
学校のこと、友達のこと、趣味のこと……
そしてニュース番組の内容について。
食卓の前に置いてあるテレビには、ニュース番組が流れている。
ニュース番組を見ていると、とある事件が報道された。
『次のニュースです。
…本日、3時頃、首都圏各地で、宗教団体 [晴れ傘]によるものとみられる大規模なデモがありました。』
次に映し出された映像には、
『魔法は危険じゃない。』
『我が国にも魔法のエネルギーを!』
『魔法使いにも人権を』
…などと書かれているプラカードを持った無数の人たちがいた。
「…あら。[晴れ傘]?嫌ね…チャンネル変えましょうか…」
「…そうだね。」
…そう、宗教団体[晴れ傘]。
功翔に魔法を導入することを目的としているらしい。
魔法…。そう、ある遺伝子をもった人たちが発する、特殊な脳波に反応し、どんなエネルギーにも変化させることができるエネルギーらしい。
功翔では、魔法を危険な物として禁じているのだ。
まぁ、魔法の使い方は多岐に渡っており…
…と、解説していてはキリがないくらいに複雑で強力である不思議なエネルギーなのだ。
…自分の父は昔、民衆の前で演説をしている時に、その[晴れ傘]のとある信者に殺された。
理由…そんな物はなかった。
父はただ少しばかり位の高い政治家であったというだけだ。
父は、一個人の意見を主張をするため、注目の的にされるための道具となったのだ。
…とはいえ別に、その人が凶悪なだけであって、[晴れ傘]自体が悪い団体であるわけではない。
だが父の死を思い出すような団体を見るのは、やはり気が引ける。
………………
「…魔法って、そんな危険なものなのかなぁ…?」
「さぁ…?歴史上では恐ろしい事件もあったのだとされているけど、実際にその事件も魔法自体も見たことないものね…」
そんなことを話しているうちに、たちまちカレーの皿はからっぽになってしまった。
「ごちそうさま。」
「ごちそうさまでした。」
─夕飯の時間が終われば勉強の時間。
─それが終われば風呂の時間。
─そのあと歯を磨いて、ベッドへと入る。
…そうしてしまえば、1日はすぐに終わってしまった。
麗也は眠りにつく。
自身の周囲の平和がいつまでも続くよう祈りながら…
第一話 終
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コラム
この世界の歴史
「大昔、この世界では、それはそれは大きな戦争が起こりました。
その戦争は勢いを増し、ついには禁忌とされていた「核」を使い、核戦争にまで発展してしまいました。
多大な死者、環境への負担、国々の崩壊…その戦争の惨状といったら、言葉にならないほどむごいものでした。
しかしその戦争の後、人々は偶然にもひとつのエネルギーを見つけるのです。
そのエネルギーはなんと、力学、熱、電気、化学などの全てのエネルギーに、ある遺伝子を持つ者の特殊な脳波によって変化するという驚くべき性質を持っており、その不思議な力から「魔法」と名付けられます。
どこからやって来たのか、何を源とするものなのか、はたまた神からの慈悲なのか、それは謎のままです。
そのエネルギーを見つけてから、人々は、使い方はあやふやですが、そのエネルギーを使い、世界を再建していきます。
荒れた土地、生態系、建造物など、ひとつひとつ、丁寧に作り直していきました。
その過程で人々は、過ちを繰り返さぬよう、文明の利器というもののほとんどを捨て、後世には残しませんでした。
また、当時生き残った人々は、戦争という手段を後世に伝えないため、戦争の歴史を語り継ぐことはしませんでした。
そして長い長い時を経て、この時代になります。
人々の争いの歴史はとっくのとうに忘れ去られた、豊かで幸せな平和の時代…なのでしょうか?
人々の幸せ…その裏には何かがあること。
それを決して忘れてはならない。
そう、私は思いました。」
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