町の大通り、昼は多くの人が使うこの道にも、深夜にはほとんど人がいない。

 そんな中、二人の男が走っている。白いジャケットが目立つ男がこの町のご当地ヒーローケビン、その隣で王国騎士団の制服を着ているのが王国騎士団総長プレシス。

 知っている人がいたらこんな時間にこの場所で活動している二人を見るのがおかしいなのだが。


「そういえば、ケビンさんは知ってますか?」

「なにが?」

「最近この辺りで、勢力を増している『アンデッド』と名乗るマフィアがこの辺りにも、活動拠点を広げたということを」

「あんでっど?」


 プレシスの説明によって分かったことは、次の三つ


 ・「アンデッド」と名乗るマフィアがプレシスの総長就任と同時に勢力を拡大。

 ・主な活動は人攫い、売春、武器の密造、の三点

 ・王都周辺の活動は少なく、主に地方を活動拠点にしている。


 さらに、この町で活動が予測されたため、普段は王都にいるはずの騎士団総長プレシスがこの町にやってきたということ。


「……そうか」

「しかし、まだ相手のシッポすら掴めておらず、さらに彼らはそれなりの武装していると思われます」

「仕方ない、いざという時はコレを使う」


 そう言い、ケビンはポケットの中から物を取り出す。

 それは、月の光で金色のメッキが光るメリケンサックだった。


「拡張機!ケビンさん、それを使うということは我々騎士団があなたにどのような対応をしなければいけないか、わかっているんですか!」

「あぁ……わかっている、極力これは使いたくないんだが、困っている人がいるのなら、俺は喜んで犯罪者にでもなろう」

「ケビンさん……」


 プレシスはケビンの勇姿に心を動かされる、そしてやれやれとでも心の声がほとんど漏れているような首の横振りを見せると。


「来い!P.S.N.Rパーソナル


 手を横に出す、何もないところから鞘に収まった剣が現れる。


「始末書を書く時には、あなたも弁明をお願いしますね」

「ハッ、総長になっても書類仕事からは解放されないんだな」


 ケビンの言葉に苦笑いしながらもプレシスは返す言葉が見当たらなかった。

 ちなみにプレシスはこの事件が終わった後自身のデスクに書類の山を三つ作ることになるのはまだ知らない。


       △▽△▽△▽


 そうこうしながら、二人は着々と現場に近づいていく、見えてくる人だかり、全員が同じ灰色のコートを着て、手にはナイフや警棒などの簡易な武装をした集団、数は少なく見積もって二十はいるだろう。その中に悲鳴を出した本人だろう、女性が一人立たされていた。


「嬢ちゃん、大人しく俺らについてきてくれへんか、大人しくついてきてくれたら痛いようにはせえへんでぇ」

「嘘つき、アンタらの事、誰が信じるか、そんな口説き文句、アンタらみたいな三流の男がしてもウチの心にはちっとも響かんから」

「へぇ、ずいぶんと立派な口を叩く奴やなぁ」

「兄貴、こいつは、ずいぶんと調教しがいがあるやつですよ」


 などと下衆な会話が聞こえてくる、しまいには強引にでも連れて行こうと彼女の腕に触ろうとする、そこに


「その娘に触るな」


 ケビンとプレシスが乱入した、二人ともつい2,3分前にはアルコールでベロンベロンに酔っていたとは思えないほどの剣幕で彼らを威嚇する。


「なんやあんたら、こいつの連れかい?」

「いや違う、だがそれがお前たちの乱暴を止める理由にはならない」

「そして、あなたたちの身元は大体予想はつく、――――アンデッドのメンバーだな」


 プレシスの出した名前、「アンデッド」という名前に空気が一気に緊張感を増す、女性に一番話していた男が口を開く。


「そうか、あんたら騎士団の奴らか、そっちがその気なら俺らもやったろうやない」

「降伏したほうが身のためですよ、痛い目を見たくないのならば」

「……」

「……」


 お互いにらみ合う、この勝負、20対2の圧倒的の数の差がある、マフィアたちは構えてすらいない、どちらが勝つなど、素人から見ても。


「死ねぇ!」

「だから、やめといたほうが……」


 プレシスは基本的に性善説を信じている、人は皆理由があって悪意身を染めるものだと考え、話さえ通じれば人は理解しあえるものだと考えている、なので彼は最初に相手から攻撃されない限り今のようにメリケンサックが付いた拳で殴られそうになっても腰にある剣に手が伸びることはない。

 しかしそんな心の底から腐ったような男の拳がプレシスに届くのをもう一人の男が黙ってみているわけがなかった。


「降伏しろって言ったよな」

「―――――は?」

「俺はあいつと違って優しくなんかねぇぞ」


 腕を強い力で掴まれ、前にも後ろにも動かすことができない、そして気づく、目の前でケビンは拳を作り、殴りかかる準備をする、ゆっくりとゆっくりと、まるでそれは断頭台の刃が落ちるのを待つように、絞首刑で床板を抜くレバーに手を掛けられたかのように、終わりが近づいてくるのを感じた。


「助けろ!おめぇら!!」


 この一瞬の出来事に唖然としている仲間たちを男は呼び覚ます、気が付いた仲間たちは急いでケビンを止めに行こうと今度はケビンにナイフ達が襲い掛かる。デジャヴかな、そんな物を一体だれが通すのだろうか。彼らの腹部に長くて丈夫なものが襲い掛かる。


「「「「「「ヴぉッ!」」」」」」


 プレシスの剣が鞘に収まったまま、最前列6人に襲い掛かる。

 6人は打撲しか傷はないが、それでも勢い良く振られた鉄の棒に殴られるだけでも十分な制圧力を発揮した。


「せるわけ、ないですよね」


 彼は降伏を促していた時とは違い、明らかに同じ人間を見るような目ではなかった。それでも相変わらず剣は鞘に収まったままだ。剣を鞘に留める金具を確認する、間違っても人を切らないように。


「正当防衛で収めようぜ」

「わかってますよケビン、必要以上に始末書を増やしたくないので、全力でいかせてもらいます」


 そう言い、彼は鞘から剣を抜く。


「殺しはしません、王国騎士団総長プレシスがあなたたちの相手をします、全力でかかってきなさい」


彼が発する威厳はその場にいた大半の人の足を震え上がらせ、戦いに対する意欲を失わらせる、総長の立場は名前だけの者ではない、それに相応しいと思わせる存在感などはもう彼に備わっていることをケビンは再び認識した。


「ってワケだ、お前さんはちょっと眠っとけ」

「―――!」


ケビンは腕をつかんでいる男にそう言うと、拳で顔を殴る、殴る、殴る、計三回殴ると男はもう原形を留めていない鼻から血を流しながら気を失っていた。


「やり過ぎたか……まあいい、さぁ次は誰だ」

「ウォー!親分の仇ィ!」


ナイフを持った男が勇敢にも先陣を切る、しかし動きは防御を忘れたような大振り、そんな力任せな刃に今朝の事を思い出されるが。


「甘いな」


そのナイフをはたき落とし、対処する、武器のなくなった相手はそれでも諦める事なく、今度は拳で殴りかかる、ケビンはそんな男の勇気を認め、背後に周り首元への手刀で堕とす。


「さぁ!さぁ! 次はどいつだぁ!」


鉄砲玉の蛮勇に上機嫌なケビンは、周りで見ているだけの奴らに発破をかける、その挑発に乗った者たちを、顔面、みぞおち、脳天、首、時には金的と急所を的確に叩く。


「ケビン、殺さないでくださいよ!」

「よそ見してんじゃねぇ!」


プレシスと睨み合っていた相手がケビンに注意を出した瞬間を見逃さずに襲いかかる、突然内ポケットから取り出すは拳銃、標準は至近距離にある、外すはずがないとそう思っていた。


「死ねぇ!」


その瞬間、ドンと大きな発砲音と共にカキンとした金属音がした。


「……」

「な、なに!」


男は当然驚く、それもそのはず、基本防弾機能があるはずの軍服でもここまでの至近距離で撃たれれば多少なりともダメージがあるはずが目の前にいる戦士は眉ひとつ動かさない、それだけではない、軍服には傷がない、いや正確には傷はある、だがそれは布にできるようなものではなくそれはまるで。


「はぁ、時代は進みましたね、まさか拡張機パーソナルを知らない人が出てくるのは」

「なに言ってやがる」

「簡単に説明しましょうか、今あなたたちの目の前に立っているのは鎧を着たです、この鎧はそんな小さな鉄砲玉ぐらい弾くことなんて造作もない」


そう言いながらプレシスは一歩一歩、男に近づく。


「ち、近づくんじゃねぇ!」


それに恐怖する男は銃を撃つ、それら全てが騎士の鎧に弾かれる、11発の弾丸が弾き、残るは最後の1発、その1発を撃つ勇気は彼にはない、そんな拳銃をプレシスは掴み、銃口を上げる、銃口はプレシスの頭部に向いていた。


「う、撃っちまうぞ!」


そんな虚勢な威圧はプレシスに通用しない、そのままプレシスの拳銃の掴む力が強くなる。


「マジでやるぞ、マジで!」

「どうぞ、できるのなら」

「ちっくしょうがぁ!」


男は引き金を引く、ドォンと爆発音と共に放たれた弾丸は、プレシスの頭部の2cm前でキンッと金属音を鳴らしながら弾かれるのだった。


「あ、あ、ああああああああああああ」


男は一音しか発することのできない人形になり変わる、それの右手にある拳銃をプレシスが純粋な握力のみで握り潰す。


「さて、次は?」


これほどの蹂躙を見せつけられて、前に出られる者はいるのだろうか、目の前ににいるのは城だ、城に歩兵のみで挑む者はよほどの自分に自信があるか又は狂人かだろう。謎に強い拳闘士と城に例えられる騎士団総長、彼ら2人を前にした男たちは。


「ご、ごめんなさーい」

「やるしかなかったんですー」


三下が吐くような台詞を言いながら、散り散りになっていく。


「終わったようだな」

「そうですね、今日はもう解散しましょうか」

「そうだな、また会う日ま「ちょっと待ったぁ!」


突然の声に2人はこのケンカの目的を思い出す、


((完全に、忘れてた…))


「なにあたしのこと忘れて帰ろうとしてんのよ!」


耳がキンと鳴る声で叫ぶ女に2人が視線を向ける、大体彼らの身長が180ぐらいだとするとその胸あたりに彼女の頭があり、見上げながら犬がキャンキャン吠えるように叫んでいる、正直可愛らしい。


「そんなことより、騎士団さんは置いといて、あんたはなんなのよ、どこ所属? まさかお父さんからの遣いじゃないでしょうね?」


「所属? 俺はただのこの町のご当地ヒーローのケビンだ」


「ご当地ヒーロー? ならあんたなんの関係もなく、こいつらに手を出したってわけ?」


その質問に肯定すると彼女は頭を抱える。


「そっかぁ、残念やけどあんたもうこの街から逃げた方が……」


そう色々言いかけて彼女の口が止まる。

彼らの後ろを見つめ動きが止まった。


「どうした?」


ケビンは目の前で目を見開き、震え出した女に向けて聞く、いつもより冷たいと感じる風が吹く。


「探しましたぞ、お嬢様」


「━━⁉︎」


背後からの声に2人は振り返る、そこにいたのは執事服を着た初老の男だった。


「これはこれは、お初にお目にかかります、わたくしペルカ様の召使をしております、オルメと申します、その様子、ペルカ様が何かご迷惑をおかけしかと思われます、誠に感謝いたします」


自分のことをオルメと名乗る男に2人は警戒をとけずにいた、2人の間にいるペルカと呼ばれた女の震えがこの男が現れてから止まるどころか大きくなっているからだ。


「「……」」


しかし彼らは動けない、彼が敵か味方かがわからない、そうこうしてるうちにオルメは近づいてくる、そして彼から手を伸ばされた時、声が聞こえた。


「助けて…」


その小さな声を聞き逃す者はこの場にいない。


「オラァ!」

「フン!」


ケビンの拳が顔面に、プレシスの剣が足にそれぞれ襲いかかる、逃げ場はない。


「ハッ、ロイヤルガードでもないただの素人が」


オルメは剣を足で踏み、ケビンの拳を左手で受け止める。


「君たちにかまっている時間はないのだよ」


そしてなにもない所からピストルを出すと、


「死んでくれ」


ドンと1発、拳を掴まれ逃げられないケビンの頭を弾丸が貫通する。

戦闘開始から七秒の出来事だった。


「キャーーー」

「ケビン!」


ケビンの体が糸が切れたかのように倒れる。

ピストルはプレシスに向く。


「チッ」


剣を手放し、身を引くが間に合わず、1発が耳に当たり、2発が腹、3発足に当たった。もうまともに戦闘はできない。


「私の鎧を貫いた、まさかそれは!」

「冥土の土産に教えましょう、これは拡張機の新式です、あなたのような架空の鎧程度簡単に貫けます」


そのまま最後に銃口がプレシスに向く。


「さようなら」


引き金が引かれる。

その時だった。


「待てよ」


その言葉と一緒にあたり一面が炎に包まれ、深夜の街が昼同様に明るくなっていた。

そして炎の中心にいた男は燃えていた。


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