《短編》不死鳥さん、嫁できる。。。できるよね!!

シャボン

 その男は燃えていた。


《対化物戦闘拡張装置P.S.N.Rパーソナル起動 認証 ユーザー名 ケビン・ペター》


 比喩ではない。


《適合率 94%》


 襟が立っているかのように肩に炎が宿っている。


《タイプ オリジナル》


 彼の目の前にはピストルを構えた男が一人、銃を向けられてる女が一人。


「その銃は本来、人に向けるものじゃない」


《ソースコード アンリアル》


 周囲にグツグツと熱気が漂う

「その武器は、戦士が人を守るためのものだ」


《イマジンランク サイコパス》


「決して! お前みたいなクズが使っていいものじゃないんだよ!」

 男の激情と共に一気に周囲の温度が上がる


不死鳥フェニックス 拡張完了》


「お前には、知ってもらう必要がある、その武器を使ってた奴らがどんな思いで今の世界を守ったのかを」

 その目には火が宿っていた。


       △▽△▽△▽


 2時間前


 とある王国の中にある小さな町、この国の中では比較的に穏やかなで、揉め事も比較的少ない街。

 すっかり夜も更け、今日は夜空に綺麗な星空が一面に広がった日になった。

 ここはこの町唯一の酒場、そこには一日の仕事の疲れを酒で癒しに来る労働者でいつもここは満席になる。

そのため一般的に座る席はいつも違う席になる。

そんな中で唯一専用席と暗黙の了解になっている席がある。

いつも店主が担当しているカウンター席の一番右の席、そこに座っていたのがケビンその人だ。


「かぁ~! いいことした後の一杯はうまいねぇ!」


そう言いながら空になったジョッキをカウンターに置く。

それを店主がビール満タンのものを交換に持っていく、今日もポンプのようにどんどんビールが彼の中に消えていく。

ケビンはこのまま日が昇るまでの酒の中で平泳ぎをするかの如く過ごそうと決めていた矢先。


「……こんなところにいたんですね、ケビンさん」


後ろから声をかけられる、そこにいるのは騎士団の制服を着た男だった。


「おや、誰かと思えばさぼり魔の団長さんじゃねぇか」

「誰が、さぼり魔ですか!」


ケビンはにやけながら「冗談じゃねえか」と言い返す。それから彼が店主にまた空になったジョッキを渡す。


「それで、ずいぶん久しぶりじゃねぇか何しに来たんだ、プレシス」

「へぇ、わかるものなんですね、最後に会ったのは私が19歳の時でもう10年以上前ですが」


プレシスと呼ばれた青年はケビンの横に。


「10年、そっか10年も前かぁ、にしてもお前はあんま変わんねぇな」

「というと?」

「お前のそういう自分を信頼しないところだな、国王の護衛での活躍は今でも覚えているぐらいなんだが、お前は記憶に残らないと思ってやがった」


ケビンの指摘にプレシスは少し顔を下に向ける、自覚はあるようだと少し口角が上がってしまうケビンにプレシスは気づかず。


「仕方ないじゃないですかぁ! あなたたちに巻き込まれて、自分にはふさわしくない武功を立ててしまって、先代からはお前が適任だなんて言われて、気づいたら歴代最年少での総長ですよ!」

「まぁまぁ、今日はグビーって一杯、アルコールですっきりしようぜ!」


溜まっていたものをどんどん吐き出していくプレシスにケビンは酒を進める。


「なら……マスター! ワイン1つ!」


酒の肴が増えるということに期待をして。


      △▽△▽△▽


30分ぐらい過ぎたころ。


「きぃてくださいよぉ、それで大臣なんて言ったと思います?」

「……それで?」

「プレシス君の働きのおかげで騎士団の予算を下げることができるなんて言いやがったんですよ! だぁれがこの国のへいわまもってんだとおもってんだあのクソジジイ!」


……最悪だ、最初は彼の失敗談などの不幸を蜜として啜ろうかと考えていたケビン、だが実際にプレシスの口から出てくる話は愚痴や自慢などだった。

正直面白くない、ビールの泡から黄色が見えるほど酒も進まない。

もしこれで惚気話など出ようものなら。


「そういえばー、先輩には話してませんでしたね」

「ん、なんだ?」

「わたしー、結婚したんですよ」

「……」


目の前の男は何を言っているのだろうか、瞬時に脳が理解するのを拒んでいた。

そうだ、コイツはもしかしたら昼にいた悪党が化けているのかもしれない、もう一つ顔面にクレーターを作ったほうがいい、ケビンは口を開く。


「殴っていいか?」

「何言ってんすかケビンさん」


アルコールによる酔いはほとんど抜けていた。


      △▽△▽△▽


「はぁ、まさかあいつが結婚するなんてなぁ」


あの後、酔いが覚めたケビンはプレシスに一方的に解散を宣言し、酒場を後にした、これが後の「ビール余りまくり事件」に発展することになるとはケビン自身に知る由もないがまた別の話に。


「にしても………」

「ケビンサーン、いきなり帰るなんてさみしいじゃないですかぁ」


彼には千鳥足で歩く一人の男、プレシスが付いてくる。

ワインボトル一本でここまで出来上がった彼に、最早呆れが勝ってくる。

酒に弱いとはここまでひどいものなのだな、ケビンに今後一切関係のないことを考えながら町を歩く。


(この町、夜はここまで静かになるものなんだな)

「ケビンサーン、きいてますかぁ」

「……」


プレシスのダル絡みを無視しながら普段見せることのない町の様子を観察する、いつも夜を酒場で夜を過ごすケビンはここまで静まり返ったこの町を見ることは珍しい、この町には平穏が一番だ、何もないということはこの町にとって幸せなのかもしれない。


「キャーーーーーーーーーーーー!」

「「!!」」


そんな静寂を打ち破る悲鳴、それが彼らの鼓膜に届く。後ろから聞こえた、声の高さ的に叫んだのは10代から20代の女性の声、実質職業病で彼らにはそこまでわかってしまう、だ今はそんなことはどうでもいい。


「行きましょう!」

「あぁ!」


急にアルコールが抜けたようなプレシスに続き、二人は来た道を戻っていく、彼らを求める声の元へ。



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