第4話 到着、地玖神島
そんな穏やかで平和な時間を経て、俺達はついに――――地玖神島へと無事上陸を果たす事が出来た。
地に降り立った瞬間、波を揺らす程の強さを持たないそよ風が、俺達三人の上陸を歓迎するかのように潮の匂いを纏わせて吹き、頬を撫でる。
それは心地が良い風……なんてものではなく、普通に生ぬるいとしか言えない風だったが、どこか特別な感情を抱かずにはいられない。
「やーっと着いたね〜。皆、忘れ物はない?」
海華が俺達に向かって最終確認を取る。
荷物は主に着替えや勉強道具と、携帯。
後はトランプやオセロ等の娯楽用品。
そして、いつかになるかは未定だが、別荘の庭でやろうと思い買った花火セットだ。
食材や飲み物などは海華の家が雇っている使用人さんに数日分をまとめてコチラに持ってきて貰える手筈になっているし、足りなくなってきたら言えば追加でまた持ってきてくれるらしいから……これで手荷物は全てだという事は間違いない。
本当、使用人さんには頭が上がらない。
こういった離島では売店や商店などが栄えていない為、島民は船に乗って食材を買いに行くらしいと聞いて使用人さんに持ってきてもらうようお願いしたのだが――――港を見渡せば、付近で魚介の味ご飯等を売りに出しているので完全に栄えていないというわけではなさそうだ。
「俺は……うん、全部持ったぞ」
キャリーケースに、着替えや財布、飲み物と花火セットやらなんやらが入っている事を確認してから返答を返す。
……にしても、ここが地玖神島か。
島の手前側の殆どは建物で構成されており、その奥には木々が栄えていた。
もし俺がこの島に生まれていた少年だったとするのなら――虫取りにばかり熱を注いでしまいかねない程の自然豊かな環境だと思う。
「俺も問題ないぜ!さぁ行こう!!俺達の別荘はすぐそこだ!!」
俊も確認し終わったのか、相変わらず熱苦しい程の熱量を帯びた声で告げる。
あの海を眺めていた頃の大人し気な俊はすっかり鳴りを潜めたようだ。
「あはは~相変わらずのテンションだねーくーちゃんは!それじゃ、確認も出来たし出発しよっか!!うちの後ろについてきて~」
そう言って先陣を切った海華の後ろを、俺は周りの景色を堪能しながらついていく。
ただ、正直荷物の多さとこの暑さのせいで心から楽しめるというわけではなく、しんどいという思いが勝ってしまうのが誠に残念な所だった。
「しっかし、失礼かもしれないが割と栄えてるもんなんだな。建物だって多いし」
さっきも見ていて思ったが、手前側は本当に建物が多い。
奥まで見れば木々で覆われて建物もあまりないが、少なくとも今歩いている場所は辺り一面建物だらけだ。
「意外と発展していってるもんだぜ?島って言うのはそういう発展プロジェクトってのがよく発足されてるからな」
「何?くーちゃんってそういうのにも詳しいの?」
前を歩いている海華が、その歩みを止める事無く会話に入る。
「いんや?詳しいって程じゃない。ただ知識としてあるってだけだ。なんてったって、俺は皆が認める優等生だからな!」
「これが文武両道かよ羨ましいなオイ」
人間としての格の違いというか、差をまじまじと見せつけられた気がする。
……というより、これに関しては俺がただ怠惰で、そう言った知識を取り入れてないからな話か。うん、俺のせいだなそれは。
とはいえ、そういった情報を毎回何処から入手してくるんだろうなという疑問が浮かばない事も無いが……いや本当にどう入手しているんだろか?インターネットか?
「そんなに俺がどうやって知識をつけてるか知りたいか?」
「急に人の心読むのやめてくれ」
ナチュラルに人の心を読んできた親友に、俺は冷静にそう言葉を返した。
俊は、時たまこんな風に、人の気持ちが分かっているような言動をする時がある。
持ち前の察しの良さも勿論あるのかもしれないが、どうして分かるのかまでは本人でに良く分からないらしい。
ただ、なんとなく顔を見れば分かるとの事だ。
「ちなみに、俺の知識の源は全てインターネットだぞ!!」
「インターネットすげぇなオイ」
そんな雑談を交わしながら歩き始める事数十分。
ついに海華が足を止め、こちらに振り返り口を開く。
「みんなお疲れ様!!ここが――うちの別荘でーす!」
「「おぉ!!」」
俺と俊は、同時に声を上げる。
何故だろう、ただ荷物を持って歩いていただけなのに達成感が凄い。
家の外観はどこにでもありそうなログハウスで、大きさもそこまで。
パット見手入れがされているのか庭も外観も綺麗な印象を受ける。
確かに、海華の両親が好きそうな家ではありそうだ。
海華の両親は、玄関先にデカい門が佇んでいたり、だだっ広かったり――そういったみんなが想像する典型的な金持ちの家といったのが好みじゃないらしい。
どちらかというとありふれているような、一般的な家が好みなんだとか。
「ここに来るの久しぶりだな~、7年ぶりくらいだから全く内装とか覚えてないや」
海華が昔を懐かしむ様子を見せながらドアにカギを差し込みドアを開ける。
何十分とこの炎天下の中荷物を持って歩いていたせいか、気が付けば俺達三人の全身は汗がびっしょりで、今すぐにでも水分補給を必要としていた。
てか、汗のせいで海華の服が透けて下着が見えて――――。
「それじゃ入ろっ――ん?どした~?」
鍵を開けた海華が、コチラを向く。
その時に俺の視線に気づいたのか、海華が疑問符を浮かべながらこちらに振り向く。
「い、いいいやなんでも無い」
やべぇめっちゃ挙動不審になっちまった……!!
俺は内心アウトか……?と思いながらおずおずと海華の様子を伺おうとする。
「ふ~ん、変なの~」
そう言って、再度扉の方に視線をやる海華。
瞬間、肩の力が一気に抜ける感覚を味わった。
女子はそういう視線に敏感なのだとよく聞くが、海華も同様だった。
危ない危ない、最悪俺と海華の関係に亀裂が入りかねない事態が引き起こる所だった……。
「分かるぞ哉斗、俺も同じ男としてお前の気持ちはよ~くわかる」
そんな俺を見て、俊が耳打ちをしながら言ってくる。
「やめてくれ、もう何も言わないでくれ……ッ!!」
俺は懇願するように俊に向かって言う。
いつからこんなむっつり丸出しの悲しきモンスターになってしまったのか、自分でも謎だ。
「なに二人とも突っ立てるのさ、早く入りなよ~」
気が付けば、一足先に玄関へと足を踏み入れていた海華が、俺達に向かってそう催促をした。
「あぁ、悪い。すぐ入るよ」
この後、中に入って部屋の掃除をしなければならないので、俺達も急いで家の中に入る事にした。どのくらいで部屋の掃除が終わるか全くもって見当がつかないが、三人でやればそこまで時間がかかる事もないだろう、多分。
ただ、掃除を終わらせた後は荷物を片付けたりもしなければなので、それ相応の時間はかかる覚悟をしておいた方がよさそうだ。
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