第5話 大掃除……ってあれ?奇麗じゃね?

「…………あれ。なんつうか、綺麗だな」


家の中にお邪魔して早々、俺は中をぐるりと見渡し呟いた。

欠かさず誰かによって手入れされているのか――正直、掃除に時間はあまりかからなそうだ。


……なんというか、気合を入れていただけあって少し肩透かしのようなものを食らった気がする。

いや、勿論面倒が減ったという点では非常にありがたい事なのだが。


「そうだね~。多分、うちで雇ってる使用人さんを定期的に掃除に来させたりしてるのかな?」


そんな憶測を立てながら、海華は荷物をリビングの机に置く。

流石に、別荘の事情まではそこまでよく知らないようだ。


「めちゃくちゃラッキーじゃねぇか!これならすぐに掃除も終わるだろ!!」

「まっ、俊の言う通りだな。んじゃどうする?先にリビングから掃除でもするか?」

「うん。そうしよっか」


俺が二人に向かってそう問いかけると、考える素振りも見せず海華が口を開く。


「それで、リビングを掃除したら次はくーちゃんとかーくんの自室を割り当てて、その部屋を各自で掃除&荷物整理って感じでやっていこうかな」


一応、自室が無いと不便ではある為、俺達に部屋を割り当ててくれるらしい。

といっても、寝る時以外はそこまで長時間利用する事も無いだろう。


せっかく皆と泊まりに来ているというのだから、一人で長々と自室に籠るというのはそれはそれで勿体ない。

どうせなら、ワイワイ騒ぎながら夏休みをエンジョイしたいものだ。


「おっけい」 「りょーかい!」


俺と俊は、同時に提示されたその指示に了承の返事を返す。

こうして、俺達の夏の大掃除が幕を開ける事となった。




***




――掃除を開始してからというもの、優に数時間が経過していた。

正直言って、リビングの掃除はそこまで時間がかかるようなものではなかった。

というのも、比較的綺麗だったという事や、三人で一斉におこなったという点がデカかったのだろう。


しかし、元から置いてある食器を一応全て洗剤で洗ったり、トイレや風呂等も掃除してと過ごしていたら――余裕で数時間は経過していたようだ。

…………まぁ、話しながらゆっくりやっていたというせいもあるのだろうが。


「……とりあえず、これでやっと自室に手が付けられるってもんだな」


――――そして、現在。

俺は海華によって言い渡された自分の部屋となる場所へ赴いている最中である。

後はそこを掃除して、自分の荷物を整理すればミッションコンプリートだ。


ラストスパートもラストスパート。

胸には、やり切ろうという思いが込み上げてくる。

そんな思いを抱えた状態のまま、俺は海華が指定した部屋の扉の前まで到着すると――そのままゆっくりとドアを開け足を踏み入れた。


「色々と整ってる……すっご」


部屋の広さは8畳程はあるだろうか、人一人が自室として使う分には十分すぎる程の広さではあるが、ベッドに木製の机と椅子、床の真ん中には高級そうな赤い絨毯じゅうたん、更には小型の冷蔵庫まで設置してあった。


「さて、掃除しますかね」


と言っても、する箇所なんてあまりないようだが……。

使用人さんのおかげか、リビング程埃が目立つといった事もなければベッドの上の布団も汚れなんて一つもなかった。


強いて言うなれば、こちらもリビングと同じく窓の隙間の汚れや机の上に薄く埃が乗っているくらいだろうか。


「とりあえず、ちゃちゃっとやって、リュックに入っている荷物を整理しよう」


俺はそう順序を立て、机の上の微細な埃を拭き取り綺麗にしていく。

そう時間がかかる作業というわけでもなかったので、すぐに拭き終わった。


うむ……ピカピカだ。

心なしか黄色いひし形が出てきているのに加えキラキラという綺麗な効果音が聞こえてくる。


意外と掃除の才能があるのかもしれない。なんて事を思いながら「ふぅ」と一息つき、額の汗を腕で拭く。

そうして次に、俺は窓の方に近寄っていくと、隙間に念入りに雑巾を差し込み、埃を拭き取る。


「――――――よし、これでいいか」


際立った白さを確認してから、呟く。

ただ、窓はここを含め二か所あるのでもう一か所もやらなければならない。


「こっちも――――――よし」


もう一つの窓の方も同様に拭き、確認する。

楽勝と言えば楽勝だったけど……なんだか最後は味気ないな。

なんて思いながら、俺はリュックの中に入っている荷物を整理し、全て片付け終わった事を確認すると現状を報告する為リビングへと向かうのだった。

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