シャアの航空戦

 フランス空軍第11飛行隊


 フランス陸軍がベルギーのブリュッセルで戦いを始めていたころ、フランス空軍もまたベルギー上空で戦闘が始まろうとしていた。


 機体を真っ赤に塗った変人……もとい、転生者のパイロットがそこに居た。


 彼の名前はシャア……本人も某赤い彗星に憧れてノリノリでロールプレイをするような人物であり、転生者仲間からも信頼が厚く、パイロットの適性も高かった。


 まだ彼の所属する飛行隊は転生者を多く集めた部隊だった為に、愛機に塗装することが許されており、某アイドルゲームのキャラクターを描いたり、某神話に出てくる人物を女の子にしたキャラクターを描いた機体にしたり、真っ白や真っ黄色にしたりとやりたい放題で、別名が痛い子飛行隊と呼ばれていた。


 そんな部隊も初めての実戦ということで緊張……


「私が本物の赤い彗星になってやる」


「いや、名前がまんまだからってまだ赤い彗星の座は空いているハズだ! 俺が赤い彗星になってやる!」


「俺が撃墜王になってやるぜ」


「はぁはぁ! オラの可愛いハニーを有名にするんだ」


「俺活躍して女体化してスト魔女にしてもらうんだ」


「あ! それ良いな! うちの部隊から何人エースが出るか賭けるか」


「絵師に頑張ってもらわないと」


 うん、平常運転である。


 彼らはニューポールⅢから細かい改修により格闘戦の性能が向上したニューポールⅣに乗り込み、ベルギー上空に飛び立っていった。


 編隊飛行をしながら上空3000メートル付近を飛んでいると、ドイツ陸軍の歩兵達が見えた為に機体両側面にベルトで固定していた爆弾をレバーでベルトを外して爆弾を投下する。


 機体が軽くなったところに豆粒の様な機影が確認できた為、手旗信号で他の機体に敵機発見を報告する。


 更に高度をとったシャアとフランスの痛い子飛行中隊20機は上空から敵機に襲いかかる体勢となり、高度有利からの一撃で、敵機を撃ち抜いていく。


 曳光弾を使っているため当たった敵の翼は勢いよく燃え出し、シャアの操る戦闘機は2機を一気に撃墜した。


「よっしゃぁ! スコア2!」


 ドイツ航空隊もやられっぱなしではなく、格闘戦に持ち込もうとするが、フランス空軍が徹底した編隊飛行や連携を重視した動きをしてくるため、機体性能は互角でも戦術の面で先を行くフランス空軍に圧倒されてしまう。


 シャアも敵機が後ろに付いたと思ったら機体を上にし、敵機を吊り上げ、それを背後から味方に敵機を撃墜してもらって難を逃れたり、味方に襲いかかっている敵機を後ろから撃墜したりと様々だった。


 しかも味方が派手な塗装をしているため、味方の識別も楽であり、シャア含めて5機撃墜のエースパイロットがこの戦いで2人、他1機や2機撃墜したパイロットも多く生まれながら、撃墜されたのも1人だけで、後々地上の味方に合流したため戦死者は0という完勝をやってのけた。


 しかし、結構被弾した機体は多く、ドイツの成長速度を考えるとこのようにはいかないのではないかという見方をする隊員が多かった。







 痛い子飛行隊は完勝であったが、他の飛行隊は辛勝や引き分け、中には大敗した飛行隊も存在し、痛い子飛行隊の練度が高かったから得られた戦果であったとも言える。


 ただ撃墜比率はフランス2に対してドイツが1であり、フランスが戦術面でドイツに勝っていた影響が出ていた。


 フランス空軍はドイツ航空隊の機体差がほぼ無いという事実に新型戦闘機の開発に予算と既存機体の生産数を向上させるように厳命することとなる。






「連日出撃か……人気者は辛いな」


「シャア少尉、今回も頼みますよ」


「ああ、任せろ今回の出撃でダブルエースになってくることにしよう」


 ブリュッセルの戦いが終わり、ドイツの勢いが止まらない現状にフランス空軍はベルギーの制空権だけは相手に渡してはいけないと抗戦を継続していた。


 一方地上ではフランス国境に近いナミュール要塞にドイツ軍が迫っていた。


 フランス軍上層部はドイツ北方軍を18師団程度と予測していたが、実際には30師団が投入されており、機械されている第一機甲師団でも防衛限界を超えており、ベルギー国内で防衛線を構築したフランス第6軍が第一機甲師団に合流。


 更にイギリスのBEF(イギリス大陸派遣軍)もベルギー領内で防衛線の構築に成功する。


 しかしベルギーのナミュール要塞はドイツ軍の重砲ビッグ・バーサが即日投入されたことにより陥落し、ドイツ軍は200両に及ぶ戦車及び装甲車両をイギリス軍陣地に殺到させる。


 イギリス軍は自軍の虎の子のマークⅠ戦車を多数投入するが、フランスと戦車開発競争で先を進んでいたドイツ軍のオーベルシュレージエン突撃戦車の攻撃により多砲塔による重量増加で装甲厚を稼げてなかったイギリスの菱形戦車は蜂の巣にされ、ドイツ軍の戦車をろくに破壊できないまま陣地の突破を許してしまう。


 この混乱によりイギリス第1師団長と第5師団長が詰めていた前線司令部が脱出する前に戦車が殺到し、師団長含めた幕僚が戦死してしまい、指揮機能が大幅に低下してしまい、イギリス軍の援護にフランス第一機甲師団が即時投入し、シャルルロワの戦いが勃発。


 フランス第一機甲師団既存全戦力の1000両の戦闘車両が投入されドイツ軍の突出していた200両の戦車部隊は殲滅されたが、大規模な戦車戦となり、フラン軍も同数以上の250両もの車両を失うこととなる。


 これはザンブル河を渡河しようとした時にドイツ軍の待ち伏せを受けて被害が拡大したためであり、ドイツ軍は戦車部隊の他に3.7cm対戦車砲を砲兵部隊が持ってきていた事も被害が拡大した要因であった。


 フランス第一機甲師団は作戦目標の敵の進撃を押し留める事には一時的に成功したものの、ドイツ軍は第二波、第三派と波状攻撃を仕掛け、イギリス軍と共にベルギー国内から撤退することとなる。


 そして大損害を受けた機甲師団は再編の為に後方に送られる事となるのだった。







 地上で大激戦となったシャルルロワの戦いであるが、ザンブル河上空でも双方100機以上の攻撃機や爆撃機が入り混じる大規模空戦が発生しており、編隊飛行でもその規模になると格闘戦となってしまう。


 シャアは持ち前の飛行術で格闘戦にも強く、ニューポールⅣが敵よりも急降下性能が高いと分かると上空から急降下し、一撃を与え、そのまま急降下して離脱、安全圏で再度上昇からの一撃離脱を繰り返し、この空戦でも4機撃墜し、戦争開始から合計9機撃墜及び協同撃墜3機で大エースとして活躍。


 新聞でも機体のカラーリングが赤だったことやシャアという名前から赤い彗星として広報されることとなり、フランスの大エースとして知られていくこととなる。


 この空戦にもフランス空軍が辛勝したものの、被害も甚大で、一時的に空域が空白地帯となってしまう。


 そこにドイツ軍は飛行船を投入し、地上にて渡河作戦中だった第一機甲師団を攻撃。


 上空と地上双方からの攻撃により第一機甲師団は大損害を被ったことになるが、飛行船はルノー社がルークマーク2を改造した対空戦車の活躍により撃墜。


 戦局はフランス本国へと移っていくこととなるのだった。

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