第一機甲師団第三戦車中隊第四分隊第369号車
第一機甲師団第三戦車中隊第四分隊第369号車(シュナイダーマーク1)
車内では3人の兵士が戦車に乗って戦場を移動していた。
車長のベレー軍曹、装填手のビビッド伍長、運転手にマール一等兵が乗車していた。
「いよいよ戦争か……」
「ベレー軍曹も俺もマール一等兵も同じ20代前半……若い奴らで集められたものですなぁ」
「それも最新型の兵器戦車に割り当てられるとは思いませんでしたぜあっしは」
運転しながらマール一等兵がハンドルを握りながらそう答える。
シュナイダーマーク1はハンドルが自動車と同じ円形のハンドルをしており、クラッチ、アクセル、ブレーキ、ギアハンドルも自動車と同じ位置にあり、マール一等兵は自動車を運転する感覚で運転できると喜んでいた。
乗り心地は車内が揺れるため良いとは言い難いが……。
現在2両の分隊行動をしており、後方には少尉を乗せた隊長車が走っていた。
「ベルギーに入って既に2時間……偵察車両の情報だとそろそろ接敵か」
「相手に戦車が居ないと良いんすけどね……ドイツの戦車は強力と聞いていますけど、ベレー軍曹……実際どうなんですかね」
「足は遅い。ただ待ち伏せを受けなければ勝てる相手だ。こっちの50mm対戦車砲を信じろ……前方65度、距離2.3キロドイツ軍発見!」
ベレー軍曹は直ぐ様手旗で敵の発見を報告し、キューポラを閉じて戦闘体制に移行する。
「こちらが先に発見した。待ち伏せを行う家の陰に隠れるぞビビッド軍曹は装填できる様に準備を」
「「了解」」
家の前で停車した第369号車は敵が来るのを待つ。
停車して待っているとキュラキュラキュラとボボボと言うキャタピラが回る音とエンジンの音が聞こえてくる。
ベレー軍曹は砲塔を旋回させて音の方向に砲を構え、いつでも発射できる様に、トリガーであるペダルに足を乗せる。
すると家の目の前に鋼色の細い砲が見え、続いて威圧感のある車体が見えた。
白黒の写真でなんどもドイツ軍の戦車として紹介されていたオーベルシュレージエン突撃戦車である。
じわりと嫌な汗が流れるのを感じながらベレー軍曹は砲の微調整を終えてペダルを思いっきり踏み込む。
ドンと言う音と共に第369号車から砲弾が飛び出し、吸い込まれるようにオーベルシュレージエン突撃戦車の側面に榴弾が吸い込まれていく。
ドンと言う衝撃で、前方に居た敵戦車の側面弾薬庫に直撃したらしく、随伴歩兵と共に砲塔を上に吹き飛ばしながら肉片が飛び散り、戦車が勢いよく燃えだす。
「……!! ビビッド伍長次弾徹甲弾! 装填急げ!」
マール一等兵には背中を2度蹴ってバックを指示する。
ギュイインとエンジンを吹かした第369号車は勢いよく後ろに下がり、砲塔を側面に向ける。
すると分隊行動をしているだろうと読んでいたが、3両分隊だったらしく、砲を横に向けているオーベルシュレージエン突撃戦車が2両いた。
ベレー軍曹はビビッド伍長が装填完了の叫びと共に、目の前に居たオーベルシュレージエン突撃戦車の前面装甲に向かって砲弾を発射した。
オーベルシュレージエン突撃戦車は黒煙を噴き出し、動かなくなる。
直ぐにマール一等兵の右肩を蹴り上げて前進させ、敵の戦車の背面に回り込み、最後の1両に徹甲弾をぶち込む。
するとエンジンが破裂したらしく勢いよく火が上がり、車内から火達磨になった戦車兵が勢いよく飛び出してくる。
周りで唖然としていたドイツ兵と軍馬が牽引していた大砲に榴弾を3発ぶち込んだあと、快速性を生かして戦場から離脱し、隊長車も敵兵に榴弾をぶち込んで戦場から撤退した。
「よくやった! 初戦から3両撃破の大戦果じゃないか!」
隊長の少尉は俺達を褒めてくれたが、興奮が冷めやまず、飲んでいるコーヒーの味がわからない。
泥の様なコーヒーを一気に飲み干すと、隊長に次どうするか尋ねる。
隊長は敵の尖兵と激突したと考え、一度補給に戻り、この事を上に報告する必要があるらしい。
先ほどの戦闘では損害は無かったが、燃料が残り半分になっており、一度補給に戻る判断は正しいと思う。
あいぼうである第369号車を見ると車体前面装甲に敵歩兵の血液が付着していた。
今回は運よく待ち伏せが決まったが、次はこうはいかないと思う……そうベレー軍曹は思いながら隊長の方を見ると隊長は地図を眺めていた。
「何か懸念点でも?」
「ドイツ軍がベルギーに侵攻して1週間……ドイツに近かったリエージュ大要塞は陥落したと聞く……先ほどの戦闘でも分かるようにドイツはベルギーの奥まで浸透してきている。となると……」
「ベルギーの首都ブリュッセルにもドイツ軍が浸透するのは時間の問題ですか」
「ああ、そうなる。補給後次なる目標はブリュッセルへ進撃してくるドイツ軍に対して打撃を与えることになるだろう。どうしてもこの快速戦車のシュナイダーマーク1は随伴歩兵を伴うことができない。戦車単独で動くことが多くなるだろう」
「敵が3両分隊で動いているのが分かった以上こちら2個分隊の4両で動いた方が良いのでは?」
「いや、それは難しい。戦車の有用性を理解していない反対派が戦車兵の増員の妨害をまえにしていた影響で車両はあるが戦車兵の育成ができていない状況が続いている。私のような見習いを卒業したばかりの若年士官が隊長をしているのがその証拠だ」
「確かに車長も殆どが軍曹が殆どで曹長クラスも少ないのですよね」
「ああ、機甲師団の内部が殆ど若年で構成されている弊害だな……ああ、ベレー軍曹、君も転生者なのだろ?」
「隊長はフランス人の転生者でしたよね」
「生き残ったらまた一緒にコミケに行くぞ。その為にも戦争を早く終わらせないといけないからな」
「オタクですね隊長」
「まーな」
補給を終えた第三戦車中隊第四分隊は隊長の指示通り、ブリュッセル近郊での遅滞防御の命令が出た。
ベルギー全土を第一機甲師団が機動防御戦術を取っている状況なので兵力が分散気味であるが、敵戦車の数が少ないこともあり、有効的な防御ができていた。
しかし既に第一機甲師団の保有する5%の戦車が敵の攻撃もしくは故障により破壊されたらしい。
補給で損害分をカバーできているとはいえ、ドイツ軍も手ごわい事がよく分かる。
ブリュッセル近郊に移動した第三戦車中隊第四分隊は移動後にガソリンスタンドで燃料補給をした後、偽装を施し、待ち伏せの構えを取る。
幸いブリュッセル近郊を守るのは第四分隊だけでなく4個小隊の16両で守る。
その中にはシュナイダーマーク1より装甲が厚く、ドイツ軍対戦車砲を弾くことのできるルークマーク3戦車が多数を占めており、敵の前面攻勢を防ぐ為に危険地帯を彼らが任されていた。
第四分隊は快速戦車なので攻撃が始まった箇所へ迅速に移動して攻撃することが求められていた。
雨が振り始め視界不良になる中、前方500m先に動く陰が見えたので双眼鏡で確認するとオーベルシュレージエン突撃戦車であることが確認できた為に徹甲弾を発砲。
隊長車も発砲を開始し、1発目は砲弾が目標の下に着弾したが、続けての2発目でオーベルシュレージエン突撃戦車の車体側面に命中し、火を噴き出していた。
隊長車も別の車両を撃破し、残り車両が1両となり、こちらがまだ発見されていなかったのでそのまま少し移動して、隊長車とクロス射撃ができる位置を取り、射撃を開始し、砲塔に2発、車体側面に1発の3発打ち込むとオーベルシュレージエン突撃戦車は動かなくなった。
ブリュッセルの戦いと呼ばれる戦車戦でフランス軍16両とドイツ軍30両の戦車が戦い、ドイツ軍は21両、フランス軍も8両の戦車を失うが、フランス軍がこの戦車戦を勝利し、4両のオーベルシュレージエン突撃戦車を鹵獲することに成功する。
直ぐにオーベルシュレージエン突撃戦車の性能確認がフランス本国で行われ、エンジン出力以外はやはりⅢ号戦車と同等であることや、足が遅い為に待ち伏せと750m以上離れた戦闘距離を保つことが出来ればオーベルシュレージエン突撃戦車に完勝することができると決定づけた。
しかし、戦車の性能ではわずかに勝っていても、多くの車両を撃破されている事実からフランス軍上層部はドイツ軍が5cm対戦車砲を用意してきた場合に備え、新型戦車を開発するように命令するのだった。
それとブリュッセルの戦いでフランス軍が勝利を収めたが、ドイツ軍の大軍を撃退するには至らず、戦いの翌日にはブリュッセルが降伏し、第一機甲師団はベルギー国民やベルギー軍の国外脱出を目的とした作戦に変更するのだった。
そしてベルギー国王アルベール1世はドイツ軍の進撃を何としてでも食い止めるためにも海岸沿いの堤防を破壊して国土を浸水させる一手を打ち込み、ドイツ軍将校達をもっても狂気と言わしめる遅滞戦術を実行するのである。
しかしこの遅滞戦術のおかげで多くのベルギー国民がフランスへの国外脱出に成功し、フランスにて軍事教育を受けたベルギー国民はベルギー軍として戦場に戻っていくこととなるのだった。
転生者達はこの先生き残れるのか!《大怪獣戦車バトル》 星野林 @yukkurireisa
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