伊土戦争終結!

 史実のように伊土戦争が始まり、フランスは観戦武官を送り込んだ。


 伊土戦争はヨーロッパの国同士で久しぶりに起こった大規模な戦争であり、日露戦争よりも戦場が立体的になっていた。


「想定通り塹壕戦に移ったか」


「塹壕による防御は厄介ですな。上官達が戦車の導入に躍起になっていたのがよく分かります」


「それにイタリアが飛行船を用いた航空攻撃に成功した。飛行船の建造費が高い為に大量生産までには至って無いが、飛行船を撃ち落とせる飛行機の開発と飛行機による爆撃が重要になってくるでしょう」


 観戦武官のフランス軍人達は転生者達が推し進める部隊の機械化に懐疑的な人物も居たが、塹壕戦を実際に見ると、それを突破できる可能性の秘めた戦車に注目するようになり、本国でもイタリアとオスマントルコが用いた塹壕を復元して実際に戦車が塹壕を突破することができるかの実験が行われた。


 ルークマーク1を用いたところ全長を伸ばしたことにより登攀能力が上がっていた為に塹壕を登ることや乗り越える事ができ、対戦車を意識して塹壕の幅を広げれば砲弾を防ぐ能力が低下し、逆に塹壕の幅が狭ければ戦車は楽に乗り越える事が出来ると結論付けられた。


 その結果から塹壕に対して戦車は有効であると意識されるに至る。


 観戦武官達は塹壕戦の他にもイタリア海軍の動向についても研究を重ねていた。


 イタリアは海洋国家であり、統一及び近代化が他のヨーロッパ諸列強に比べて遅れていたが、独自に戦艦を建造できるだけの国力を有しており、総動員をしてもある程度耐えられるだけの体制を構築できていた。


 一方でオスマン帝国はヨーロッパの病人と言われるだけ政治的にも軍事的にも弱体化しており、イギリスに国威の象徴たる戦艦の建造を依頼しなければならず、しかも戦艦の予算を政府が抽出できなかった為に国民の募金で足りない分を賄うという脆弱性を見せていた。


 伊土戦争勃発からイタリア海軍はオスマン帝国海軍を圧倒し続け、オスマン帝国の補給線を遮断し、リビアにおける軍需物資や人員の輸送が海上封鎖によりできないという事態が発生していた。


 オスマン帝国軍は兵数の不利によりゲリラ戦に移行し、イタリア軍を苦しめることになるが、イタリア軍も大軍を展開できるほどリビアの都市の補給能力が脆弱であり、各都市に分散し要塞化することで持久戦に移行した。


 戦局が大きく変わったのはイタリア軍に正規戦を挑めないくらい弱体化したオスマン帝国ならば独立出来るとバルカン半島の国々が独立運動を開始し、第一次バルカン戦争が伊土戦争と並行して勃発。


 流石に地理的にオスマン帝国も兵士を送り込む事が出来たが、ロシアや二重帝国より支援を受けたバルカン半島の国々の軍事力は弱りきったオスマン帝国軍を撃退するだけの力を持っており、フランスも旧式になっていた小銃をギリシャに輸出し、支援を行った。


 これにより伊土戦争どころでは無くなったオスマン帝国はイタリアと講和を結び、イタリアの要望をほぼ受け入れる形での講和となりイタリアの勝利で戦争は終結した。


 伊土戦争の後半には車両を用いた偵察がイタリア軍によって行われ、それにより馬よりも俊敏に機動偵察が出来ることが判明し、その時に使われた車両がドライエ社製の車だったことで各国の注目を集める結果となり、シェル1型エンジン搭載車両は簡単に時速100キロ以上を出せることでも注目された。










 伊土戦争が終わり、各国は戦争の研究を開始する。


 フランスは塹壕戦と航空攻撃に着目し、飛行船ではなく飛行機による爆撃が可能か研究することとなり、爆撃機や攻撃機の研究を進め始める。


 フランス空軍転生者達による技術力のごり押しで他国に先んじてプロペラ同調装置及び曳光弾の開発に成功し、高い対空攻撃能力を獲得。


 シェル1型エンジンを航空機用にチューニングした物を搭載したニューポール17擬きの戦闘機が既に生産されていた。


 航空機メーカーのニューポール社にも転生者が経営権を確保しており、いち早くシェル1型エンジンを入手し、それを元に設計したニューポールⅢを生産ラインに組み込んでいた。


 元のアラビア数字だと史実のニューポール戦闘機と混同するために今世ではローマ数字が使われていた。


 ニューポールⅢは他国と比べると先進的な戦闘機であり、最高速度は160キロ、航続距離は280キロ、実用上昇高度は5000mと元となったニューポール17に比べて航続距離が伸びた以外は性能が落ちているが、エンジンをより強力な物に取り替えれば性能が向上するように作られていた。


 フランス同様にイギリスでも航空機に着目し、史実ではヴィッカースF.B.5と呼ばれる戦闘機の試作機がフランスが航空機に注目していることを知ると史実よりも前倒しで研究が進められていた。


 ドイツは飛行船の方にも着目し、グラーフ・ツェッペリン級飛行船の改良と量産に予算を割き、それと同時に飛行機の開発も行う大国ぶりを発揮。


 こうした航空機の開発が行われているのを見ていた転生者の1人が航空機レースの開催を提案し、民間機に限るという条件でエアレースを1912年に世界で初めて開催し、興味を持ったイギリスとイタリアの航空機メーカーが参加した。


 フランスは航空機メーカー8社に主催者が話し合いを行い、技術の昇華を目的に参加して欲しいと募ったところ、8社共に自社の航空機の宣伝になるからと参加を表明し、リオレ社、ニューポール社、モラーヌ社、ブレゲー社、サルムソン社、そして飛行機を最初に作り上げたライト兄弟に転生者達が資金提供を行って創業されたライト飛行機、ライト兄弟に触発されたコードロン兄弟が創業し、飛行学校も作ったコードロン兄弟飛行機、アントワネット社が機体とパイロットを用意した。


 他にもイギリスが2社、イタリアが3社参加し、合計13機で戦うこととなり、結果はライト兄弟のライト飛行機がシェル1型エンジンを搭載した機体というのもあり優勝。


 2位に同じくシェル1型エンジンを搭載したニューポール社、3位も同じエンジンのコードロン兄弟飛行機が優勝し、フランスが5位までを独占。


 6位にイタリア、8位にイギリスの航空機メーカーが入るという結果となり、フランスの新聞では大々的に報道された。


 イギリスとイタリアは自国航空機がフランスに大きく遅れていると衝撃を受け、第二回や第三回のエアレースでは巻き返しを狙うべく予算と技術研究に熱意を持って取り組むこととなる。


 フランス側もエアレースではシェル1型エンジンが他国より優れていることが明確に判明したが、更なる性能向上や軍用機の受注、研究予算の追加を行い、機体やエンジンの性能向上に力を入れていくこととなる。


 また同様に陸上機だけでなく水上機のレースも開催されたり、曲芸飛行が頻繁に開催され、航空機に興味を持つ人がどんどん増えていくことに繋がるのだった。









 着々とターニングポイントとなる1914年が近づく中、フランス陸軍はフォッシュ中将と幻想会の政治力で陸軍機甲部隊の創設に成功し、世界初の戦車を運用する部隊として歴史に刻まれることとなる。


 ルーク社のルークマーク1だけでなく、シュナイダー社がルークマーク1を参考にサン・シャモン突撃戦車やシュナイダーCA1が開発されたが兵器としては欠陥も良いところなので使える兵器に改造しろと厳命され、各自動車メーカーや戦車の研究をしているチームが意見を出し合い、結果としてシュナイダー社が会社の技術とコネをフル動員させてロシアから開発依頼を受けて開発した105mmカノン砲をフランス陸軍仕様に改良したシュナイダー1911 105mmカノン砲を搭載したシュナイダー105mm自走砲が完成し、水平射撃から曲射による砲撃をもこなす車両が完成し、天板が無い為航空攻撃に弱いが、その分砲弾の装填が早く行えるし、居住性も良く、閉塞されてないので車内に熱が籠もらないメリットがあった。


 他にもルノー社が開発したルークマーク1を更に大型し、シェル1型エンジンを2機載っけ、180馬力を出せるようにしたルノーB1重戦車(BIGのB)が納入されると機甲戦力も揃いつつあった。


 ただ主力はルークマーク1であり、1914年には1500両の車両を軍に納入予定であり、軍用トラックや原付きバイク、装甲車両等も続々と納入され、機甲部隊は規模を師団にまで拡大し、フランス第一機甲師団と呼ばれるようになるのだった。


 初代師団長にはフォッシュ中将、師団参謀にはガムラン大佐、第一機甲連隊の連隊長にはペタン大佐が就任し、将来フランス軍を担う軍人かつ機甲科への適性がある人材は次々に第一機甲師団への引き抜きを受けることとなり、転生者では無いがシャルル·ド・ゴール等も青田買いで師団に組み込まれる事となる。


 勿論騎兵からは大きな顰蹙を買ったが、フォッシュ中将の調整能力と弁舌で抑え込み、しかも将来の機甲師団の拡張を見越して下士官にも将校クラスの教育を受けさせる事となり、エリート集団として見られるようになっていくのであった。

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