就任!ルーク重工業の社長へ!

 フランスは豊かな土壌と農業に向く平地が広がる農業に向いた国土をしている。


 そのため食糧を生産する能力に優れておりここ最近では農業用トラクターの導入、化学肥料の生産、品種改良を進める転生者達の力もあり、年々食糧生産量は上がってきていた。


 史実のフランスも食糧自給率125%と他のヨーロッパ諸国に食糧を輸出する側であり、この世界のフランスでも食糧は重要な外貨獲得の手段であった。


 そのため農家に目をつけたPM社の軽トラ販売やルノー社、ルーク社などの自動車企業も農業用トラクターや農作物を運ぶトラックを販売して利益を出していた。


 しかし、まだ過渡期というのもあり、農耕馬が現役であり、更に車両の値段が下がらないとどうしようもないだろう。


「というわけで家の会社はリース契約で稼ぐぞ」


 俺の言葉に自動車販売を営業部の転生者達は理解していたが、そうでない者達は困惑していた。


 リース契約は月額支払いをすることで現物を先に手に入れることのできる仕組みであり、リース契約で購入すれば一定期間後に本購入にするか売るかを選ぶこともできる。


 売る場合はルーク社は修理して中古として商品を売ることができるし、お客さんはルーク社のクーポンで他の車や次の契約をする時に割引で契約を結ぶことができるようになっていた。


 まだまだ大企業とは言えないルーク社はサービスの質で大企業と戦う必要がある。


 農家の皆さんもトラクターが欲しいがなかなか一括での購入には踏み切れないので月額での支払いの方がありがたいだろうということでのサービスだった。


 営業の人達が現金の回収をする必要があるが、営業の中で地域住民とコミュニケーションが取れれば新しく車を買う時にルーク社を選んでくれるだろうという目論見もあった。


 本当は銀行振込をやってもらいたいが、銀行のシステムがそこまで発展していないし払い忘れとかもあるだろうから人が回って回収するしか無い。


 まぁサービスがフランス全土に広がれば支店も増えるのでルーク社の拠点が増えることにも繋がる。


 大企業になるための1歩である。


「企画内容は書類に纏めてある。異論ある者はいるか?」


「はい、これだとお客様が支払わない場合だと泣き寝入りになるのでは?」


「そしたら裁判して商品の差し押さえだ。回収して修理して中古で販売したら損は無い」


「はい、回収要員が一軒一軒回ると人員も手間も凄いのでは?」


「値段の高いトラックや重機に限ることにするつもりだ。普通の車ではやらないから回収要員の数もそれほど多くなくて済むだろう」


 色々な質問があったが、大きな問題にはならず、リース販売が1911年よりルーク社はスタート。


 本拠地のヴィシー周辺も農地が多いことやヴィシーの他の企業が重機販売まで手が回っていなかったこと、鉄道敷設ブームによる鉄道敷設用重機を求める企業からの注文の殺到によりリース契約を次々に結び、予想以上の収益に繋がった。


 まぁトラブルも多発したが予想の範囲内である。


 で、自動車部門をいつまでもルーク社の1部門にしておくのも業務上支障が出るとして親父に言って重工業部門(自動車含む)と缶詰などの軽工業部門をそれぞれ独立させた上でそれらを纏めたルークグループとし、部門事に会社を設立させた。


 大砲製造部門は戦車砲は砲弾を開発する上で必要だったので重工業に取り込み、社名をルーク重工業へと変更し、俺ことシャルルが社長へと就任し、転生者達を次々に重役に抜擢し、若くて転生者の多い企業へと進化することに成功し、転生者達の意見を吸い上げて企業利益をどんどん上げていったことで、幻想会の重役会議の末席として参加することができるようになった。


 勿論参加者の中だと最年少であるが……。


 参加者を見ると若手政治家や官僚の事務次官クラス、軍だと佐官や連隊長、企業だとフランス飲料メーカーのオランジーナカンパニーの社長(オランジーナが本来売り出されるのは1936年から)やPM社の社長、フランス鉄道組合の役員や造船に携わっている会社の社長、家電製品の開発を続けている家電大手の5社、フランス全土に新聞を届ける新聞社やFMラジオ放送に成功し、世界で唯一の民衆向けラジオ放送を行っているNラジオ局の局長などそうそうたる顔ぶれである。


 史実で見たことのある顔だと前にも見たがフィリップ·ペタン氏やモーリス・ガムラン氏、ポール・レノー氏、そして幻想会最大の大者かつ纏め役のフェルディナン・フォッシュ中将も会合に参加していた。


「うむ、定刻となったので会合を始める前に新顔の紹介だ。ルーク君」


「はい、ルーク重工業の社長していますシャルル·ルークでございます。前世では日本の自動車の製造に携わっていました。現世の大学では戦車開発に携わらせていただきました」


「ご存じの通りルーク社の若社長のルーク君だ。軍に納入している戦車も彼の工場が約3割を製造している」


 フォッシュ中将が補足をしてくれた。


「えー、若輩ながら私ジョルジュが会合の進行役を務めさせていただきます」


 司会を務めるのはアルフォンス・ジョルジュ氏でフランス人転生者であり、前世ではアルジェリア戦争後期にアルジェリアで武装勢力と戦闘を行い、その後フランス外人部隊の反乱の武装解除に参加したりと転生者の中でも少ない前世で実戦経験のある人物であった。


 ちなみに現在は少佐の地位でフランス参謀本部にて陸空軍共同作業計画の立案と戦車を用いた機動防御戦術の研究、迅速な大規模動員についての研究を行っているらしい。


「えー、今回の会合では空軍内で行われている同人誌即売会を拡大したパリコミケの開催についてで……」


 俺は議題を聞いてズッコケてしまう。


 ただ参加者達は本気だ。


「いやここはフランスで大人気な戦隊モノで」


「いや、怪獣と戦うフランス軍という題材で軍の人気を広げるべき」


「流血表現は抑えるべきか?」


「日本を知ってもらうために日本の漫画を描いてみるべきでは」


「出版ブースの広さは」


「告知はどうすべきか」


「エロがある作品は2日目にするべきだろうか」


 というのが本格的に議論されるカオス空間が広がっていた。


 俺がその光景に頭を痛めていると少し年上でNラジオ局の局長のリバーさんが


「慣れておいた方が良いですよ……ここに居る大人の殆どが萌えか燃えに毒された人しか居ませんから……」


「は、はぁ……」


「いつもはもっとまともな議題も多いのですが、多分今日はこの調子でしょう。まったくそろそろ伊土戦争も近いというのに」


「伊土戦争にはフランスは義勇軍は送るので?」


「いや、イタリア側で観戦武官を送るにとどめるらしい。軍としては戦車の実験がしたいらしいが、このままだとドイツとの戦争までお預けかもしれんな」


「ここにいる人達はドイツと必ず戦争になると?」


「時期がずれ込むと思うが、フランスが力を付けてくれば先に叩き潰そうと優位なうちにドイツは戦いを挑むだろう。切っ掛けをドイツは常に探している。遠くないうちに戦いを挑んでくるだろうというのが幻想会の考えだ」


 対ドイツの考えは下に通達されているのと上層部の食い違いは無く、必ず挑んでくると見ていた。


 そのためにいかに初撃を殺し、反撃に出るかという計画が練られていた。


 参謀本部はプラン17という作戦を立案していたが、幻想会派閥の将軍や軍人達は戦車を集中運用したルヴァーンシュ作戦(復讐作戦)を計画していた。


 そのためには戦車1000両、航空機500機が必要とされており、北フランスの防衛計画として存在していた。


 敵はシュリーフェン・プランもしくはそれを修正した計画でパリの早期占領を目指してくると確信していた為、迂回範囲の大きいドイツ側から見てドーバー海峡に近い北側の部隊を戦車と航空機の部隊で側面攻撃を仕掛ける計画であった。


 それが失敗し、長期戦に移った場合やルーク戦車が通用しなくなった場合に備えて新型の開発も依頼されたが……。








 上層部の会合は予想以上にフランクというかオタクの集まりであったが新型戦車開発の予算が下りた為、今度は既存の大砲に耐えうる防御力の高い戦車開発を求められた。


 一番最初にフランスで硬くて防御力の高い戦車として思い浮かんだのはアヒル戦車ことAMX40だったが将来性を考えるとソ連のT-34の様な戦車を開発した方が良い気がする。


 まぁ技術の問題でそれ以下の車両になると思うが……。


 フランス軍は早期に戦車開発ができた利点を最大限活かし、他国の数段先の戦車を開発しようと躍起になるのだった。

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