ゴーストウイルス
白井イシ
第1話 死んでないだけ
僕には家族がいない。今は叔母さんの家に住んでいる。
叔母さんの家は千葉県の新幕張市の閑静な住宅街にある2階建てで庭つきの一軒家。
ただし僕の部屋はない。主にベランダで過ごしている。
一緒に暮らしているがあまりごはんを食べさせてくれない。
たまにごはんをもらえるが、家の中では食べさせてもらえない。だからいつも僕はベランダで過ごす。
それでも僕は満足している。だって死ぬことはないから。僕は学校に行ってない
同い年の親戚の子は今、近くの中学校に通っている。僕も中学校に通いたいと、叔母にお願いしたことがあったけど家を追い出すと脅され、通うことはあきらめた。
僕には12歳より前の記憶がない。
両親がどんな人なのかわからないし、叔母は両親とは仲が良くなかったらしく、前に両親について聞いたときは殴られた。
少し前は自分の過去を思い出そうとしたが、最近はそれどころじゃないから何もする気が起きない。
「ご飯できたよ~早く食べてぇ」
甘ったるい声が聞こえて目が覚めた。リビングには暖かそうな朝ごはんが並んでいて、おいしそうに食べている叔母の家族がいた。
「はい、お前ご飯あげるから早く食べなぁ」
僕は叔母から差し出された弁当をもらった。
「ありがとうございます」
叔母に感謝し、お腹が空いていたのでお弁当を勢い良く食べた。
「汚い食べ方ねぇ」
小さい声で悪口を言われた。僕はなるべく申し訳なさそうな顔をして叔母さんに謝った。
「ごめんなさい叔母さん。ちゃんと食べます」
「何回同じことを言わせるのかしら。本当手がかかるわねぇ」
「ごめんなさい」
「死なれても困るから、のどが乾いたら皆がいないときに水道水飲んでよねぇ」
僕が謝る姿に見飽きたのか、そう言い叔母さんはベランダから家の中に戻った
太陽が空の真上に来た頃、僕はリビングに叔母の家族がいないことを確認して、リビングに入った。テレビがつけっぱなしだった。
『速報です、現在東京・歌舞伎町でビルが爆発する事故が発生しました,現場近くにいた人は……』
ビル火災のニュースだった。ニュースキャスターは建物の爆発について話していた。最近ではあまりにも多い建物の倒壊や爆発に対して2年前の大地震や近年増加している失踪事件と関連づける人も増えているらしい。
よくそんなことを考えられるなと思いながら水を飲んだ。
僕はそんなニュースを見ていたがその瞬間、強い地鳴りとともに家が揺れた。慌てて窓を見た。するとベランダの外に綺麗な同年代位の女の子が立っていた。泣いているように見えた。
ただすぐに異変に気が付いた。ここは二階、周りに木などは無い。どうやって上ってきたのか理解ができず困惑していると、女の子が助けを呼ぶような顔をしながら這い上がろうとしていた。
僕は助けるためにベランダに移動し、女の子を助けようと手を取って僕は驚いた.腕sの本数が2本じゃなかった。
「いいでしょ私の腕」
先ほどとは打って変わって寒気がするほど不自然な笑顔をした女の子がいた。
「君の体食べていいよね」
その質問に答えようと顔を上げると、視界は暗闇が広がった
目が覚めると知らない天井が見えた。
「お!目が覚めた」
知らない人が話しかけてきた
「あのーどなたですか?」
「すまんすまん。わしは喫茶店の店長をやっている杉下というものだ」
僕は今いる場所がわからず混乱した。その様子を感じ取ったのか杉下さんという名前のおじいさんがここは病院だと答えてくれた
「わしがたまたま散歩してる時に庭で血だらけでけがをしてるのが見えてね……」
「どうも」
今気が付いたがおじいさん以外にも僕と同年代に見える少女が奥に隠れるようにいた。
「その子が君が血だらけで倒れてるのを見つけてね」
どうやら救急車を呼んでくれたのはその少女らしい。
「救急車呼んでくれてありがとうございます」
僕はようやく状況を把握し、お礼をした。
「君。気を失う前変な物を見なかったか?」
おじいさんは期待している顔で言ってきた。
僕はすぐに思い出した。だけどあまりにも不自然な状況だから不審がられると思って見てないと言ってしまった。
「そうか……。何か思い出したらここにいるから来ると良い。ご飯も出すぞ!」
笑顔でそういうとおじいさんは少女を連れて病室から出た。手元には名刺があった。
名刺にはおいしそうなスパゲッティが映っていた。
「お腹空いた」
喫茶店のおじいさんと一緒にいた女の子が病室から去って1時間位した時。叔母さんが病室に入ってきた。ハイヒールの音を激しく鳴らしながら僕に向かって一直線に向かってきた。
僕は殴られると思って目をつむった。すると強烈な香水の匂いが僕の鼻を襲った。
「心配したのよ!」
いつもと違い僕を心配してくれた.そう思ったのも束の間だった。
「迷惑かけるんじゃないよ」
気のせいだった。いつも通りの怖い叔母さんだった。
「すみません」
僕は謝ることしかできなかった。僕が謝ると叔母さんはストレスがなくなったのか、皺だらけの眉が少しましになった。
「二度と病院に行く真似しないでね!」
全く温かみの無い笑顔を見せて叔母は病院を去った。
「あのおばさん怖い…」
どうやら叔母さんの声がすこし周りに聞こえてしまったらしく、僕の右隣のベットにいたまだ小学1年生くらいの男の子がおびえていた。
「あのおばさんはもう来ることないから心配しなくて良いよ」
「そうなの?」
「お兄ちゃんはどうして病院に来たの?」
「僕?僕はちょっと高い所から落ちちゃってけがしちゃった」
「そうなんだぁ。ぼくはねサッカーの練習中に足をけがしちゃったんだ。試合にもしばらく出れなくなっちゃった」
「そっかぁそれは残念だね」
「でもぼくにはヒーローがいるから寂しくないんだよね!」
そういうと男の子はフィギアを見せてくれた。どうやら毎週テレビで見ているらしい
「おおかっこいいね」
「でしょ!でしょ!」
男の子は自分のことのように喜んでいた。僕はその笑顔を見て自然と笑ってしまった。
しばらく僕と男の子はヒーローについて話していた。気が付けば病室の壁は夕日の光でオレンジ色になっていた。
男の子は少し眠そうにしていた。僕も久しぶりに人とたくさん話して眠くなっていた。だがすぐに目が覚める出来事が起きた。女性の悲鳴が聞こえたからだ。人が壁に叩きつけられたような音や何か物を切り裂く音も聞こえた。
異常に思える声に僕も隣にいた男の子も目が覚めていた。
「お兄ちゃん!」
男の子は青ざめた顔になっていた。僕はフィギュアを男の子に持たせた。
「大丈夫だよ一緒にいよう!」
「うん…」
男の子は今すぐにでも泣きそうなのをこらえていた。
沢山鳴り響いていた悲鳴は止んだ。ただ、今度は骨が折れる音が病院に響いた。
僕と男の子は震えることもできなかった。何も考えられない
「ぉいしぃ」
声が近くなっていった。声をよく聞くとベランダで襲ってきた女の子の声に似ている気がする。
だったらまずい。
僕はおびえて動かない男の子を落ち着かせながらベッドの下に隠れるよう指示した。
男の子が静かにうなずきベッドの下に隠れたのを確認した後、急いで僕も隠れた。
足音と人の叫び声だけが病院に響き渡った。
その足跡もどんどん大きくなっていく。もう扉の前にいる気がする。
その予想は的中した。ドアを殴る音が室内に響いた。できるだけ息をひそめた。
「お腹空いた。食べていいよねぇ!」
「ベッドから出て!」
急いでベッドから出た。先ほどまで隠れていたベッドには大きな3つの爪が刺さっていて、それは気を失う前ベランダで出会った少女の体から生えていた。
「君その…」手どうしたと言い終わる前にベットが真っ二つに割れた。
僕は男の子の手をとって病室を一目散に抜け出した。廊下は血で汚れていて滑りやすく、人間だったものがそこら中に転がって何回も転びそうになりながら逃げた。
「うわあっ!!」
「立って!」
男の子が転んでもうあの化け物が追い付いてきた。
「もう追いかけっこやめよーよー」
そういい化け物はもう右手を振り上げていた。
僕はとっさに男の子の盾になるように前に立ちふさがった。
すでに化け物の刃は僕の脇腹に刺さっていた。痛みにこらえながら僕は怪物の腕をつかんだ。
「お兄ちゃんは大丈夫だから早く逃げて!」
「でも…」
「早く!」
呼吸が荒くなっていった。
腕を捕まえているのも限界。気持ち悪い、手の感覚がなくなってきた。
その時廊下の窓の割れる音がした。廊下の先から人間らしき人影猛スピードで走ってきた
そいつは人間というよりも動物に近かった。そいつは鋭い爪で怪物の腕を切り落とし、蹴り飛ばした。
化け物はけられた衝撃で気を失い、切り落とされた右腕から大量の血を流していた。
「どうも」
僕はその声に聞き覚えがあった。ただ見た目があまりにも違いすぎる。
「あんた、感染してるね」
感染?何のことか理解できなかった。考える時間も与えられずに僕は気絶させられた。
ゴーストウイルス 白井イシ @shiroiishi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ゴーストウイルスの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます