4. ガーティンローのプチぷよ文官騎士
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ときはイリー暦195年、春。
アイレー大陸南東、沿岸地域に集在する“イリー都市国家群”。その中央部にあるガーティンロー市では、多くの人びとが今日もにぎやかな生をまっとうしていた。
きちょうめんに敷かれた平石だたみ、民家でも上階があるのが当たり前のどっしりした建物、地元産石材をふんだんに使った街並みは赤っぽい。
石灰岩をくりぬいた角壇や巨大な素焼の植木鉢にも、ふんだんに花々があふれる。
さくら草にしゅうかいどう、天竺葵、じきにほころぶ予定の小ばらのつぼみ。
赤い花ばかりが植えられて目立つ。当たり前だ、ガーティンローはあかい国。人々は自分たちの中に流れる、あたたかい血潮の色を好んでいる。
その血をぎゅっと煮詰めたような濃い
少し離れた脇を、急ぎ足の騎士三人が通り抜けていった。
かつかつかつ、がちゃがちゃがちゃ。
軍用長靴の硬い底、腰にさげた長剣のたてる音が、やかましく彼らについてゆく。
考え事にふけるベッカは、気にも留めない。
最高級のなめし革でできた短め長靴は、どこまでもやわらかくベッカの足音を消す。肩からさげたおそろいの革製鞄は、もっちりした腰にはね返っても行儀よく弾むだけ。
武器を持たないベッカは、横むけ壮大なその見かけに反して、そよ風みたいにすいすいぷよん、と歩く青年なのである。
ずんぐりした
鎖鎧と長刀で最重装備をした衛兵役の騎士らと、ふた言み言ことばをかわして、またすいすい歩いてゆく。
重い木の扉を押してベッカが内側へ入ったのを、ちろりと見流してから、若い衛兵がぷっと噴きだす。
「相変わらず、面白い幅の取り方してんな。あんな小っせえのに、すげえ貫禄だ」
もう一人の衛兵も、それにつられてくすりと笑う。
けれど柵門を両手で閉めた壮年の衛兵は、きっと二人をねめつけた。
「口を慎みなさい。彼は、ガーネラ侯によばれて来たんだ」
若い二人は、口元に漂う笑いをかみ殺した。
「我々にできないことを、やってのけるんだよ。あの文官は」
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