第40話 告白いただきました
俺が舞台の中心で主役を張れるような登場人物なら、きっと今頃は裏庭で綿矢さんとちゃんと話ができていただろう。
しかし、俺はそこにいない。
俺がいるのは電源の落とされたモニターが並ぶ情報学習室。
別に裏庭に行くことに
古沢に仮眠を妨げられたせいで、午後の授業で眠気に襲われて、再び奉仕活動を命じられたところだ。
綿矢さんにはLINEで裏庭には奉仕活動で行けないって伝えたから大丈夫だろう。
ちなみに今日の活動内容は智慶祭の来場者アンケートの集計だ。なんでも担当の実行委員会の生徒が智慶祭が成功した安心感からか風邪をひいて寝込んでいるらしい。
アンケートに書かれている質問項目の五段階評価の集計と自由記述欄の内容の転記……。
こういうのって、最近は
無駄に愚痴っても終わらないので集計用の表計算ファイルを開く。
とりあえず、五段階評価の集計から始めるか。
ガラッ
「お邪魔します」
教室の前方のドアが開きそこから顔だけを出す綿矢さん。
「ようこそ、放課後奉仕クラブへ」
「なんかその響きいやらしくない?」
「想像力が豊かなようで」
「あー、ひどい。私にだけいやらしい部分を押し付けた。ここは一緒に共犯になろうぜ」
綿矢さんは俺の隣の席に座るとパソコンの電源を入れた。
こうやって手伝いに来てくれたってことは怒っているわけじゃなさそうだ。
「ありがとう。手伝いに来てくれて」
「まあ、クラスメイトが大変な時は助けに来ないとね」
鞄のチャックを開けて中からコーラを二本取り出した綿矢さんは一本を俺に差し出す。
「長丁場になりそうだから、これでも飲まないとやってられないよ。ちなみに、丹下君の分は鷹見さんから。今日は塾があって来れないから代わりに渡しといてって」
伊緒は塾なんか行っていない。あいつには専属の家庭教師がいたはず。
これもあいつなりの手助けなのだろう。
「サンキュ。でも、この教室、飲食禁止だからな」
「そうだっけ?」
俺の忠告を聞かなかったようにペットボトルを開けてると、そのままコーラを一口飲む綿矢さん。
「このくらいの校則違反は私にとっては日常茶飯事だからね」
ニッと笑って歯を見せる綿矢さんはもはや聖女様の称号を返上したかのようだ。
俺もペットボトルを開けてコーラを飲んでから、
「今日の昼休憩は心配してくれてありがとう」
「あ、あれは……、鷹見さんが丹下君がカツアゲされてぼこられてるって言うからびっくりして」
「伊緒にやられたな。それにしても、あの時はちょっとアイリスぽくなかったか?」
古沢は慌てていたから気付いてなかったみたいだけど。
綿矢さんは椅子を九十度回して俺の方を向くと眉間にしわを寄せてじとーっとこちらを見る。
「私が学校でどんなふうにいるかは私が決める。大切な友達を守るために偽った姿でいることが足枷になるのなら、そんな姿は躊躇なく捨てる。私も友達にはちょっとおせっかいなの」
「大切な……友達」
再び椅子を机の方に向けてコーラを一口飲む綿矢さん。
「昨日さ、久しぶりに女子だけでお茶しに行ったんだけど、やっぱり、なんかしっくりこないんだよね。別につまらないってわけじゃないけど、なんていうかスリルがたらないというかさ」
「言っとくけど、俺と一緒の時にスリルが多いのは俺のせいじゃないからな」
「あー、そうやって私を危険人物みたいにしちゃう」
綿矢さんは流し目でジトっとこっちを見る。
事実の指摘だから悪く言わないで欲しい。
「背景の一部みたいな俺と危険人物な綿矢さんが仲良くしていると、これからもエグイ噂が流れるかもしれないけど本当にいいのか」
「まだ、そんなこと気にしてるの? イージーなやつよりエグイくらいの方がいいよ。そうだね、陰で言ってるうちは黙っておくけど、正面切ってくるならブチのめすから」
腕を曲げて力こぶをだそうとしてるけど、その腕は柔らかそうだ。
「リアルファイトはやめてくれ。保護者呼び出しになって理事長先生が来たら学年主任や生徒指導の先生がちびるから」
「それはそれで見てみたいかも」
本当にそうならないようにヤバそうなときは俺が全力で止めないと。
そう、こうやって、最初からなんでもないいつもの会話から話せばよかったんだ。
一人で考えて俺が思う一番いい方法なんて難しいことを考えなくても。
結局、俺が考える最善の一手が相手にとって最善なこととは限らない。
だから、こうやって話しながらどうしなきゃいけないか考えていく。
「ねえ、丹下君、なんでコーラ飲みながらニヤついてんのちょっと怖い」
キモイって言われるより怖いって言われる方がマジな感じがして傷つくこともあるからな。
「別にニヤついてないし。それより、ちょっとお願いがあるんだけどさ」
「お願い?」
「そう、きっと、今言わないと後悔すると思ってる」
このまま、何もなかったようにしても綿矢さんとは元の関係に戻れるだろう。
でも、それじゃ、ダメなんだ。
俺のせいで綿矢さんを傷つけているし、きちんとけじめをつけないといけない。
綿矢さんも何かを察したのかこっちをのぞき込むように見る。
そんなに見られるとハードル上がるんだけど。
小さく深呼吸をして、気持ちを整えてから綿矢さんと目を合わす。
「綿矢雫さん、これからも俺と友達でいてください」
綿矢さんの反応を見るのが怖くて途中から目を瞑ってしまった。
しかし、言い終えても綿矢さんから返事がない……。
恐る恐る目を開けるとニヒーと笑みを浮かべた綿矢さんがいた。
「ついに、丹下君から告白いただきました!」
「いや、告白じゃないし」
俺の言ったこと聞いてた?
「視野が狭いね。付き合うだけが告白じゃないよ。コラボカフェに行った日、私だって勇気出して告白したんだからね」
「だ・か・ら、告白って言うのはそういうのじゃなくて」
「そういうのじゃないなら、どういうやつかなー」
思わず俺の考える告白を想像してしまい顔が熱くなる。
「……し、知らない。ほら、作業するぞ。アンケートが山のようにある」
アンケート用紙を見てるはずなのに全く内容が頭に入ってこない。
「えー、教えてよー。わからないと、私、うっかり告白しちゃうかも」
「ちょ、ちょっと、告白なんていうのは友達になって、時間をかけてお互いのことをよく知った上でっ、ひゃふっ」
俺の大事な話は、綿矢さんから繰り出された脇腹つつきによって遮られた。
「私たち、もう、二年以上の友達だし、正直になろうぜ」
「いや、俺たちは友達だから!」
綿矢さんは頬杖をついて口を尖らす。
まったく、学校なのにアイリスモード全開だ。
「やっぱり、丹下君は丹下君なんだよなー。私にベッドであんなことしたのに」
「ベッドであんなこと?」
「お見舞いに行った時のこと。覚えてないでしょ」
そうだ、すっかり忘れてた。あの時、俺が何をしたかまだ教えてもらってなかった。
あの時のことを聞いてもいつも秘密としか教えてくれない。
「しょうがない。ちょっとだけヒントをあげよう」
綿矢さんは立ち上がると俺の後ろに移動した。
「えっ、ヒントってな――」
――ちゅっ。
あまりに唐突で俺が全く予想していなかったそれに俺は身動きがとれなかった。
今、頬に当たったのって……。
「わ、綿矢さん、今の……」
「ヒントだよ。ヒ・ン・ト」
悪戯な笑みを浮かべながら椅子に座る綿矢さん。
今のがヒントって!? 一体あの時何があった?
「さー、そろそろ作業しないと終わらなよ。幹事殿仕切ってください。私は言われた通りに動きますから」
「い、いや、今のヒントって」
慌てる俺を無視するように綿矢さんは人差し指を口に当てる。
「これ以上は秘密。だって、まだ友達だから」
〈第一部完〉
― ― ― ― ―
ここまで読んでくれた読者の皆様ありがとうございます。
長編の連載は一年ぶりになりました。ご無沙汰しております。浮葉です。
連載初日からお付き合いの方は一か月以上に渡り応援してくださいまして誠にありがとうございます。
本作はカクヨムのランキングの傾向を無視するように#ヤンデレ、#貞操観念逆転、#NTR、#ギャルゲー、#ざまぁ、#主人公最強、#タイムリープ等々の要素が入っていないド健全作品となっております。
こういう作品があってもいいんじゃないのって気持ちです。
さて、ここからはお願いになりますが、本作品は皆様からのレビューコメントを募集しております。
また、最終話の
最後になりましたが、今年はいろいろな告知ができる予定でございますので楽しみにしていただければと思います。今年は昨年以上に作品を書いていきたいと思いますので応援のほどよろしくお願いします。
【完結】聖女様は本当の姿を知っているモブの俺にだけデレる 浮葉まゆ@カクヨムコン特別賞受賞 @mayu-ukiha2
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