第4話 陽キャの姉とぼっちの俺
「馬子にも衣装といったところか」
洗面所の鏡に映る自分の姿を見ながら呟く。
ついにアイリスと一緒にコラボカフェに行く日がやって来てしまった。
「何言ってるの。今日の
腕を組んでうんうんと頷きながら自画自賛しているのは
「そ、そうか」
「私が選んだ服を着てるってところが大きいけどね」
「そっちかよ」
大学生の七海姉さんは俺と違ってコミュ力が高くて、友達もいて、サークルにも入っていてと充実のキャンパスライフを送っている。
そして、無類のプリン好き。プリンがすごく美味しかったという理由で、そのプリンを出しているカフェでバイトをしているほどだ。
まったく姉弟でこんなに差がつくものかな。
「でも、服は姉さんがいなかったらどうにもならなかったから助かった」
「そうね。龍ちゃんのセンスだと黒い服ばかり選んで影が動いているみたいに見えるか、闇に紛れし暗殺者みたいだからね」
「悲しいけどあまり否定できない」
姉さんが選んでくれた爽やかな青のシャツと黒い細身のズボンは派手過ぎず俺が着ていても違和感がない。
「龍ちゃんが友達と遊びに行くから服を買いに行くのを手伝って欲しいって言ってきた時は驚いたよ。まさか、こんな日が来るとは……、龍ちゃんもついに大人の階段を昇ってしまうのね」
「ちょ、ちょっと、そんなんじゃないって、本当に友達と遊びに行くだけだから」
「だけど、そうやって見た目に気を使うってことは女の子とでしょ」
「た、たぶん……」
「もー、たぶんなんてもったいぶって」
ボイスチェンジャーおじさんの可能性がゼロじゃないから「たぶん」で間違ってないし。
アイリスは自称、可愛い女子高生ということだ。おしゃれにも気を使っている子かもしれない。そうだとしたら、俺が闇に紛れし暗殺者のような格好で行くのはまずい。
俺が隣にいることで、アイリスが恥ずかしいと思うことは避けたいところだ。
「友達だとしてもそうやって気にしてくれてるってことが嬉しいものなのよ」
「そういうものなのか」
「そういうもの。じゃあ、あとはその野暮ったい髪もこれを使えばちょっとはマシに」
姉さんはヘアワックスを手に取ると手櫛で俺の髪をいじっていく。
自分の髪からフルーティーな香りがするとそれだけで今日はちょっとイケてる気がするから不思議で怖い。
「どう? いい感じじゃない」
鏡に映った姿はどう見てもさっきより野暮ったくないから文句が言えん。
ブーンブーンブーン
アラーム設定をしていたスマホがバイブして、そろそろ出発した方がいい時間だと伝える。
「ありがとう、姉さん。そろそろ時間だから行くね」
「今回の報酬はプリンでOKだから」
ウインクを決めながら報酬を提示する姉さん。
「了解」
いつもより多めにお金を入れた財布を肩掛けの鞄に入れて靴を履いたところで、
「龍ちゃん、わかっていると思うけど、避妊はちゃんとしないとダメだ――」
「ないから。そういうのないから。安心して」
食い気味に否定すると、姉さんはニヤニヤしながらいってらっしゃいと手を振って見送ってくれた。
まったくこれだから陽キャというやつは。
こういうふうにいじられるから姉さんに友達と遊びに行くなんて話したくなかったんだ。
― ― ― ― ―
今日も読んでいただきありがとうございます。
あすはいよいよコラボカフェへ。
皆様の応援が何よりの活力でございます。よろしくお願いします。
次回更新予定は12月4日AM6:00です。
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