第3話 聖女様と奉仕活動(後編)
綿矢さんは一体どういうつもりだろう。ただ同じクラスなだけの俺の……、それも居眠りの罰でやっているようなことを手伝ってくれるなんて。
もしかして、後で法外な手伝賃を請求されるんじゃないか。
残念だが俺の財布の口は週末のアイリスとの約束があるから今は固く閉ざされているぞ。
「あの、綿矢さん、手伝ってくれるのは嬉しいけど、大したお礼はできないよ」
「お礼なんていらないですよ。同じクラスの人が大変そうなので手伝っているだけですから」
何言ってんだ。この人は!?
俺だったら最低でもコーラ一本は要求するところだ。
ここまで言われてしまうと、手伝いを拒むこともできず俺と綿矢さんは黙々と作業を進めていく。
しばらく作業を進めていくなかでふと思ったのだが、綿矢さんの声ってアイリスに似ている気がする。
同じクラスになって数カ月が経つが今まで全く気が付かなかった。というか、今日の会話量が今までのトータルの会話量よりも多いからしょうがない。
しかし、声は似ているけど話し方というか話している時の雰囲気はだいぶ違う。敢えて言えば、声質が似ているという感覚だろうか。
清楚系で丁寧な話し方の綿矢さんに対して、アイリスはノリが良くてちょっと先輩ぽくて同性に近い話し方だ。
言葉のチョイスだって違う。
きっと、綿矢さんは次々出てくる敵に対して洒落臭いって言わないし、自分のことを可愛い女子高生だなんて絶対に言わない。
「ところで、綿矢さんはゲームはする?」
そう、これは一応の確認のような質問だ。綿矢さんが俺と同じようなゲーマーなはずがない。
「ゲームですか。そうですね。嗜む程度には……」
嗜むってどのくらいだよ。
きっと綿矢さんのような子がやるゲームって、スマホでやるような可愛いキャラクターが出てくるパズルゲームだったりするのだろうけど。
「丹下君はどうですか」
「俺はよくやるかな。いつも一緒にネットのゲームをする友達がいて――」
「ちーす、
気だるそうな声で教室に入ってきたのは、クラスで一番小柄な女の子の
そのロリっぽい見た目に反して話し方は意外とサバっとしていてギャップがある。
「ぼっちじゃなきゃ死ぬ病気とかじゃないから」
「あら、鷹見さんも丹下君を助けに来てくれたのですか?」
伊緒が現れたことに特に驚く様子もなく笑顔で声を掛ける綿矢さん。
「えーっと、ボクは丹下がぼっちで大変かなって……」
跳ねている毛先を指で摘まんでいじりだす伊緒。
黒髪を低め位置でツインお団子にしているけど、毛先をまとめずバサバサさせている髪型は、クラスの女子たちの話によると、なんでも、海外のアイドルの間で流行っているらしい。
「さっき助けに来たって言いかけてただろ」
「同中の好で格安で助けてるってことだよ。後で、新作のフラペチーノ奢ってくれるなら――」
「それなら、綿矢さんはお礼なしで手伝ってくれているから間に合ってるぞ」
伊緒は何っと眉間にしわを寄せて綿矢さんの方を見る。
「雫、こんな奴のために貴重な時間を
「こんな奴で悪かったな」
「お金のことなら心配しなくてもぼっちだから貯めこんでるはず」
「俺は俺でお金の使い道があるっての」
「困っている時はお互い様ですから」
俺と伊緒のアホなやり取りにもにこやかに対応する綿矢さんからは後光がさしているように見える。
まったく、同い年なのにこの差はなんなのだろう。
「しょうがない。今日はボクもお礼なしで手伝うか」
「それなら、鷹見さんもこれを」
綿矢さんは俺に渡してくれたのと同じように伊緒にも指サックを渡す。
これで戦力は三人。何とか最終下校時間までには終わりそうだ。
― ― ― ― ―
今日も読んでいただきありがとうございます。
今回は短編版にはいなかった伊緒が登場しました。
皆様の応援が何よりの活力でございます。よろしくお願いします。
次回更新予定は12月3日AM6:00です。
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